氷解は突然に
あれから数日、俺たちの残りの仕事は演目の段取りを決める程度なので、そこまで大変なことはなかった。
というと誤解があるな。正しくは俺の仕事はない、だ。というのもなぜだか異様に朝日の意欲が高く、私こそが演出係のリーダーだといわんばかりの働き用なのだ。
おとといなんかは、家で練ってきていた演出案を俺と茉白に見せてきたくらいだ。あそこまで鼻息荒くプレゼンされるとこちらとしても譲るしかない。別に、面倒が省けてラッキーだなんて思ってないよ?
要は、暇なのだ。俺は
別に空き教室にいればいいんだけど、ほら、めっちゃ仕事している人の横で何にもしないのってそこはかとなく気まずいじゃん?
ということで、俺は空き教室を離れ、やってきた教室の扉をゆっくりと開けた。
すると、思っているよりも騒がしいことに驚く。十人いるかいないかほどの人数とは思えないほどの騒がしさというか、無秩序さを覚えながら俺は目的の人物に近づいて声をかける。
「・・・大丈夫か?お前の担当箇所がこうなるなんて以外なんだが」
「・・・あぁ、和樹君ね。しょうがないでしょ、会長の指示が曖昧なんだもの。私はどうすればいいのかしらね・・・」
疲労でおもたくなった頭を抱える川霧。
川霧の手元の紙を見るとどうやら運営に関する用紙のようだ。
「あれ、会長がお前にお願いしたのは当日の運営じゃなかったか?」
「えぇそうよ。ただ、あの後に会長から『やっぱり準備からお願い』って。・・・はぁぁ、ほんとあの人は」
一段と疲労の色を濃くする川霧。きっと会長に振り回されてきたのだろう、蓄積されたイラつきが抑えられないようだ。
運営を任せる?
俺は一人静かに思い悩む。会長は恵先輩に告白する機会として今回の忘年会を設けたのではと。俺は会長の人となりがわからないので、その思考のプロセスも導き出す結論も想像できないが、最後の大役を果たしたのちに想い人に気持ちを打ち明けたくなるものではないのだろうか?
告白にできる限りの時間を費やしたいのだろうか?なんかサプライズ的な感じでこの会自体を乗っ取るような、そんな大掛かりなものをじゅんびしているのかもしれない。
「和樹くん、あなたは演出の仕事どうしたのよ」
「あれはもう朝日の独壇場だ。俺や茉白のモブがでる舞台じゃないさ」
「・・・へぇ意外。あの子が仕切ってるのね。それじゃあなたはお役御免ね」
「別に俺が仕切るつもりは、はなからねーよ」
「そういって最後にはやるんでしょ?」
「それはその時にならんとわからんだろ」
投げやりに俺がそういうと、川霧と視線が交わる。そして川霧は小さく笑う。
「わかるわよ。あなたは、そんな人だもの」
「どうだか」
「別に、私の仕事をやってくれてもいいのよ?」
「ぜーったい、やだね。ニート最高、窓際族大万歳だ」
川霧、そんな冷たい視線を送っても無駄だぞ!今回は本当にやらないからな!
なんて思っていると、俺の後ろの扉が激しく開かれた。そして煽る声
「川霧さん?どうやら行き詰ってるようね!この私、泉奈々が手伝ってあげてもいいわよ?」
「・・・はぁ、めんどそうなのがきたわ」
「ちょっと、誰の事よ!!」
「本当におめでたい頭だこと・・・」
「はっあぁぁ!?私は二宮会長に『川霧さんがこまってるだろうから助けてあげて』って言われたから嫌々来てあげただけなんですけどー?」
「えっ、なんて?」
会長からの命令でここに来たってことか?なんでそんな面倒なことをするんだ?会長自身が川霧にアドバイスをすればいいじゃないか。
それこそ会長自身が運営係をやるっていう元の形にもどせばいいのでは・・?
俺は言いようのないもどかしさと気持ち悪さに胸がざわつく。
こんな手を打たなければならない理由がわからん。
「そう・・・」
まずい!!
俺は自分の考えで頭がいっぱいだったせいで気づかなかった、隣の小さく揺れる川霧の声に、電気が走ったような感覚を覚える。
「あの人、自分で頼んどきながら私じゃだめって判断したってこと・・?ははっ、ほんと誰のせいでこんなことになってるのかわかってるのかしら。あの飄々とした態度、思い出すだけでも殺意がわくわ・・・どう殺めてあげようかしら」
ぶつぶつと呪詛のような言葉を一息で怒りと共に吐き出すと、川霧はおそらく怒りでわなわなとさせていた手でぎゅっとこぶしを作って静止する。まるで、死んだように動かない。
そして急な脱力。
それから急に泉のほうに笑顔を向ける。
「えぇ、そうなの。私まったく仕事が進んでないから手伝ってくれたら助かるのだけど」
「ま、まぁ?どうしてもっていうなら手伝ってあげなくもないけど?」
「お願いします、私じゃどうもダメみたいで」
はははと機械的に笑う川霧。
こいつ、感情を殺してやがる!?
ライバル(泉視点)に丁寧に頼まれたのがよほどうれしかったのか、泉は川霧の棒読みな言葉に感動したようでうれしさで頬をうっすらと赤くさせ
「しょ、しょうがないわね!ほんとに手がかかるんだから!!」
とにやけずらを隠せずに、楽し気にそう言った。
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