1) 序章 プラネットグループの躍進
二千年代中盤、世界最大手の通信企業『プラネット・コミュニケーションズ』が突如、通信企業に留まらず様々なメディア媒体に友好的企業買収を仕掛けてそれが成功する。『プラネット・グループ』の完成だ。
通常の衛星通信やネット回線企業のみならず、放送会社やケーブル放送局など多岐に渡る通信分野を買収したその動きは、世界経済に大きな「うねり」を巻き起こし、財界人や経済評論家から離散集合の年と呼ばれたのだが、その論調は比較的に好意的であり、世論もプラネットグループの将来に期待を寄せる声に染まっていた。
そのプラネットグループが友好的企業買収を行った企業リストには、世界中の様々な企業があるのだが、特筆すべきはゲーム業界にも食指を伸ばした事であろう。時代はフルダイブMMOゲームが試験的に導入された頃、つまりVRMMOゲームの全盛期の時代において、各ゲーム会社や個人製作者に基本システムのアプリケーションを提供していた『ゲームエンジン』企業の大手を買収し、尚且つ意欲的に実験作なゲームをリリースさせながらも安定収入を確保するゲーム会社を買収し、プラネットグループとして野心作を製作して発表したのである。
『キングダム・オブ・グローリー』
愛称としてKOGと呼ばれるこのゲームは、世界初のフルダイブMMOファンタジーとしてリリースされ、専用ヘッドギアも合わせて世界同時進行で爆発的にヒットし、品切れに暴動が起きるほどの社会現象にもなった。いわゆる剣と魔法の世界でプレイヤーは冒険するのだが、プラネットグループは純粋なゲームとしてではなく、とある野心を抱いてこのゲームをリリースしている。――それが仮想空間による第二の社会生活だ。
バーチャルリアリティ全盛期において、ゲームとは引き離した一般仮想空間を作り、そこビルや街や商店を設置して人々を生活させる……つまり仮想空間で社会生活を行おうと言うプロジェクトに様々な企業がチャレンジして、そして失敗して行った歴史がある。成長したプラネットグループは先人たちのその失敗の歴史に学び、先ずはゲームで顧客を呼びフルダイブを体験させたのである。そしてフルダイブの電脳空間に顧客が満足を示したならば、最終目的である電脳都市の建設も容易いとして、このキングダム・オブ・グローリーはリリースされたのだ。
――マップは地球面積の1.6倍!――
――マッピング率はまだたったの6パーセント!――
――君はまだ見ぬ地を目指す探索者か、それとも開墾する開拓者か、それとも進化を促す技術者か――
キャンペーンの謳い文句に、ユーザーたちは酔いしれ、そしてリリース後もユーザーたちはキングダム・オブ・グローリーに酔いしれた。そしてリリースから四年経った今も、後発の様々なフルダイブMMOゲームを地平線の先で眺めながらトップをひた走っている。
この物語の舞台は、キングダム・オブ・グローリーの世界の物語。道を切り開くのも、社会を作るのも、破壊者となって殺戮を繰り広げるのも全て自分の自由意志、そんなゲームに身を置いた、一人の少年の物語である。