【4-12】舌戦 上
【第4章 登場人物】
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「あれが新しい総司令官か」
「ずいぶんとまぁ若い将軍だな」
「思ったよりも小柄な男だな」
水の庭園での任命式を終えると、アルベルト=ミーミルは小雨のなか、王都・ノーアトゥーンの城塞部へ向かった。
空からの雨滴と、下士官・兵たちからの好奇の眼差しを浴びながら、西の塔にたどり着く。この王都には、東西2対の優美な塔が屹立している。
副官に促されるままに、細長い建物の足元の門をくぐる。総司令部の置かれた西の塔最上階に向けて、ミーミルは螺旋状の階段を上っていった。
数段おきに穿たれた窓は、採光と銃撃のために設けられたものである。そこから見える空には、灰色の雲が広がっていたが、2カ月前までのような飛雪をもたらす分厚いものではない。
階が上がるたびに、窓からの景色は眺望が利くものになっていく。最後の踊り場からは、城壁の上で守りに備える兵たちの様子に加え、その前面に広がる山と渓谷の織りなす複雑な地形がよく見えた。
ミーミルはそれらの先に視線を向けて立ち止まった。
ここから70キロ南の地点には、この国を併呑すべく、帝国軍の先方が布陣しているはずだ。その手前、必死に防衛ラインを築いているトリルハイム城塞までは、約50キロしかない。
しかも、この王都から同城塞までは、山間を街道と鉄道が続くだけであった。左右の地形こそ複雑だが、整備された道路と線路を遮るものはないのである。
西の塔・最上階の総司令部に入ると、ミーミルは各軍の指揮官たちに対し、所信の表明を行った。
端的な挨拶と方針説明が終わると、通例どおり、将軍たちからの質疑が始まった。
最初に新司令官を問いただしたのは、左翼第1師団長・アルヴァ=オーズ中将であった。
「……つまり、総司令官どのの目標は、帝国軍の撃滅ではなく、引き分けに持ち込むというところなのですな」
「ああそうだ。我が軍は20万にも及ぶ死傷者を出し、逃亡兵も後を絶たない。前方のトリルハイム城塞防御線を突破されれば、この王都まで一足飛びに衝かれてしまうほど追い詰められている。どんなに上手くことが運んだとしても、形成挽回は難しいだろう」
侮蔑の表情を抑えることもせずに、オーズは猛将の渾名そのままに、上官への詰問を継続する。
「何を弱気な。必勝の信念なくして、どうして総司令官など務まりましょうか」
「帝国軍は、信念で勝てるほど甘くはない」
「いえ!総司令官以下、将兵が一丸となって信念を持ち得れば、必ず戦には勝てます。我らは、その信念を持って戦って参りました」
「それでは聞くが、どうして卿らは『必勝の信念』とやらを持ちながら、ここまで帝国軍に追い詰められたのか」
「……」
オーズは二の句が継げず、赤面したまま緘黙する。
新任総司令官のふてぶてしい言動に、将軍たちは思わず語気を荒げ立ち上がった。しかし、ミーミルのそうした態度は、改まる様子も見られない。
【作者からのお願い】
この先も「航跡」は続いていきます。
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【予 告】
次回、「舌戦 下」お楽しみに。
室内にあふれた声に押されるように、ベルマン中将がいぶかしげな表情をうかべ、言葉を続ける。
「まさか、さらなる徴兵を領民に強いるつもりではありますまいな」
「徴兵をしようにも、もうこの国には、老人と子どもしかいない。別途考えがあるから安心いたせ」
ミーミルは、目を閉じたまま身じろぎもせず、己の方針の一端を口にした。




