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12) それでもオレが勝つけどね


(あの噂は本当だった!)


 フルダイブ近代戦MMO『レジオン・オブ・メリット』のプレイヤーたちは運営の配信停止発表に驚愕し、続いて買収先であるプラネット・グループからプレイヤー全員に届いた案内メールに騒然となる。

 ――キングダム・オブ・グローリーの世界を楽しんで頂くにあたり、三つの希望・要望を受け入れて環境に反映させて頂きます――

 もちろん、全てのプレイヤーがその案内に従って返信を行なった訳ではない。むしろこの時点で、ほとんどのレジオンユーザーが移行を拒否して退会して行った。あくまでもこれは趣味・趣向の範囲での話ではあるが、ミリタリー色の強いガンアクションゲームを好んでプレイしているユーザーが、明日から剣と魔法で戦ってくださいと言われても納得出来る訳が無い。アサルトライフルを剣や魔法の杖に持ち換えるぐらいなら、別のガンアクションゲームを模索するのである。

 だがヒロトはキングダム・オブ・グローリーへの移行を受け入れ、そして『三つの願い』と言う名の運営側が差し伸べた手を掴んだのである。


 その1:私はスナイパー職及び選抜射手役でした。KOGでは弓兵にあたるのかも知れないが、姿を悟られる前にキルを重ねるので暗殺職でお願いします。ただ状況によって武器を使い分けていたので、暗殺スキルはナイフ装備・スロウナイフ以外にも幅を持たせて欲しい

 その2:スナイパーや選抜射手は目が命。常に建物・草むら、木立、丘の稜線、山の稜線などに視線を巡らせ、敵の狙撃を避ける位置取りを行って来た。敵の攻撃を避けて有利な位置取りが出来る『射線管理』のスキルが欲しい

 その3:アイテムストレージのボックス一つ一つにアイテムが一個しか入らないのはナンセンス。弾丸数十発を予備マガジンに装填して、マガジンポケットに入れていた経緯も含めて、同種のアイテムならば重ねて管理出来るようにして欲しい。


 このヒロトの要望の「その3」については、ジョステシアの安生がヒナに語っていた『ストレージ99』の事である。つまりKOGの運営側は、無茶振りとも言えるヒロトの要望を受け入れていたのだ。

 ……そうであるならば、ヒロトが希望した「その1」と「その2」はどのような形になって反映されているのか。ヒナの仲間を拉致したルーチャの構成員たちは身を持ってそれを知り、ヒナには鮮烈な光景としてその瞳に焼き付ける事となる。


 ルーチャの拠点、彼らが無断で占拠した街の共同作業所に遅れて入ったヒロトは、瞬く間にルーチャの構成員を殲滅し、涼しい顔で事務所に現れた。


「忙しいところ悪いね。ルーチャのメンバーを皆殺しに来たよ」


 淡々とした口調で恐ろしい言葉を吐き出すや否や、彼は左右の手のひらに浮かんだ片手剣を掴み、ルーチャの幹部に向かって次々に投げ始めたのだ。


「……初弾、ハートショット……」


 その事務所にはルーチャのリーダーであるディエゴと用心棒のソゴロフ以外に、ルーチャの幹部が四人ほど詰めていたのだが、その幹部四人の胸に瞬く間に片手剣が刺さり、ダウン状態となって崩れ落ちる。ディエゴとソゴロフはハッとなって身構えるのだが、その間もヒロトの手は止まらない。


「次弾、ハートショット!」


 代わる代わる彼の両手に剣が浮かび、倒れた幹部に投げ付ける。戦闘システムの条件として蘇生のチャンスを残す『ダウン状態』が六十秒保証されているのだが、もちろんその間も戦闘状態が解かれた訳では無く、ダウンしたプレイヤーは無敵ではないのだ。


「お、おおお……おい!何だテメえは!」

 

 狼狽(うろた)えるディエゴなどお構い無しに、幹部に向かってズドンズドンとトドメを刺し終えたヒロト。不敵な笑みを口元に浮かべながら、改めてディエゴとソゴロフに向き直り、ゆっくりと口を開く。


「身代金ビジネスは、ゲーム内ルールでも認められてる正当なイビル(悪党)プレイだ。それについては文句は言わないよ。だけどね、アンタらはオレを怒らせた。オレは怒ったんだよ、だからアンタらを皆殺しにするのさ」

「はああっ?何様の積もりだテメえ!テメはこの街の(ぬし)か!神でも気取ってんのかよ!」


 トドメを刺された幹部たちがリスポーン地点へ強制移動されるため、ディエゴの目の前でどんどんと霧散消滅して行く。その光景を目の当たりにしながら、謎の少年が余裕綽々(よゆうしゃくしゃく)で生意気な事を言うものだから、いきなり追い詰められたディエゴはリーダーの風格すら何処かに置き忘れ、半狂乱となってがなり立てる。


「ソゴロフ!ソゴロフやれ!こう言う時のためにお前がいるんだろ!その小僧をやっちまえ!」


 このセリフを言い終える前に、ディエゴはイスから吹っ飛んで壁に叩き付けられる。胸にはヒロトが放った剣が深々と刺さっており、刹那の瞬間にダウン状態にさせられたのだ。


「見た感じだいたいレベル40前後くらいの集団か。ナフェスの攻略推奨レベルが40だから、やっとの事で街にたどり着いた程度の弱小集団……。だけどアンタがいたから切り抜けられた、違うかい?」


 ディエゴにトドメのハートショットを放ちながら、ソゴロフに視線を合わせる。


「……お前強いな……(ты сильный)」


 盗賊のような薄汚れた格好ではなく、パリッとした開襟シャツと光沢のあるベストを着込み、見るからに地中海あたりで用心棒を営んでいそうな剣士ソゴロフ。安生たちにグリッチ使いだと疑われるその彼が、極力文字数を少なくしたような言葉を返した。自国語を話すと自動的に相手の母国語に変換される翻訳アプリケーションが不備を起こしているのか、ヒロトには日本語に隠れるようにうっすらと彼の母国語も耳に入って来る。


「アンタの母国語を聞くと、今年新設された中央ユーラシアサーバー管理のプレイヤーみたいだな。なるほど、翻訳アプリケーションが原因で同期ズレ起こしてるってウワサ、どうやら本当らしいね」

「……だから何だと言うのだ……(Так что вы скажете?)」

「ユーラシアサーバーにいるアンタ、サーバーから投射されてこのクラウドに存在するアンタ。バグで同期ズレ起こしてて二重の存在になってるんじゃないか?だからチャージするスキルもキャンセルされずに多重コマンド実行出来るとか?」


 相手の懐に潜り込むようにニヤリと笑うヒロト。だがソゴロフはそんな誘いに引っかかる訳では無く、眼光鋭く剣の(つか)に利き手をかけた。


「……それでどうする……(Ну так что ты делаешь?)」


 剣に手をかけたまま背中を丸め、間合いを掴むようにジリジリと前進し始める。腹の底で爆発的に膨れ上がる殺気を隠したまま、無表情で間合いを詰めるその姿は剣士としての修練のたまものなのだろうが、相手が悪かった。相手であるヒロトが剣士すら予想すら出来ない、規格外の行動に出たのである。


 ――どうするも何も、グリッチ技仕掛けて来いよ!それでもオレが勝つけどね――

 と、爽やかな表情で無防備な姿そのままに、ヒナたちが黙って見詰める中、正々堂々と大手を振ってソゴロフの間合いに自ら足を進めたのだ。



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