性悪と悪趣味は紙一重
程なくして川霧は「ごめんなさい、突然」とだけ言うと手をほどき舞台裏へと消えていった。俺は隣から川霧がいなくなってもなお立ち尽くし、やがてやることもないのに突っ立っているのも変に思われると思い一人で外に出た。
3階分の階段を降り、中庭に出ると冷たい風と冬の乾燥した空気が自分の中の濁りを浄化していくようで気持ちがいい。頭の上にある階からは何やら愉快な金管楽器の音が少しだけ聞こえる。もう舞台の出し物が始まっているのだろう。
思い出せば、昨日朝日に「出し物を見てほしい」みたいに言われてた気がする・・・。
しかし見る気になれない俺は、終わるまでどうやって時間を潰そうかと、もれ出る微かな金管音を聞きながらぼーっと外を眺めて考える。
すると
「あ、色見くんじゃないか。どうしたんだい、こんなところで」
「二宮先輩・・・。先輩こそ、どうしたんですかこんなところで。悠長ですね」
「ハハッ、そんなんじゃない。むしろその逆だよ」
力なく笑う先輩からは、いつもの掴みどころなく不気味さすらあるあの雰囲気は消え去っていた。
「止めるんですか、告白は」
まるで八つ当たりのような心持ちで俺がそう言うと、二宮先輩の表情は分かりやすく曇った。
それを見て俺は、言葉を選ぶべきだったと後悔してしまうほどに、先輩は表情を一変させて呟いた。
「・・・怖いんだ、正直。今の恵先輩との距離に不満があるわけではないしむしろ満足してる。満足してるはずなんだ。なのに・・・無性にその先があるならって、願ってしまう。けどもしこの願い叶ったとしても、この先ずっといることが確証されるわけもないのにね」
手に入れることのできない物を遠目に見るような二宮先輩は、やはり普通の、青春を生きるか細い一人の高校生にしか見えず、俺はいつも二宮先輩に感じていたやりづらさはない。
「やって傷ついて後悔するくらいなら、諦めてしまう方が楽だとは思いますけど」
いつしか成美先生に言ったようなことをこうやって吐露してしまうのは、今の二宮先輩に何か俺と近しいものを感じているからなのかもしれない。
できるだけ人に見せまいとしているネガティブさが溢れてしまったことにバツの悪さを覚えていると、会長は俺の方を見てから微笑んだ。
「君は、そうやって諦めてきたのかい」
自分でも眉間に力がこもったのがわかる。
「別に、選択肢が二つだからと言ってその続きがそうなわけではないでしょ。諦めた先でも満足できる択だってあるはずなら、諦めることは別にマイナスな選択じゃない」
「もしそれが自分にとってもう二度とないんじゃないかと思えるほどの感情による物だとしてもかい?」
試すような口調の二宮先輩は、やはり俺をおちょくっている、或いは馬鹿にしているのだと確信した。それに気づくと俺の方もそんな先輩を、そんな先輩の考え方を、取り合うことが面倒になってくる。
「さぁ、自分にはそう言った経験がないのでなんとも」
軽く肩をすくめ、こちらもある意味で挑発的で攻撃的な態度で返す。
俺はこれまでの生き方を変えるつもりはない。つまりはこれまでの生き方はこれからの生き方でもある。そんなこれまでの葛藤や辛さを『諦めた』なんて一言で片付けられ同情され、哀れまれるようなのは願い下げだ。
そんな俺に、二宮先輩はまた薄気味悪く微笑む。そして、何かを決めたような仕草の後言った。
「・・・色見くん、君さえ良ければ僕の告白の現場にいてほしいだがどうだろう」
「なんでですか・・・。俺には人の一大決心を冷やかすような悪趣味はないですし、恵先輩が困惑するでしょ」
「別に隣にいてほしい訳じゃないんだ。ただ、見ててほしんだよ」
「言っときますけど俺は慰めるのは下手ですよ?」
極力嫌味に取られないような口調で俺はこたえる。
俺の冗談はきちんと伝わったようで、先輩は愉快そうに顔を歪めて言った。
「ははっ、問題ないよ。僕が見せたいのはさ、諦めの悪い、僕の姿だからさ」
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