ただいま[微ホラー]
僕と弟は叔父さんからもらったお小遣いで、道路向かいの自動販売機でジュースを買うことにした。
「あっ」
僕と繋いだ手を振り解き、自販機に向かって走り出す弟を追いかけた。
最期に見たのは大きなトラックだった。
……
「起きなよ。帰るよ」
僕は横たわる弟を起こす。
「…う〜ん…」
弟はなかなか起きない。
「早く起きろ。お母さんとお父さんが待ってる」
「あっ!そっか!」
思い出したようだ。
弟が飛び起きた。
僕は10歳。
弟は3つ下の7歳。
「行こう」
「…うん」
暗闇の中、僕と弟は歩き出す。
僕は、ぷらぷらと揺れる弟の手を取り、しっかり繋いで離さないようにギュッと握った。
「こっちで合ってる?」
振り返る弟が僕の顔を見て不安そうに聞く。
この道で帰れるのか、合ってるのかわからない。
本当は僕だって不安で泣きそうだったんだ。
だから…
「たぶん合ってるよ」
そう答えるので精一杯だった。
どれくらい歩いただろう…
二人で無言で歩いていると、遠くに温かな色の灯りが見えた。
するとそこに向かって、ポウ…っと足元に小さな明かりが次々と、道導のように灯った。
こっちだよ、迷わず帰っておいで
そう言っているようだった。
弟もそう思ったらしい。
繋いだ手を振り払って駆け出す。
あっ!!
「ダメだ!」
僕はすぐに弟を追いかけてぎゅっと捕まえた。
「手を離したらダメだ!」
あの時も…
手を離しちゃいけなかったんだ…
「…ごめんなさい…」
泣きそうな声で弟が言う。
僕と弟はしっかり手を繋いだ。
ゆっくり、ゆっくり。
優しい灯りに導かれやっと家の前に立つ。
カラカラと引き戸を開ける。
僕と弟は顔を見合わせにっこり笑った。
そして大きく息を吸って言う。
「お父さん!お母さん!ただいまっ!」
。。。
降りはじめた雪に、音が消されて静かな日。
初七日の法要を終え、みんなでお茶を飲んでいると、玄関の引き戸がカラカラと開く音がしました。
誰か来たのかな?と、見に行きましたが戸は閉まっています。
不思議に思って戸を開けてみると、積もった雪の上に、家に向かって来る二つの小さな足跡がてんてんと残っていました。
帰って来たんだね。
おかえり。
拙い文章、最後までお読み下さりありがとうございます。