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25) ラストアタック――永久凍土の地下墳墓


 ――()れに(わらわ)の全てを与えよう――  言葉の取りようによっては心臓の鼓動がこれでもかと早まってしまうような一言だが、氷の女王の一言であれば内容は変わって来る。永久凍土の地下墳墓最下層、そこに囚われている娘の魂を解放したい。その気持ちに沿って戦うと決心した若者に対して、女王は無条件の協力を約束した。先の言葉にはそう言う意味が含まれていたのだ。

 しばしの間、鉄鉱石などの資源確保やデスペナルティで下がってしまったレベルを上げるために、ダンジョンの高速周回プレイをしている時も、緊急避難テントや食糧やポーション類も女王が提供してくれた事で、ヒロトの環境はみるみる内に良くなった。やがてストレージ99のスロットの一つも鍛造した槍で一杯になり、新たなアイデアで鍛造した「ジャベリン(投擲用短槍)」が、1スロット上限の99本まで貯められたのだ。そして氷の女王は提案する――槍であるならばそれらにも付与してやろう―― と。


「娘の事、頼んだぞヒロト。()れに全ては託した」

「やられても次があるから……そう言う甘えは捨てます。結果を楽しみに待っていてください」

()れも良い顔になったな、惚れ惚れするほどに見違えた。うむ、安心して待っているぞ」


 もう何度目のアタックだろうか……。毎度毎度女王に見送られながら地下への扉を開くヒロトだが、「行けるところまで行ってみよう」や「あわよくばクリアしたいな」などと言う“エンジョイ"な気配は微塵も発していない。明確な目的が生まれた以上、それをやり抜こうとする気概に溢れていたのだ。


「メイン装備のスピアに、マナジャミング(魔力妨害)の付与を施してくれた。今回はさらにストレージ99にストックしたジャベリンまで、マナジャミングの効果付与をしてくれた。女王がここまでしてくれたんだ、次はオレが彼女の想いに応えなくては」


 永久凍土の地下墳墓は途中でリトライの出来ないローグライクなダンジョンではあるが、幸いなことにマップがランダム生成される「ガチ系」ではなく、マップが固定化されている。つまり、このダンジョンにおいて今のヒロトの目的がはっきりしているならば、目的点までの最短ルートおよび、敵と極力エンカウントしないルートを策定するのは容易い。――準備は全て終わり、あとは結果を出すのみ。いちいち敵と遭遇するような無駄な労力を排し、いち早く結果にたどり着くのみだ。


 だがダンジョン攻略を始めてすぐに気付いた事がある。もちろんバッドニュースではなくグッドニュースでだ。

 ヒロトが新たに自分のモノとした「スロウアームズ」の武器の一つ『ジャベリン』、戦闘中にこの短い槍を装備してスロウアームズを発動させようとすると、画面に二択の選択肢が現れる事に気付いた。


 モードを選んでください

◆ダイレクトモード

 トップアタックモード


 エリアボスや階層ボスとの避けられない戦闘に突入した際に気付いたのだが、ヒロトはこの選択肢に驚嘆して喜んだ。(これこそオレの知るジャベリンだ!)と

 オレの知るジャベリンとはつまり、米軍の携行式多目的ミサイル・FGM148ジャベリンの事を意味するのだが、このミサイルランチャーには発射時において二種類のモードを選択するシステムがある。選択肢にあるダイレクトモードとは、家や要衝など建築物などに直撃させるためにミサイルが水平状態で推進するモードである。そしてトップアタックモードとは、発射時にミサイルが一度ホップアップ(急上昇)軌道を取ってある程度の高度を維持して推進し、戦車や戦闘車両などの装甲の比較的薄い上部を狙って着弾するモードを言う。いずれにしてもファイア・アンド・フォゲット(撃ちっ放し)機能なので、射撃時にロックオンさえしておけば、選択したモードで自律飛行して勝手に目標に直撃する自由度の高い武器なのだ。


 地下十階までの地下洞窟、そしてそれより深い地下墳墓については天井が低くてトップアタックモードは選択出来なかったが、破竹の勢いでエリアクリアを重ねて来たヒロトは地下二十八階に広がる大聖堂でそれを試してみた。相手はもちろん、ラスボスと勘違いしていたリッチ、究極の死と呼ばれた聖職者系アンデッドだ。


「大聖堂入室時にカウントダウン開始、ゼロになったら強制エンカウントで戦闘開始だったな」


 神霊力を肌で感じるかのような、大聖堂の荘厳な空間に降り立ったヒロトは、祭壇の前に立つリッチと目を合わせる。そして戦闘開始の画面エフェクトが始まるよりも前にジャベリンを構え、リッチに対してロックオン。トップアタックモードを選びながら早々に槍を投げた。


「スロウアームズ!天より貫け……ジャベリン!」


 それは先制攻撃の合図であり、ヒロト側が仕掛けた逆強制エンカウント。これによりリッチはアクティブ化されて「人間、虫ケラノ分際デエェェェッ!」と吠えるのだが、リッチの見せ場はそこで終わりを迎える。大聖堂の天井スレスレまで上昇したジャベリンがギュン!と向きを下方に変えて急降下。リッチの首元から背中の腰元へ深々と突き刺さったのだ。


「グギャアアア!オノレ、オノレ人間メエ!」

「マナジャミングは始まった。これでアイツはレイスの召喚も出来なきゃ防御シールドも張れない!そしてオレにはこの手にスピアを持っている!もうジャンケンじゃない、オレによる一方的な殴殺(おうさつ)だ!」


 スピアをぐるぐると回しながら疾走し、リッチに肉迫するヒロト。こうなればもう結果は見えている。「戦う」「シールド」「召喚」の内、重要な二項目を封殺されたリッチが肉弾戦のみでヒロトに勝てるハズが無い。みるみる内にリッチのヒットポイントは減り、やがて最恐のアンデッドは断末魔の悲鳴を上げながら塵と化し、跡形も無く消え去ってしまった。ヒロトの完全勝利である。


(見えた、ハートショットを撃てば娘さんにダメージが及ぶ危険性があったが、これなら行ける!娘さんの魔力を封じながら、ドッペルゲンガーと対峙して倒す方法……このジャベリンがあれば行けるぞ!)



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