9) 閑話休題「ヒナ・レポート」
荒涼とした赤い大地の広がり、乾いた風が赤い砂埃を巻き上げる赤茶けた世界。水や植物に乏しく、生物が生存を模索するにはかなり過酷な世界、それがナフェス荒野。キングダム・オブ・グローリーにおいては辺境中の辺境として実装されたのだが、天然資源のドロップ素材やモンスターのドロップアイテムなど、入手出来る素材自体にもそれほどの付加価値は付かず、費用対効果に合わない地として、いつしか冒険や探検を旨とするプレイヤーたちからも見捨てられた世界となっている。
【ナフェス荒野】
・探索推奨レベル40(KOGのレベルキャップは現在レベル80)
・出現モンスター:サンドリザード、ラトルスネーク、バンディッド(NPCによる山賊)、バジリスク
・ネームドモンスター(固有の名前があるボスモンスター)バジリスク「グラディアン・デル・デシエルト」
・主な都市:ナフェスの街一箇所のみ。他はNPCによる限界集落が多数存在する
昨年の実装時、マップの目玉となった西海岸セントルビアスに比べて、あまりにも魅力の劣ったナフェス荒野はいつしか忘れられ、世間から姿を隠そうとするレッドプレイヤーたちの巣窟となっていた。ただ、とある探検家がナフェスの海岸で『望郷の蜃気楼』を目撃した事に端を発し、昨今になって再びナフェスが脚光を浴びる事となる。しかし、このフルダイブMMOフォンダジーRPG『キングダム・オブ・グローリー』の旅システムはシビアであり、疲労システムにより体力に負荷が蓄積すると行動に制限が付く事から、荷物運びのポーターや荷馬車などを用意した「キャラバン隊」を編成する必要があり、一般プレイヤーが気の向くままに訪れるような簡単な場所ではないのは事実である。
◆ナフェスの街の現状
NPCの人口は推定二千人
※家屋一件につき家族五名で計算、約三百件ほど存在すると推察
街は都市計画に基づき区画割りされたような整然とした街並みではなく、井戸の周りを取り囲むように密集して家が並ぶ貧民窟であるが、とある有志のプレイヤーが街の周囲に複数の井戸を掘って解放した事から家屋ごとの距離が離れ、それまでの密集スラムだった生活住環境が幾分改善されて来ている。
ナフェスの住人の主たる経済活動は農業であり、トマトやトウモロコシなどが生産されているが、乾燥地であり砂岩だらけの荒地である事から、品質は芳しくなく、加工などを施して二次生産品目として流通させよとの試みが成されている。
特筆すべきはサボテンやリュウゼツランから作られる純度の高い蒸留酒で、キングダム・オブ・グローリーでのアルコール摂取が世界的に脚光を浴びる事となった昨今、ナフェス産の酒が地域経済に大々的に貢献するのは間違い無いと言える。
※KOGバージョン4.0で実装された『体感出来るアルコール摂取』は、フルダイブ機能を利用した飲酒時の「酩酊感」は脳内だけで体感出来る事から、内臓・循環器などにアルコール障害の負荷を与えずに酩酊感を楽しめるだけでなく、麻薬や薬物のオーバードーザーに対する医療治療行為として脚光を浴びている。
ナフェス荒野の西海岸に浮かぶ絶景、『望郷の蜃気楼』と呼ばれる神秘的な自然現象を一眼見ようとする冒険家たちは、過酷な環境であるナフェス荒野を単なる通過点と感じるであろうが、そのナフェス荒野そのものが将来性豊かな土地となり得るのである。つまりナフェスは磨く前のダイヤモンドなのだ。
寄稿:担当記者ヒナ