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22) 誇り高き敗北 前編


 三つの願いの一つであるヒロト固有のユニークスキル「射線管理」、別名『紙一重・連舞』。敵の攻撃を百パーセント回避する暗殺者のスキル「紙一重(かみひとえ)」を連続で発動出来るバケモノスキルなのだが、敵の連続攻撃を必ず回避出来ると言う訳でもない。

 「紙一重」発動の前提としてチャージ時間が設定されており、スキルレベルが上がれば上がるほどチャージ時間は短縮される仕組みとなっている。通常の暗殺者においての戦闘ならば、ここぞと言う時に発動させて戦局を有利に運ぶチャージ時間の比較的長い戦技なのだが、『紙一重・連舞』の場合はそのチャージ時間が劇的に短縮されている。ヒロトは戦いを積み重ねてスキルレベルを極限までレベルアップさせた結果、剣士の連撃すらかわせるほどにチャージ時間を短縮させたのである。

 紙一重、紙一重・連舞のスキルを持つキャラクターは、敵とエンカウントして戦闘が始まった際、敵が攻撃モーションに入ると画面にエフェクトが発生する。剣などの攻撃軌道が赤い線で表示され、その線に当たらないように身体でかわして回避を成功させるのだが、魔法攻撃の回避となると様子が変わって来る。

 魔法攻撃は主に敵単体に直接影響をもたらす直接攻撃と、敵の有無に関わらず範囲を指定して攻撃行動を起こす範囲攻撃の二種類に分類される。直接攻撃は自分の身体に向けて狙いを付けて来るので、赤表示された画面から回避すれば良いのだが、範囲攻撃は地面に赤い円で表示され、魔法攻撃力が強ければ強いほどその円が大きくなる。この範囲攻撃が今のヒロトにとって非常に厄介なのだ。ーー地下に進めば進むほど強力な魔法系モンスターが登場し、それらがパーティーを組んで襲って来る。ぼやぼやしていれば地面には範囲攻撃を知らせる赤い円がどんどん現れ、逃げ場すら失ってしまうのである。


 北方ディスノミア、永久凍土の地下墳墓。

 スケルトン、スケルトンナイト、スケルトンウィザードとの死闘から始まった深淵の探索は、洞窟を下った先にある地下墳墓へと繋がり、ヒロトは今地下二十八階までたどり着いた。

 エンティティー、ゴースト、ワイト、レイスなど、群がる死霊軍団を打ち果たし、この地下二十八回で新たな敵と遭遇したのである。


「……多分……リッチなんだろうな。今までの死霊と違い、見るからに上位種の品格が溢れてる」


 四方の壁に足元から天井まで棚が作られ、そこにびっしりと敷き詰められた人間の骸骨やミイラ。悪寒を覚えるような墓所と通路、そして階段を降りた先に待っていたのは、ボロボロになった高位の司祭服を身にまとい、煌びやかな錫杖を持ったドクロ。闇に包まれた眼窩の奥で蒼い光を放ちながら、堂々とした仁王立ちで、ヒロトを見下すように立ちはだかったのだ。


(さっきの踊り場で避難シェルター作っといて正解だった。食事と睡眠でHPとスタミナ回復してなかったらと思うとゾッとする)


 たどり着いたこの巨大空間は、まるで祭壇を設けた祈祷の本殿のような場所、つまり大聖堂。ガイコツだらけ墳墓は終わり、その先にこの様なホールが待ち構えているならば、ここが最後の戦いの場所ではないかと考える。つまり祭壇の前に立つリッチこそがこの地下墳墓の主であり、ラスボスなのだとヒロトは認識したのだ。


(氷の女王は“槍縛り”でこのダンジョンを攻略しろと言った。槍に魔法付与もしてくれた。この現状で俺に切れるカードは二枚、奴に至近距離まで接近して物理プラス魔法効果で倒すか、それともスロウアームズのスロットに装填して一撃を戦いの狼煙にするかだ)


 リッチとの距離はおよそ約三十メートル。確証は無いが、後一歩二歩足を進めればエンカウント(接敵)状態となり、リッチがアクティブ化されるであろう距離にある。


 【リッチ】アンデット種

 リッチとは近代英語ではなく古英語で「死体」を意味する言葉である。死者の怨念やネクロマンサーの秘術により生み出されたアンデットとは、全く系統の異なるモンスターで、遺跡や神殿にこもり飲まず食わずの荒業で自ら進んで命を落とし、リッチとして永遠の命を得た高位術師の成れの果てである。


 洞窟で襲いかかって来たスケルトンは別として、地下墳墓本殿に入ってからは魔法攻撃の嵐。「槍縛り」でスピアを一本だけ装備したヒロトが、それらを打ち砕いてここまでたどり着けたのは、ひとえに氷の女王のおかげである。スピアに施した女王の魔法付与が功を奏し、永久凍土の地下墳墓攻略を有利に導いたのだ。

 氷の女王が施した魔法付与とは「マナ・ジャミング」。たかだか数メートルの範囲ではあるが、マナ(魔力)の環流を乱して、詠唱魔法の完成を阻害する効果があるのだ。ヒロトはその槍を手に、敵とエンカウントした瞬間に猛ダッシュして敵の眼前に躍り出て、スピアの物理攻撃で倒すのである。既に槍のスキルレベルは育ちに育ち、暗殺者の上級スキルであるスロウアームズに組み込めるのだが、スピアは現在一本しか持ち合わせが無く、未だにスロウアームズとしての威力は発揮していない。

 ただ、ヒロトにも見えて来たものがある。スケルトンとの戦いに明け暮れていた初期、スロウアームズを行使してどんどんとストックの剣を消費した痛い過去があるのだが、敵撃破とともに武器が消滅する現象は、あくまでもHPの低いダンジョン上層部のモンスターに限る事が分かっている。理由として、アンデットモンスターには心臓が無いので、ヒロトの必殺の即死技スロウアームズ+ハートショットが一切効力を発揮していない事が分かったのだ。つまりアンデットに存在するのはHP設定値のみ――つまり身体の耐久値のみが設定されている。HPの低い初期敵はスロウアームズのハートショットで即死したのではなく、投げられた武器の攻撃力がHPを上回っただけの話なのだ。

 この上の方の階層で死霊レイスを相手に実験したのだが、レイスのHPが高かった事から、レイスに刺さった槍は消えずに残っていた事で確信したのである……たった一本しかない槍で実験する方も、する方なのだが。


「先ずは投げる。そして魔法を完成させられないリッチに肉薄し、槍を抜いて物理で叩く。……そうだな、それしかやりようはない」


 いよいよヒロトの気持ちは固まった。リッチに勝てれば攻略完了だが、負ければまた地上にリスポーンしてゼロからのスタートが待っている。念には念を入れて、今のうちにアジリティー促進剤を飲もうとバッグに手を伸ばした時……意表を突いて「それ」が始まったのである。


「……ソコノニンゲン!コノ聖ナル墓所ニ何ノ用カ!虫ケラゴトキガ訪レテ良イ場所デハナイ!」

「何?距離エンカウントじゃない?入室カウントダウンなのか?」

「ココヲ訪レタノガ運ノ尽キ!死ネ、死ネ、死ネ!」


 距離をとって戦闘突入の機を伺っていたヒロトの思惑を打ち砕くかのように、リッチは突如眼光を凶々(まがまが)しく紅く輝かせながら、手にした錫杖を高く掲げたのだ。



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