表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
死後屋のいろは  作者: 杞憂蛇
序章
6/20

三叉路の邂逅(4)

途端に、抜いた足から力が抜けた。

明らかにわかるのは二つ、アレは生物じゃ無い。

全体が真っ黒、私の身長を優に越す程の大きさ、その大きさで塀の上に立つ体幹、生物としておかしいだろう。

そして、アレは私を見ている。

確実に、私の方を、静かに見ている。


「何……?あれ…?」


狼が動き出す、最初はぎこちない動きで首をひねり、そのひねった動きのままどろりと空気を這う様に降り立った。

それに呼応して、危機感が脱力感を制した。

麗夜は即座に立ち上がり、2,3歩ソレを見据えながら後ずさる。

ソレは2,3歩と言わず歩みを進める。

真っ黒の見た目がハッキリと見えてくる。

そいつは口の中も、爪も、頭から尻尾まで何もかも真っ黒な何かであった。

ふと、その口から黒い液体が溢れ落ちる。


「……?」


ソレがニタリと笑った気がした。


「ッ!!!」


全身の毛が総じて逆立つ。

気づいた時には背を向けていた。

自転車を起こす余裕もなく走っていた。

後ろからやや早まった足音が聞こえる。


(まずいまずいまずいまずい!!!)


アレはダメだ、近づいてはいけなかった、死ぬ。

脳が次々と後悔の警鐘をならす。

こうしてる間も、徐々に足音が早く重くなっている気がする。

角を曲がって少し後ろに見やる。

やはり着いてきている、黒い前足が…


「………は?」


何故かソレは異様に、元からそうだったかの様に、大きくなっていた。


「何…で?」


体に紛れる双眸が再び私を見据え閉じていた真っ黒の口を開く。


「────────!!!!!!!」


吠えた。

ただ轟音が鳴る。

近づいてきた。

…ただひたすらに、生物はそれを恐れている。


「はぁっ…はぁっ…」


私も、それが恐ろしいのだろう。いや、現にそうだから


「はぁっ…!はぁっ…!はぁっ…!!!」


おぞましい何かが呻き声を放っている。

私を、


「っ………!!!!」


嫌だっ、嫌だ嫌だ嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌!!!!

想像した途端、足の裏の感覚が消える。

恐怖で自分の五体がどこにどうあるのかもわからない。

ふと、何かに、そう、何かに

蹴つまづいた。

立ち直れず、私はそこで、止まってしまう。

振り向くとそこには、大きく空いた口がある。


「……ぇあ」


いつか見た。何度も見た。


「嫌だ」


通じるはずもない。知っている。


「嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ」


生暖かく湿った空気が体を包む。


「嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌」


湿りの源が、私の全身を迎えようとする。


「いやだぁ!!!!!!」

「じゃよなぁ!!!!!!」


ゴッ、という低音が鳴る。


「………!?」


死を待っていた体に、まだ感覚がある。

反射的に構えた両腕を下ろし、ようやっと目を開け状況を確認する。

遠くには、件のあの化け物、が横たわっている。

そして私の前に、妙な女が現れた。

こっぽり下駄に、白い着物、髪は朱色を放ち、その右手には妙な紋様の金槌を携えていた。


「突然の急襲と、出会ってハナからお主の鼻に私の金槌をぶち込んだ事を詫びさせてもらおう。悪いの。」


妙な口調を加えたその人は手元の金槌とともにくるりと回ってこちらを見据える。


「やぁ少女!災難だな!!」


この出来事こそ、私とその世界の、初の邂逅であった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ