二十の提案(2)
私はなぜこうも好奇心や欲に弱いのだろうか。
赤信号で停車した車内で思い返す。
───1時間前───
『死後屋に来い、私が、己を守る術を教える。』
「…己を守る、術?」
ポカンとして言葉を反復する麗夜に二十は答える。
「うむ、お主が私のように、あのような奴らをバーンとぶっ飛ばせるようになって欲しい。」
二十が指で犬のサインを作って、それを指で弾いた。
アレ…というのは、影の狼だろう。
高速で迫る真っ黒の牙を思い出した。
「いやいやいやいや!無理ですよそんなの!」
猛烈に拒否するが、二十は冗談のつもりもなく言う。
「いんや、余裕も余裕、お主の素質が有れば、あんなのがあと10匹いてもぶっ飛ばせるわ!」
「…マジですか?」
二十は腕を組んで答える。
「マジじゃ。」
麗夜の心は揺れまくっていた。
あの化け物のような奴らに襲われるならば、いつか必ず死んでしまうだろう。
それに、表立って知られていない謎の超能力…いやいやいやそれと命を天秤にかけてはいけない。
好奇心を司る麗夜を理性の麗夜がとどめる。
「…今後も守ってもらえたりとか」
「出来んことはないが、金をもらうぞ。ウチもそこまで優しくはない。」
「参考までにおいくらで?」
「依頼料月額8000円」
命を掛けているにしては良心的ではあるだろうが、少々理不尽ではないか。
麗夜は苦い顔をした。
「じゃあその、死後屋に行くと言うのは?」
二十がふふんと鼻を鳴らして言う。
「技術講習を受けるのも異界からの逃げ方授業も、その他諸々まで、全てタダじゃ。」
理性の麗夜が揺れ始めた。
いや待て、こんなに美味しい話があるだろうか。
だが面白そう、いや、怪しい。
しかし活動は実際にみたのだから良いのでは?
そもそも自分の命が守れるのだ。
だからそう、その選択は別に好奇心を取ったわけではない命を取っているのだ。
「…じゃあ」
───────────
軽率な返事は冷静になった自身を後悔させた。
「どうかされました?」
運転席の男はうつむく麗夜を見て言った。
その後
現在麗夜は死後屋が用意した車で送迎をされている。
「あぁ…えぇ…いえ、お気遣いなく。」
「そういうわけにもいきません、貴方は二十さんの被害者ですから、うちの店長が粗相をしたならば責任を取る必要がございます。」
助手席に座っている二十が外を見て頬杖をたてる。
「支道くんやい、人聞きが悪いんじゃないかい。」
「あなたには怒ってるんですよこのアホ、連絡のない単独異界行動はもういいです。未成年を気絶させて持ってくるわ、その子の隣で経唱えるわ、挙句死後屋に入社させたとか、アホなんですかアホ。」
淡々と恨みつらみに暴言を吐き、ハンドルを壊しそうな勢いでギリギリと握っている。
二十はそっぽを向いたままで、部外者の私は理不尽に争いに巻き込まれていた。
というか私そんなことされてたのか。
「いやしかし、着いてこいと言っても着いて来んかったじゃろうし、経読んでたのは柘榴と珀砥じゃし、死後屋入社は体裁上で、わしが全部面倒見ると言ったじゃろうが。」
反論するが、金髪の男は意に介さない。
「あなたの視点じゃなくて私にどう見えてるかですよ。あ、この辺りでよろしいんでしたか?」
「えっ…あっはい。」
同じテンションで麗夜に話すので妙に怒っているように聞こえてしまう。
車のドアが自動で開き、降車を促される。
降りる寸前に支道という男が声をかける。
「契約の取り消しであればいつでも受け付けますので、安心してください。では。」
そう言って、車は大通りを走り去って行く。
麗夜は今まで過ごしてきた中で最も濃い1日を越えた。




