ローズナイトさんと学ぶ異界の歩き方(1)
本日二度目の乗車、ようやっと車が止まり、フラフラとしながらドアを開いて地に崩れ落ちる。
安定した地盤がこんなにも愛おしい。
頭部はガクガクと揺れ、シートベルトがなければ軽く鞭打ちになっていただろう。
元凶である件のゴスロリことローズナイトはケロッとしていて、私を凝視しながらペットボトルのミルクティーをゴクゴクと飲んでいる。
「…なんでしょう」
「貴女も車に乗るのが苦手なの?」
「貴女の車に乗るのが苦手なんです。」
「そう?何人かに言われた覚えがあるわ。飲む?」
どこからともなくもう一本同じメーカーのペットボトルをこちらに差し出す。
一瞬躊躇ったが喉の奥のぐるぐるとするつまりを流したいので甘んじてもらった。
「…………………うわっ…」
一口飲むと余計に気持ち悪くなった、甘い、甘すぎる、溶けきっていない砂糖を飲んでいる気分だ。
口元を拭いて辺りを見渡す。
ローズが車を走らせてついた先はただの公園だった。
「ここですか?」
「えぇそうね。ちょっと待ってなさい。」
ローズが物の多いトランクに服を気にせず頭を突っ込む。
難航しているようなので公園の中に目を向ける。
真ん中の滑り台がついた遊び場は新調されたのか他の遊具に比べればやけに小綺麗だ。
それほど大きい公園というわけでもないが公衆トイレもある。
しかし、ある程度設備が整っているのに私の耳には雑草の揺れる音しかしない。
その光景は寂しさや不気味さを覚えるより先に、もはや風景の一部として機能している。
「いいかしら?」
いつのまにか探し物を終えていたローズが私の手に何かを持たせる。
手のひらを確認すると、(恐らく)能面のストラップがあった。
「…なんですかコレ」
「増女の面よ」
「いやだからなんで今渡すんですか。」
「すぐにカッカしないことよ、これはね、周りにいる霊の強さを判別する道具、通称増メーターよ。」
私の前にかざすと、その面の薄い目がパチリと開く。
声には出なかったが微妙に怖い。
「使い方は…あぁそうだ、貴女霊力の使い方わかんないんだったわね。ひとまず異界で話しましょう。」
ローズは袖から札を出して虚空にそれを貼る。
札はスゥッと消えて、代わりに虚空がぼやけて歪む。
「さっ、行くわよ。」
返答を待つことなく麗夜の手を引いて歪みに入る
なんとなく、ごぷりと、まるで弾力のある水の壁を通ったような奇妙な感覚を覚える。
景色は変わった気がしない、しかしあの時と変わらず『何かが違う』という感覚が肌をつつく。
間違いない、異界だ。
ローズはチラチラと辺りを見渡して、麗夜のもう一つのもう一つの手を掴む。
「さて、まずは霊力の使い方ね、いいかしら」
「すみません霊力ってなんですか。」
サラッと言われたが新しいワードが出てきた。
手を掴んだローズが面倒臭そうな顔をする。
「…まぁ、後で説明するわ、感じた方が早いし。」
本当に説明がない。
手を繋いで数秒、見合っているので気まずくなっていると、途端に手首に穴が空いた、いや、そんな感覚を覚える。
痛みはなく、ただ肉の内側を何かが通っている。
手を引っ込めようとしたが、腕がぴくりとも動かないほど強く掴まれている。
「逃げないで、この感覚を覚えなさい。」と釘も刺される。
「まずは目ね、次に耳、あとは体に慣らして、次は出す訓練ね。」
宣言通りその感覚は目を、耳を、色が塗られるように丁寧に流れていく。
奇妙な感覚は1分ほどすると体に慣れていた。
体の中に流れる感覚は慣れれば昔からあったように思う。
麗夜自身が掴んだのだ。
「どう?わかった?」
「え?まぁ、多分、なんと、なく?」
体の中を巡る何かが感じ取れる、なるほど、コレが霊力か。
気づかないうちにローズの手は離れていたが、しばらくぼぅっとしていた。
「じゃあ周りを見て」
「はい…はい?」
目を疑う。
麗夜の目に『異界』が見えた。
世界はまるで夕刻のような色で、白色に輝くはずの太陽は黒く光る。
目を何度瞬かせても変わらない。
「これが異界の景色、見えたようね。」
麗夜は底知れない何かに足を踏み入れたことを、自身の上がる口角と共に理解した。




