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カッコ悪い気遣い

 やがて川霧は「戻りましょうか」といつもの調子で提案した。

 それから並んで放課後の校舎を歩いている時ふと外を見ると、自然と足が止まった。視線の先にはとある男女が。


「なぁ、川霧」

「どうしたの?和樹くん」

「悪い、先に行っててくれ。用事、思い出した」


 川霧の方を見て、なるべく詮索されないよう注意しながら言うと、きっとその気配を汲み取ってくれたのだろう。川霧は極めて物分かり良く


「頑張りすぎちゃダメよ」

 と、快く背中を押してくれた。


 俺は小さく感謝を述べると、走り出す。

 目指すは中庭。そこに二宮先輩と恵先輩の姿を見たからだ。

 いや、正確には

 

 恵先輩に、フラれている二宮先輩の姿を見たからだった。


 俺が中庭に着くと、やはりあの姿は見間違いではなかったようで二宮会長は一人ポツリと立っていた。


「会長・・・」

「ごめんね色見くん、僕からお願いしたのにこんなことになって」

 声色はいつものように飄々と、お調子者のような軽いノリだ。

 だけれど一切こちらを見ようとしない二宮先輩の背中には、嫌でも哀愁が漂っている。


「これじゃ諦めない姿もなにも、って感じだね。ごめんよ、カッコ悪いところだけ見せて」


 なにに対しての謝罪なのかわからないが会長の口調は実に申し訳なさそうだ。

 そもそも誰かを好きになって、その想いを相手に直接打ち明けようとしただけ二宮先輩は立派なのだ。

 恋愛に関わらず、自分の中にある欲だとか、大切な思いを臆せずに晒すことのできる人はどれだけいるのだろうか。・・・それすら持つことが出来ないものもいるのに。

 

 あぁ、この人も川霧と一緒で「持っている側の人間」なんだ。

 夢も恋も、正面から向き合って、選択できるだけの資格を、持ってる人なんだ。


「俺には恋はわかりません」


 だから俺は情けない前置きをして正直に思いを告げる。


「でも、きっとそこまで本気になれた先輩をカッコ悪いだなんて思う奴はいないですよ」


 なら、敬意を持つべきだ。理解はできなくても、等身大で想像はできなくても、きっと誰かを思って涙を流すのは、友達を泣かした俺とは正反対なんだから。


「・・・ごめん。みっともないね・・。」


 メガネをとって腕を顔の前に持っていく先輩の姿を見ながら、俺は聞いた。


「それで、何て言われたんですか」

「今そう言うこと聞く!?」

 

 目を赤くした先輩は驚き、笑いながら俺の方を振り返る。

 懸命にいつも通り振る舞おうとするその大人びた精神と、けれど行動から滲む痛々しさに俺は密かに敗北を感じる。


「『友達として見てたから驚いたって。それにこれからも異性として見れるかはわからないから、今のままじゃダメかな』って」

「なんだ、フラれてないじゃないですか」

「あのねぇ、恵先輩がこっぴどくフルと思うかい?先輩なりの優しさでそう言ってくれただけだよ。お情け、最後の慈悲みたいなもんさ」


 肩をすくめ、これまたコミカル調に答える二宮先輩。

 俺は恵先輩のことも知らないし、悪いが正直二宮先輩にもそこまで思い入れがあるわけでもない。せいぜい文化祭の時に顔を見たことある程度で、話したのは忘年会準備が初めてだ。

 だからどうでもいい


「まだ俺は見せてもらってないっすよ」

「何をだい?もう諦めない以前の話だよ。・・・終わったんだから」

「別にそんなことないでしょ。今からご飯の約束でもこぎつけてきたらどうです」

「フラれた相手にかい?」


 他に誰がいるんだろうか。それとも案外先輩は遊び人なのかもしれない。


「当たり前でしょう。ほら、情けの延長サービス的な?アフターサービス的な?」

「だとしたら延長料発生するんだけど・・」

「デート代だと思えば安いもんでしょ」


 中にはデート代は全部男子が持て!みたいな過激派もいるんだ。食事代だけならマシだろ。俺ならぶん殴るけどね

 そんな適当な俺の態度を受け、二宮先輩は俺の方を見ると破顔した。


「全く、無責任なやつだな君は」

「他人事なので」

「少しはこっちの身にもなって欲しいってもんだよ」


 そう言うと先輩は俺に背を向けた。そして、呟いた。


「あのさ、背中を押してもらえないかな。君に押されたなら、言い訳ができて傷も浅くて済む」

「最低っすね、それ後で俺が傷付くやつですよ」

「他人事だからね」


 また会長は笑う。いつもの作った感じではなく、本心からの笑顔なのかやけにその表情は生き生きとしていて、青々しい。


「お願い」


 そう呟く先輩に俺は近づく。

「別に俺は責任は取れませんから」


 責任とか言ってこの人なら面倒ごとを押し付けてきかねない。だからここで安請け合いなんてしない。


 どうでもいいからどうにでもなれ、俺は二宮先輩の肩に手を置いた。


「でも愚痴とか僻みならいくらでも聞きますから」

 そしてほんの少しだけ、肩を押す。

「・・・わかった。ありがと」


 それだけで会長は、走り出した。もとより背中を押す必要はなかったようで、俺の目には十分に諦めの悪くカッコいい二宮先輩が写っていた。

すいませんが、少しでも続きが気になると思ってくださる方は、ブクマ、評価等で応援してくださるとありがたいです。

とてつもなくモチベーションが上がります・・

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