表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
24/72

24) トップアタックモード、つまりそれは


 【北方ディスノミア地方】

 永久凍土の地下墳墓、スタート地点。深淵の入り口の近くに刺さっていた小さな杖がキラリと輝き、その輝きの中から人が現れた。その人影の正体はもちろんヒロト。地下墳墓のリッチを倒した後「真なるラスボス」にたどり着き、そして初見で見事に散り、スタート地点に戻されたのである。


「派手にやられたな」


 ダンジョン突入開始から帰還又は戦死でリス地移動の時間アルゴリズムを掴んでいるのか、氷の女王は苦笑しながらヒロトを労わる。


「ええ、派手にやられました」

()れもまあ、呆れるほどに清々しい顔をしておる」

「そりゃあ、まあ……雲泥の実力差を垣間見ちゃいましたからね」


 顔を真っ赤に恨みごとを言う訳でなく、さっぱりとした顔で笑うヒロト。それを責めずに苦笑する女王。激闘の後でありながらも穏やかに流れる時間の中、やがて氷の女王は何ら表情を変えぬまま核心を突く質問を繰り出した。


「して、()れはしかと見届けたのか?最深淵に立ちはだかった者を」

「ええ、見ました。一人は貴方(あなた)にそっくりな女性、そしてもう一人は柱に括り付けられた少女を」


 遭遇してすぐに瞬殺された事で、大した情報は掴んでいないとヒロトは答えたのだが、及第点は超えているのか女王は満足げな表情を浮かべている。だがそれについての説明を始めた途端、彼女口調や眼差しは憂いに包まれて行く。


 ――(わらわ)にそっくりな者、それは自分の半身であり、囚われし少女は(わらわ)の娘である―― 包み隠さずに語った内容とは、氷の女王誕生の歴史そのものであり、彼女の悔恨の記憶であった。

 自分の名前すら忘れてしまうほどの遥か昔、氷の女王はこの地で息を引き取り、そしてこの巨大な地下墳墓の最下層に守り神として祀られたのだそうだ。だが女王亡き後に政変が起こり、後継争いに負けた娘と家臣たちが程の良い人柱として地下墳墓に閉じ込められて息絶えてしまった。そして怒った女王の魂はこの地を呪いの地へと変えて、生きとし生ける者に災いをもたらしていたのだと言う。


「だが、そんな(わらわ)にも少なからず良心はある。実の娘の魂まで縛り付けながら、怒りに任せるを良しとしない心……それが()れの目の前に立つ(わらわ)だ」

「なるほど、つまりあのドッペルゲンガーを討ち、娘さんの魂を解放する事を貴方は望むと言う事ですね」

「都合の悪い(わらわ)を分離させて地上に追放した奴だ、(わらわ)以上に強いと心せよ。それに、もうどちらがドッペルゲンガーかすら忘れるほどの時間が流れた。娘の魂さえ解放してくれればそれで良いよ」


 そう言って、自嘲気味に寂しく笑う女王であったが、それに対するヒロトの解答が彼女の心を奮わせる。


「恨みに固執してしまい、娘の魂にすら安らぎを与えない母親が本体である訳がありません。貴方と娘さんのために、あのドッペルゲンガーを討ちます」


 こう言われて喜ばない者などいない。氷の女王は頬を朱色に染めながらヒロトに飛びついて、掛け値無しの全面協力を約束するのであった。


 永久凍土の地下墳墓、ダンジョンの槍縛りは変わらずのまま。最下層のドッペルゲンガー攻略に槍一本では歯が立たないと考えたヒロトは、しばらくの間はダンジョンの中層あたりを周回して、新たな槍鍛錬のための鉱物採取とレアアイテムを確保しようと行動する。戦死すればリスポーン地点に戻されてしまうが、自分の足で地上まで帰って来れば、戦利品は全て自分が所有出来るからだ。

 また、槍についてもしっかりと考察して自分の戦術に組み込もうと、その種類や立ち回り方法についても調べを入れた。長い柄のスピアだけでなく、槍と杭を組み合わせて陣地構築と防衛を役割とするピルム・ムーリアリスや、刀剣ファルシオンを柄に付けたグレイブや三つの穂先を付けた三叉槍など。大前提として拘束された少女の圧倒的な魔法攻撃を避けつつドッペルゲンガーを倒し、そして少女の魂を救わねばならぬと言う作戦の性質上、戦術の幅を広げるのは必須なのだ。


 ――ダンジョンに入り浸って数日、ヒロトにとあるアイデアが浮かんで来る。もちろんそれは槍についての考察上浮かんだアイデアなのだが、実はこれこそがラスボス戦だけでなく対魔法戦闘全てにおいて、ヒロトを劇的なまでに有利に導くアイデアであったのだ。


「古代ギリシャ時代の投擲用短槍ジャベリン……重装歩兵ファランクス部隊に対抗した軽歩兵ペルタストの主力武器か。短い槍で良いなら鉱物の節約も出来るし、スロウアームズに最初から組み込める。これはいけそうだな」


 ダンジョン周回の途中、休憩の狭間にメニュー画面から外部リンクに繋ぎ、ウィキをぼんやりと眺めていたのだが、該当のページを見つけた途端、ヒロトは疲労を吹き飛ばすかの勢いで『ジャベリン』のページを見詰めている。


「これだ!投擲用短槍ジャベリン、これで行こう!広範囲魔法に対抗するには、こちらも遠距離攻撃の手段を持っていないと始まらない」


 ……だが、ジャベリンでどうする?弾幕を張る事も出来るしこのダンジョンでは実用的だが、娘にハートショットは厳禁だ……

 この段階ではまだまだ勝利のビジョンが見えて来ない、だがジャベリンは必ず使える。地上に戻って女王に相談してみるかと、ヒロトは独り言を繰り返しながら帰路の準備を始める。


「でもな、やっぱりオレからすると、ジャベリンって言えば短槍じゃなくて米軍の携行式多目的ミサイル・FGM148ジャベリンなんだよなあ!」


 どうやらレジオン時代の記憶を思い出し、その楽しくも痛々しい記憶に苦笑いしているようだ。


「赤外線ビデオ追尾でロックオンされたら終わり。装甲車両の上部を狙うトップアタックモードはまるで空から降る槍。あれを平気で人間に撃って来てたんだから、何度酷い目に遭った事か……」


 独り言に自分で笑いを重ねるような、ちょっと気味の悪い光景ではあるが、ヒロトの記憶と今が直線となって繋がった瞬間である。

 そして……本人も全く気付いていなかったのだが、彼のメニューリストにあるステータス表示のページにおいて、未だに謎のままになっている「四つ目のユニークスキル」のバーが、二つ三つ点灯して再び静かになった瞬間でもあったのだ。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ