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壱章

「…つまり、ローズさんが死んだ…というのは演技で、ずっと私がどう動くか見てた…と?」

「ええ、ゲロ吐いてるとことか面白かったわ。」

「…………」


酷く綺麗な微笑みだ、きっとこの人は加虐趣味なのだろう。

曰くあの腕振りを当たる直前に回避して、悟られないよう隠れて見ていたらしい、微塵も分からなかった。


「あぁそう、霊力出しなさい。出せるようになったんでしょう?」


ローズは肩に載せたイチマルを地面に降ろし、どこからともなく例のミルクティーを出すとラベルを剥がした。


「何するんですか?」

「いいから」


再びイメージを構築して手のひらから霊力を出す。

さっきと違う、落ち着いた青色の霊力が手のひらから流れ出てきた………ところでコレは底とか無いのだろうか。

考えていると溢れそうになって慌てて穴を閉じた。


「ふわふわ。」


思考していると、先ほどの毛玉が私の手のひらに張り付いて来た。

それは私の霊力にまきついて、花粉を運ぶミツバチのように体に付けて離れていく。


「あの、さっきから思ってたんですけどなんなんですかこの毛玉みたいなの」

「『ふわふわ』よ、私の能力。霊能力者はときたま固有の能力を発現するの。貴女にもいずれ出るわ。」

「マジですか。」

「マジよ、また死地に飛び込んだら早いとこ発現するかも知れないわ。」

「うげ……………」


あからさまに嫌な顔をしたが気にも留めない。

そのふわふわの体についた霊力を指先に付けて、習字のようにラベルの裏に紋様を描いていく。

霊力の赤がラベルに染み付いて、一分も経たないうちに描き終えた。


「ほら犬コロ、入りなさい。」


ペラペラとしたラベルをイチマルにかざすと、イチマルの体が滑らかに吸い込まれた。


「消えた!?」

「仮の外殻を与えたわ。帰ったら二十か永國辺りに見せなさい。まだ式神じゃないんでしょう?」


紋の入ったラベルをくるくると巻いて麗夜に投げる。


「シキガミ…」


珍しく聞き馴染みのあるスピリチュアル用語だ。


「使役した霊の事よ、漫画とか読まないの?」

「読まなくはないですけど…こういうのって札とかにするものなんじゃ…?」

「割となんでもいいわよ。紙が好きな人多いらしいけれど、あぁほらアレよ、タバコと同じよ。」


だいぶ違う気がする。

さっきはすごかったがやはりこの人かなり適当だ。


「さて、することもしたしとっとと帰りましょう。」


と袖から札を出して空中に貼り付ける。

札は大きくなって戸のように開き、青い空を映し出す。

ローズが先に出たのをみて急ぎ後を追うと、ふわりと暖かい空気が身を包んだ。

どこか気味の悪い夕暮れのような世界に慣れたせいか、久方ぶりの青空に軽い感動を覚える。


「すー…はぁー……はぁーー……」


肩から力が抜けるほど空気がおいしい、気がする。


「お疲れ様、任務終了よ。ほら、ご褒美。」

「あ、どうも」


渡されたのはミルクティーであった。


「………………」

「…不満そうね。」

「えぇまぁ…」


不満を訴えるとローズは眉をぴくりとしかめた。


「それはそれとしてちょっと貴方ゲロ臭いわよ。」

「事実だとしてもやめてもらえます!?ありがたくいただきます!」

「よくって。」


嘔吐の感覚も必死になってたせいで完全に忘れていた。

口の前に掌をやって口臭を確認すると乙女にあるまじき匂いがしてしまったので、急ぎ口内を洗い流す。

喉が焼けるほどの砂糖の味で味覚中枢が破壊されていくなか、紅茶の香りが鼻を


「ゔぇえぇ………」


やっぱり砂糖で何もわからない。


「乙女にあるまじき声ね。」

「ぞっずね…」


今度は口元から鼻の奥まで甘い匂いしかしなくなった。


「流石にかわいそうだから何か食べさせてあげる。ちょうどお金も入ったとこだし、何か要望は?」

「ファミレス…」

「図太いわね。」


クスリと笑うと、車に乗るように促される。

生来比べるものがないほど疲れたが、全身の緩んだ筋肉の隙間に風が通るような良い気分だ。

乗り込む前に公園を向く。

そういえば、あの怪物も死人なのだろうか。

誰も使っていない公園には錆びた遊具と、撤去され新しくなったであろう遊具が等しく虚しくそこに或る。

新しい遊具は最近の風潮なのか、安全性に長けて危険の少ない、いえば遊び心の無いものだと思った。


「……………」


…まぁ、知ったことではない、知らないのだから。

そう思ってふいと公園を後にして車に乗り込んだ。

ファミレスではハンバーグを食べました。

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