三叉路の談合(2)
「あー…そう、それでね何か三叉路に関するオカルト話とかあるかなって。」
花鈴は真面目に聞いており時々相槌を打って話し終えるとじっと考えていた。
花鈴はこういう優しい子なのだ。
そして思案が終わったのか十数秒して口を開く。
「わたしね。話のオチはもうちょっと強くした方がいいと思うの。」
…花鈴はこういう子なのだ。
それはまぁ私も思ったが、
微妙な空気が流れる。
「まぁ…無くはないよ、そういうオカルトの。」
「そーなの?」
朝の妙な体験は既に恐れでは無く疑問へと変化、というか戻っていた。
「うん、近い話だと十字路とかかな」
一般人であっても、オカルトの類いでは良く聞く話だ。
「十字路…たしかあれだ、幽霊がよく居る道だとかなんとか…」
「正確的には、幽霊の通り道と繋がってるってされてるの。」
綺麗な声で咳払いをし、一拍置いて語りを始める。
「ある夕方の日…あたしぁ…ただただいつもの道を帰るのが変に気に食わなくなって、ちょいと遠回りして帰ることにしたのさ。」
初老の女性のような雰囲気で話し始める。
でも可愛い。
「どしたの」
「怪談のレクチャーだよ。こほん…そんでねぇ、ちょいと歩いたところで妙に周りがシンッ…てしてる事に気づいたんだ。」
少しずつ話に力がのる。
「家に帰ろうとしてたのに、ふらふらふらふら知らない道を歩いてて、こりゃあいけない…ついにボケが始まったかなと思ったんだ。」
身振り手振りをつけながらおどろおどろしく話す。
「だが、歩いても歩いても、似た様な景色ばっかで、帰れやしない。んで、ふと気がついたんだ。『……私はどこを歩いてんだ?』ってね。」
気がつけば聞き入っていた。
既視感のある世界だからこそ、常人以上に敏感に感じているのだろうか。
「気づいた途端焦って焦って、ぐるりぐるりと辺りを見たんだ。私が立ってたのは…十字路のど真ん中だった。ボーッと来てたせいか、私がどの道から来たのかすらもわかんなくなっちまった。」
「………」
「色んなとこにかけて回ったがどうもおかしい
どこに行っても十字路に戻ってきちまう。
そんである時、変なもんに会ったんだ。」
顔をぐいっと近づけて目を合わせて来る。
思わず少し引いて、固唾を飲んだ。
「真っ赤な日に照らされた塀の上に立ってる。妙な奴がいたんだよ。真っ黒で四足で、犬って言うには馬鹿みたいにデカい。でも器用〜に塀の上で立ちながら、こっちをギランと見たのさ。」
合わせた目をさらに見開く。ギランという効果音が似合う目をした。
「そいつは口ん中も、爪も、腹も何もかも真っ黒な奴だった。私は足がすくんじまって…そのまま喰われちまったのさ…。」
…おい君今なんて言った
「今なんて?」
思わず思考と声が連動してしまった。
「オチは作るのが難しいって話。」
「なんでよ!?途中まで良かったじゃん!!」
少し肩が下がる、これが拍子抜けと言うやつだろうか。
その様子を見たのか花鈴がムスッとする。
「だって得体の知れないバケモノだよ!?襲われなきゃダメじゃん!」
「いやそこはこう、バッグを投げて逃げたとか」
「そんくらいで逃げれたらバケモノ失格だよ。」
この怪談好きはどこに拘っているのか、わかってないなぁと言わんばかりに笑みを見せる。
「というか、私オカルト話が聞きたいって言ったんだけど」
「怪談はオカルト話じゃない?」
この可愛い天然ピンク馬鹿には説明が足りなかった様だ。
もしかしたら相手に伝わると思って説明を省いていたのかもしれない。
少々反省を挟んで本題を聞いた。
「創作だったでしょうが、私が聞きたいのは巷で噂になってる都市伝説とか怪奇現象とかそういう類の話。」
少し花鈴はポカンとして、困ったような口調で言い放った。
「…えっと、そんなの最近のJKが話してるわけないじゃん。いっちゃん大丈夫?」
………あっ
「…そうだよねぇぇぇぇぇ…」
自分の阿呆さに少々頭を抱えた。
……………………
あの後心配そうな目を受けながら、手製の御守りを貰った。
見た目は紐で閉められた木の小箱、手に隠せるくらい小さいものだが、何か中に入っているようである。
曰く「開けなかったら守ってくれるけど、開けたらすっごい呪われるんだってさ!オカルトっぽいよね!!」だそうだ。
友人を思うのなら設定だけでも100%善性の御守りを送って欲しいものである。
さて、時は夕刻とも言わない午後3時頃、
満天の青空、絶好の帰宅日和である。
校門でペダルに足をかけ、帰路につく。
もちろん私はいつも通り最短の道を通っていつも通り家に帰るのだ。
興味に駆られてあの三叉路に行くつもりなどは全くない。
いや、そもそもあれは睡眠不足からの幻覚かなにかであって学校でしっかり睡眠をとった私に死角などないのだからきっと三叉路に来ても何も起こらないはずだ!」
辺りは朝に何度も見た住宅街であった。
(…来てしまった。)
人間は好奇心と探究心には逆らえないのである。