涸れ池
ここに池があったんだ
なのに 来てみたら
あるのは濡れた汚泥の 小さい水たまりだった
俺が見ていた池は
中心までずっと遠かった
大きい池かと言えば
そう大きくもなかっただろう
でも そこそこ広い池ではあった
作ったような円形じゃなく
自由に 好きな方に腕を伸ばすような
そんな形の池だった
好きだったかと言えば
別にそこまで気にかけた覚えもない
ただ 骨休めしたくなると
何となく立ち寄っては
時間も忘れて ぼんやり空想に耽って
早い話が 心が自由な場所だった
ある時を境に 池から足は遠ざかった
一旦 遠ざかると縁遠くなるもんだよ
疲労と憔悴はひっきりなし 池まで行く気力もなかった
それで どうだ
しばらくぶりに見に来たら 池はちっぽけな水たまり
真ん中に 申し訳程度の汚泥の残り
なんでこんなになったんだと考えた
驚くほどでもないし
悲しむほどでもない
どうでもいいと背中を向けられるかと言えば
それはしないけれど
分かるのは
俺の頭の中で考えている理屈より
俺の胸の内側にある温度の感じ
あるはずの池が 水たまりになっただけのこと
愕然も衝撃もないが
立ち去る気にもなれなかったのは
俺の胸の内側で
温度が上がったからだ
よく解らないんだ
お前 こんなみじめじゃないだろう
あんなに水を湛えてたのに
なんで こんなザマなんだ
お前
訪れる誰にでも 憩いや癒しを渡せてただろう
なにがあったんだ
中央の汚泥の塊が目につく
池の縁から中央までは 柔らかい土がひび割れていた
俺は 家に帰って
着替えて 道具を持って
また池へ行って
虫のたかる汚泥を抱え
運び出して
何度か繰り返して
全部取った
池の水はどこから来ていたのか 知るわけないが
このまま汚いものを抱えて朽ちて良い とは思えなかった
訪れた誰もに 平等に骨休めを与えた池は
みじめさや汚れなんか 似合いやしないんだ
いつか大雨が降ったら
池はまた 少しずつひびを埋めて
水を溜め始めるのか
その水は 最初こそ濁って 少なく
乾いては 雨を溜め 乾いては 雨を沈め これを繰り返し
いずれ 池に変わる日が来るだろう
それまで長くかかるかも知れないが
またあの池が現れるのを 楽しみにしている