理想には届かないもの
あれからというもの、驚くほどに運営係の仕事は進んでいった。もちろん俺が運営係の進捗を知っているということは、それだけ本業(演出係の仕事)が暇であると言うわけで。
それはつまり演出係(朝日)が順調だということだ。
いかん、刺激がなさ過ぎて退屈を感じるようになっていた。この数か月で面倒ごとに、もまれすぎたせいか変な癖に目覚めたのかもしれない
なんて取り留めないことを考えながら、今日も川霧たちのほうへと向かう。
「だから今日中じゃないとだめなの!」
「そんなことないでしょ、少しは周りと足並み合わせることを覚えなさい」
「そのせいで進まないんでしょ!!」
俺はいつもの光景となった川霧と泉の喧騒にため息をこぼす。
そしてこれまた、いつものように俺は定位置となった二人から一席開けたところに座る。
「もういい!川霧さんのやりかたじゃ間に合わない」
後ろの喧騒は泉がドアを激しく閉めるその音で終わりを迎えた。
こめかみを抑え、小さく溜息を吐いた川霧は席に座る。
「ほんと自分勝手だわ、あの子」
「ああいう我の強さも大事なんだろ」
むしろ川霧こそ我を貫き通すタイプだったように思うが・・。これも変化だろうか。
ここ数日、泉は他の班の進捗なんてお構いなしに、期日から逆算的に考え、すべき行動を強行しようと動き、それを川霧はほかのチームとコミュニケーションをとってできるかどうかの判断をするという形で運営係は進んでいた。
まさか川霧がサポート役というのは最初はどうも俺には役不足に感じていたが、泉の性格も相まってか意外にこの形はうまくはまっているようだった。
・・・ただひとつ、他の班と意見がぶつかり合うことだけを除けば
「お前ならもっとスムーズに、荒波を立てることなくこなせるんじゃないのか?」
「無理ね。事実私のやり方では進行できていなかったもの。多方面に迷惑をかけることは申し訳ないと思うけれど、この際しょうがないのかもしれないわね」
俺は川霧の発言につい小さく笑う。
ほんと、変わったな。川霧。
前までは自分ができないことがある事を隠すように、強がっていたのにこうして純粋に自分の弱さを認め、相手をたたえるようになった。気づけばその横顔も大人びているようにも思えてくる。
「・・・なによ」
「いや、目立ちたがりなのにこうも簡単に泉にリーダーを譲るとは思わなくてな」
俺の小言に川霧はオーバーリアクションとも思えるほどに眉を顰める。
「勘違いしないで。私が生徒会に入ったのは中等部の人たちを見返すためであって別に自己陶酔のためじゃないわ」
「でも今でも生徒会長目指してんだろ?」
「うぐっ・・・!」
だまし討ちでも食らったかのように固まった川霧に思わず笑ってしまうと、大きく咳ばらいをして川霧はいつもの平静な感じでつぶやく。
「か、和樹くんは・・・私がもう生徒会長に興味がなくなってるって言いだしたらどう思うかしら?」
「えっ・・なんて?」
聞き取れた。けれど理解ができない。したくなかった。
だから俺は反射的に、縋るように聞き返していた。
今度は俺のその言葉を、川霧がまるでものすごいラグがあるような間を開けてから
「なんてね、冗談よ。私は泉さんにこの座を譲ることはできないわ、心配しないで」
とあまりにもその様は”いつも”の川霧は答えたのだった。
それからしばらくして、先輩たちと揉めた泉は荒い足取りで戻ってきた。泉はこのままで大丈夫なわけないと不満を口にすると川霧がそれを宥めるというおおよそ前では想像できないような光景に俺はなんだか自分だけ蚊帳の外のような居心地の悪さを持ってそれ眺めていた。
泉の案の全てが受け入れられたわけではないにしろ、運営係としてある程度の見通しがたったので運営係の教室の雰囲気が一気に仕事モードに変わるのを感じると、もとより暇つぶし感覚できていた俺はその邪魔をしないようにと部屋を出た。
嫌な胸騒ぎが、止むことはなかった。
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