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11) みな殺しの無料スキン


「ほぉ、まさかジョステシアの親分さんがわざわざ顔を出してくれるとはね、こりゃあ愉快愉快。それであれかね?あんたがコイツらの身代金を肩代わりしてくれるって事で良いのかい?」


 ルーチャの根城である街の共同作業所、その建屋の奥の事務所が物々しい。新興勢力の反社ギルド『ルーチャ(闘争)』の拠点であるその共同作業所に、ルーチャのリーダーであるディエゴに面会を求めて、敵対勢力ジョステシアのリーダー・安生が訪れたからだ。


「外道のクセに身代金一億ゴールド払えとはデカく出たな。一般人にそんな額が払える訳が無いから、ワシらが出て来た図式なんだがね」

「何だテメえ、えらく生意気な事言うじゃねえか。前回俺たちにこっぴどくやられたのを忘れた訳じゃねえよな」

 

 ディエゴの勝ち誇ったかのような高笑いが屋内に響く。共同作業所の事務所にはディエゴとルーチャの幹部たち数名が下卑た笑みを浮かべながら、訪れた安生と若頭のタナタナカとヒナの三名を眺めている。ディエゴの背後、眼光鋭くヒナたちを部屋の片隅にはヒナの仲間二人が「ダウン状態」となったまま、人質拘束でロックされている。


 【ダウン状態】

 このフルダイブMMOファンタジーゲーム『キングダム・オブ・グローリー』の戦闘システムは、PvPvEである。プレイヤー・ヴァーサス・プレイヤー・ヴァーサス・エンバイロメントの略で、日本語で分かりやすくすると「対プレイヤー、対環境」を意味し、このゲームはプレイヤー同士で戦う事も出来るし、モンスターやNPCなど運営側が用意した敵とも戦えると言う、つまりは自分以外は全て敵とみなせる仕様なのだ。

 このゲームの戦闘において自分の命は、もちろん「HP」ヒットポイントにて管理されるのだが、敵からダメージを受けて死に至る工程が二段階に設定されている。その第一段階が「ダウン状態」である。

 戦闘においてプレイヤーが敵からダメージを受け、ヒットポイントがゼロまで減らされると、プレイヤーキャラはその場でダウン状態となり、倒れたまま一切の行動が不能になる。つまりプレイヤーは死に瀕した[今際の(いまわのきわ)]状態に陥り、六十秒のカウントダウンが始まるのである。もちろんカウントがゼロになってしまえば、そのプレイヤーの完全死が決定し、その場から身体は消滅してリスポーン(再出撃)地点で復活する運びとなるが、当然その際は経験値を差し引く罰則、通称「デス・ペナルティ」が生じる。

 ――つまりダウン状態は完全死から生じるデス・ペナルティを避けるためにと、運営が提供してくれた最後の優しさ。パーティープレイを推奨するこのゲームにおいて、仲間の蘇生措置を待つチャンスが与えられた硬直時間なのだ――


 そしてここからが本題となるが、ヒナの仲間二人がダウン状態となってルーチャに拘束されているのだが、何故死のカウントダウンが始まらないのかと言えば、このゲームの対人戦闘のエゲツなさを代表する手段の一つ、戦闘でダウンした敵プレイヤーをダウン状態のまま時間を停止させ、様々な解放条件を本人または仲間に要求する【監禁・コンファイン】と言う悪党スキルがある。双方合意の上で【決闘】契約を行なって戦えば悪党スキルが発動される事は無いのだが、このコンファインの狡猾なところは、プレイヤーを完全死に至らしめない事で、殺人プレイヤー認定……つまりレッドプレイヤーとして制限発動されない事にある。悪属性・イービルサイド属性に堕ちたプレイヤーたちの間で、この人質ビジネス・身代金ビジネスが盛況なのは、このような仕様が認められていたから。ヒナの仲間たちは決闘契約も無いまま戦闘を始めさせられた後、こうして捕らえられ、身代金を要求されていたのである。


 神官職の祭司着を身にまとったまま、倒れて硬直しているヒナの仲間。全身鎧を身にまとっている騎士も同じくダウン硬直のまま時間が止められている。二人ともヒナを逃そうと必死になって、用心棒の攻撃に抵抗していたのだが、結果としてこの屈辱を受ける事となってしまった。ヒナも逃げられずにその場で立ち尽くすしかなく、覚悟を決めたのだが、金を用意しろと命令されて彼女だけ解放されたのだ。

 ――自分はいい、解放されただけまだマシだった。だけど彼女たち二人の屈辱はいかほどか――と、悪党を前に怯えるヒナの脳裏にも、怒りの感情は沸々と湧いて来ている。


「身代金一億ゴールドで良いんだよな。ディエゴよ、支払い期限は一体いつまでなんだい?」

「おいおいおいおい!甘っちょろい事言ってんじゃねえよ、ジャパニーズ・ヤクザ・コスプレのオッさんよ!身代金を肩代わりするって言ったのはアンタだろ?金額分かってんなら準備してこの場に持って来るのが筋道なんじゃねえのか!」

「そんな大金、はい分かりましたで直ぐに用意出来る訳無えだろうが。お前はアホか?用意するからいつまでなのか聞いてんじゃろが!」


 安生も負けじと大声で吠え返すのだが、あくまでもこれは時間稼ぎ。ディエゴが高圧的な態度でマウントを取って来ても、こちらに秘策がある事を悟られぬ程度に言い返すだけで、腰の木刀には一切手をかけていない。


「ああ!ああ!ああ!ああ!だったら期限を付けてやる!明日の夕方までに全額揃えて持って来い!」

「あぁん?明日だと?街一個買えるだけの金額、ワシに明日までに払えって言うんか!」


 ――安生さん、絶対楽しんでる――

 ヒナの眉毛が「八の字」になり、あからさまに困った表情。ダウンした仲間たちが視界に入っていなければ、大根役者ぶりが半端無いと苦笑するレベルだ。

 だが怒号飛び交うその場の空気は急転直下、その事務所に隣接する作業所やロビーから盛大な騒ぎの音にかき消され、その異常さにディエゴは目を見開いて沈黙する。何故ならば、ドカンバタンと家具や壁が並ぶ音と共に、「ギャアア!」だの「ぶはあっ!」だのと、ディエゴの部下たちの悲鳴が驚き……そしてあっという間に静まり返ったのだ。

 事務所にいた者たち、それこそルーチャのメンバー全員が何が起きたのかと扉を凝視する。安生やヒナには心当たりのある人物の仕業なのだが、それも事務所に沈黙が流れて数秒の話。いよいよ事務所の扉が開いて、この人質交渉の場に新たな人物が介入する事となる。


「忙しいところ悪いね。ちょっとルーチャのメンバーを皆殺しにしようと思ってやって来たよ。リーダーのディエゴってのはあんたか?」


 謎だらけの少年、初回無料特典スキンの少年、ヒロトの登場である。



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