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7) 筋道(すじみち)の通し方


 反社ギルドとはつまり、反社会的な行為を行うプレイヤーが集まって出来た団体の事を指し、具体的な内容としてはプレイヤーキル(PK)行為、そして装備品の掠奪、人質を取っての身代金要求など。実はこれらの行為はゲームルールによって『禁止』されてはいない。行為後のペナルティにより何かしらの制限を受けるのだが、それも含めた上でのゲームルールなので認められてはいるのだ。だが、チートツールの売買などは完全に禁止されており、発覚すればアカウントBAN対象となるので、よほどの者しか行う事は無い。

 つまり今、ヒロトの案内で反社ギルド『ジョステシア』の建物に入ったヒナは、ゲームルールにおいて許されている範囲の中で、悪意のある行為をしている組織を訪問している事になる。だがやはり、普段からそう言うアウトローなプレイヤーと接する機会が無かった事から、ヒナは存分に震え上がりながら足を進めていた。――全身タトゥー!トゲトゲの首輪に肩パット!あのルーチャのアジトにいた怖い人たちみたいに、ここもヒャッハー!な人たちばっかりなんだわ!――

 そう身構えながら階段を上がり、ヒロトから幹部専用と説明を受けた二階にたどり着くと、自分の抱いていたイメージと目の前に広がる光景のギャップの差に、アゴを外さんばかりの勢いで驚いた。


「え、えええ?何ここ?何で和風なのぉ!」


 ジョステシアの本部の一階は、洋風居酒屋と言うか(かす)れた木彫家具に彩られた、まるで西部劇にでも出て来そうな佇まいだったのに、二階に上がった途端に和風の玄関が来客をお迎えし、そして土足厳禁。磨き上げられて輝く廊下を奥へ進み(ふすま)を開けると……ヒロトがここを訪れた最大の目的が待っていたのだ。


「おう、ヒロトか!しばらくぶりだな」

「どうも安生(あんじょう)さん」


 角刈りやパンチパーマにスーツ姿の強面(こわもて)の部下たちを背後に並べさせ、ヒロトから安生と呼ばれた人物は応接ソファに深々と腰を据えている。ゲーム内のスキンで作り上げられたと言えど、極道の親分を地で行く姿はまるでVシネマの任侠ドラマを見ているかのようだ。


「遠慮するな、座ってのんびりしろや」

「そうも言ってられないんだよ安生さん。ちょっと話を聞かせて欲しい」

「お前さんがあらたまって顔を出したんだ、何でも答えてやるよ。そちらのお嬢さんはヒロトの連れか?何か飲むかね?」

「い、いえ結構です」


 現実の世界でも接点などある訳の無い極道社会、それを今目の当たりにしているヒナは膝がカクカクと遊んでいる。普段はオーガやゴブリンに対して剣を抜いては戦いを挑んでいるのだが、さすがに強面(こわもて)の人間には恐怖を覚えるのか、表情は固く尻込みしている。


「安生さん、今日はこのヒナさんが抱えた問題について、話を聞きに来たんだ。この街にルーチャってギルドがある事……俺は知らなかったよ」

「ルーチャか、つい最近出来たギルドだからよ、ヒロトが知ってる訳無えよ。それであれかい?お嬢さんのお仲間が捕まっちまったとでも?」

「ああ、そうだ。彼女は王都にあるウェブ雑誌の取材班で、望郷の蜃気楼を撮影するためにナフェスに入った」


 安生が真剣な顔つきで身を乗り出す。それは事の詳細が知りたいと言う彼なりのサインであり、気付いたヒロトはヒナに振り返って、詳細を話すよう促す。

 緊張でがんじがらめになりながらも、勇気を振り絞って説明を始めたヒナ。彼女の話によると、囚われた取材班のメンバーは二人で、リーダーの神官職と護衛のナイト職の二人。海岸で初めてヒロトに会った際に、街の反社ギルドに有償で道案内を頼めと勧められてナフェスの街に入ったが、一番最初に遭遇したのがルーチャのメンバーだったそうなのだ。ちなみに、ヒナが属するウェブ雑誌社とは、ゲーム運営側の厳しい審査を経てゲームの外……つまり様々なウェブ媒体にゲーム画像や動画をアップロードする事が許された、いわゆる『公式』配信者の事を言う。


「かかか!こりゃあお嬢さんたちの運が悪かったなあ」

「安生さん、笑い事じゃないよ。オレは結構頭に来てるんだぜ?」

「そうかそうだな、そりゃあ悪かった。ここはお前が作った街みたいなもんだからな」

「え!そうなのヒロト?」

「西海岸が実装された時、プレイヤーのほとんどが絶景のセントルビアスを目指したのさ。それに比べて荒野のナフェスは、街ももともとはただの貧民窟でな、ヒロトが貧民のために井戸を掘って田畑を起こして農機具を鍛えたんだよ」

「……安生さん、その話はいいよ。本題に入ろう」


 今度は安生の言葉を遮ったヒロトが前のめりになる。


「あんたがこの街に流れ着いた時、あんたがしてた事をオレは全て許した。プレイヤーキルや人質ビジネス、経済ギルドを介さない未認可の酒の密造や販売も。海岸に敷設した地雷原にすら口出ししないのも、それもこれも全て、あんたがこの街を力で守ると約束したからだ」


 ヒロトの瞳は怒りに満ちている。辺境中の辺境と言っても過言ではないこのナフェス街、ストーリーライン上でもNPC同士の窃盗・強盗・暴行・殺人が頻繁しているこの街の治安を維持するには、NPCの自警団ではまるで無力。ならば他方から逃げて来たレッドプレイヤーであっても、街の治安を守ると約束するならばその過去には言及せずに目を(つぶ)ると、ヒロトと安生は約束を交わしたのである。


「レヴォルシオンが暴れないように抑え込んでるのは評価するよ。でもね安生さんルーチャの存在を許して三つ(みつどもえ)になるのはダメだ、おまけに人質ビジネスの被害者まで出てる」

「そ、そりゃあ……だってようヒロト」

任侠者(にんきょうもの)を気取ってるんだろ?単なる悪党じゃないなら筋道(すじみち)の通し方ってのがあるんじゃないか?」

「分かってるよヒロト、約束通り俺たちだって挑んだんだ。……だがな、ヤツらに勝てねえんだよ……」

「勝てない?勝てないってどう言う事だよ」

「ルーチャのヤツら用心棒を雇っててな、それが多分……グリッチ使いなんだよ」



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