〜束の間の休息〜
その後しばらくバカみたいに忙しい時間が続いた・・・。
柚花の予想は外れて、その後3時を過ぎるまで目が回る忙しさが続いて柚花はもちろん千歌や紅葉も忙しすぎてぶっ倒れそうになっていた。
「うう・・・疲れたよ。」
満身創痍で椅子に座ってもたれ掛かる柚花は珍しくヘロヘロであった。普段忍者の仕事や学校での活動ではここまで満身創痍の状態になることは無いのだが、今日の異常とも言える客の多さで頭と身体が悲鳴を上げているのだろう。
もちろん満身創痍なのは柚花だけではない。
ずっと接客をしていた千歌は注文を聞いたり料理を運んだりで大慌てで、走り回ることもしばしばあった。
「はうう・・・柚ちゃん、なんで今日はこんなに忙しいの・・・?」
柚花以上に満身創痍でやつれた顔をして椅子に座って真っ白に燃え尽きている千歌。
久し振りのお手伝いがまさかここまで忙しいとは思わなかったから千歌は体力以上に精神もボロボロであった。
接客って身体よりも精神的にキツいから肉体的ストレスよりも精神的ストレスの方が溜まる。
「分からないけど・・・。多分近くにあったチェーン店の喫茶店が潰れたからかなぁ?普段見ないお客さんもいたから。」
「あぁ・・・そういえばあったね。私何度か行ったことあるけど良くも悪くも普通だったかな。あと値段が高過ぎる・・・。」
柚花の家の近所には大手チェーン店の喫茶店があったが近年の物価上昇でドンドン値上がりしていき、いつの間にか客付きが離れてしまった。
「あそこはチェーン店だからバイトも雇っているからね。うちはあたし達が手伝うから基本的に人件費0円見たいなもんだから。だから喫茶店は個人店が強いの。」
「そっかぁ・・・。でもバイト欲しいよね?特に今日みたいな日は・・・。」
「うん・・・。」
柚花と千歌、2人が駄弁りながら満身創痍の身体を休めていた時、突然ピアノの音が聞こえてきた。
2人が音の方向を見るとそこには紅葉がピアノを引いていた。
柚花の家の喫茶店では客がいる1階にピアノを置いており、紅葉は普段から暇が出来たら1階でピアノの引いている。当然客が居てもだ。
「紅葉ちゃんのピアノの音、私好きだな。ねぇ柚ちゃん、紅葉ちゃんは来年うちの高校の音楽科に来るの?」
「うん、一応その予定だよ。でもウチの高校は偏差値高いからねぇ・・・。」
柚花の高校は偏差値68、音楽科は60。華やかな女の子が多く、校則もユルユルだから県内1の人気校である。
そして倍率も高いから紅葉は焦っている。
「お姉ちゃんであるあたしとしては受かってもらいたいけど・・・どうだろねぇ。」
「でも姉妹で同じ学校に通うって良いよね。少し憧れるなぁ。」
千歌は弟2人妹2人いるが歳が離れているから同じ学校に兄弟姉妹で通うことは夢の様な事である。
「そうかな・・・?」
少し考えたが柚花には良く分からなかった。
そして柚花は疲れ切った身体をゆっくりと動かして椅子から立ち上がる。
「取りあえずコーヒー飲もうか?この夕方から第2のピークが来るから今のうちに糖分摂取しとこ?」
「うん、そだね」