互いが望むもの
「やっぱりダンス部とか吹奏楽部ですかね、声かけるとしたら」
「頼んだ」
「何で!?みんなで行きましょうよ!」
川霧と泉が出て行ってから程なくして始まった俺たちの話し合いは、特に問題もなく進んでいた。
と言っても今は別に交渉に行ったりしているわけではないので、机上の空論もいいところだけれど。
「でも演出って何なんですかね・・・。火とかをブワァ!って噴き出させます?」
「んなことしたらスプリンクラでびしゃびしゃなるわ」
「装飾って意味なら適当にキラキラしてめでたい雰囲気にすればいいのかな?」
「「うーん」」
俺と朝日は茉白の言葉に唸る。
あの会長のことだ、初の試みだからこそ目立つようなイベントにしたいだろうからそれでもいいが、やりすぎると滑ってる感じになりどうだよな・・・
俺がそうぼんやりと考えていると、朝日は「よしっ」と短く言って席を立った。
「今わからないことを考えても仕方ないですよ!とりあえず候補に上がった部活動にお願いしに行きましょうか!」
「いや、こんなふんわりしたまま行ったら向こうも困るだろ」
「何とかなりますよ!」
「めちゃくちゃだ・・・」
俺は軽い目眩にこめかみを抑える。
まぁ日程だけは決まってるから、その日に動けるかどうかがわかるだけいいのか?もしもう予定が入ってるなら代案を考えなければならないわけで、時間がない以上代案を考えるなら早いに越したことはないようにも思えてきた。
「はぁ、なら行くか・・・。でも、交渉はお前がやれよ?」
「え、どうしてです?」
「俺、ダンス部も吹奏楽部も嫌いだから」
「ひどい!?」
「もう、苦手でしょ?言葉が強いんじゃないかな」
「それどっちも変わらなくない!?」
そんな風に、俺たちは企画の全容も把握できないままに、会議室を後にした。
————
まずはダンス部。
「あれ、凪?どったの」
「優香ちゃん、ちょっとお願いがあって———」
体育館の舞台の上で練習を行なっているダンス部の隙を見て勇敢に突っ込んでいった朝日に続いた俺と茉白は舞台の隅で朝日の様子を見守る。
流石のコミュ力というべきか、朝日が舞台に顔を出すと不審がられるというようなことはなくむしろ親しげに手を振られたり挨拶されたりと、人脈の広さをまざまざと見せつけられた。
あいつ、馬鹿なイメージしかないけど学年の中でも人気がある女子である、ということを忘れてはいけない。たまに聞くもんな、朝日の名前。主に下品な男子の会話でだけど
「あー、担任の先生言ってたね、忘年会があるーみたいな」
「それでさ、それにダンス部さんに芸を披露してほしくて——」
「ごめん!その日さ、もう別の施設で公演の予定があって・・」
「え・・・」
マジかよ、まさかこんな形で困難に遭遇するとは
俺と茉白はどうしたものかと静かに目を合わす。
それから朝日はどうにか参加できないかと粘って話していたが、結局その話も芳しい結果は得られなかったようで、体育館に入るまではたくましかった背中を丸めて戻ってきた。
「ダメでした・・」
「みたいだね。きっと吹奏楽部は大丈夫だよ」
「そ、そうだよね!!流石に両方ダメなことはないよね!」
(まずい、この流れは・・・)
「あー、来週にコンクールがあって、最後の追い込みだってことになってるから難しいかも・・・」
「グフゥ!!」
ほら、こうなる。
吹奏楽部の部長を捕まえた朝日は、俺たち事情を知ってる側から見ても恐ろしいくらいの気迫で部長に参加してほしい旨を伝えたのだが、あっさりと却下されてしまった。
そんなこんなで会議室に戻ってきた俺たちは軽い絶望感に陥っていた。
「ううぅ、どうすればいいんですか、どうなってるんですか!!どうしてこうも私たちには運がないんですうぅ?」
「落ち着いて朝日さん、口調がおかしくなっちゃってる」
机に突っ伏して足を子供のようにバタバタとさせる朝日は続ける。
「どうしましょう、他に宴会向きな部活・・・。琴とか?」
「そりゃまた高尚な忘年会だな。二宮先輩の性分には合わないだろ」
「ですよね〜〜」
数十分ぶりにまた、俺と朝日は唸る。どうしたものか。正直、催しはそこまで考える必要がなさそうだと決めつけてた分この結果はかなりショックだ。
浮かぶ案はどれも現実的には思えない。
「劇とかはどうかな。演劇部に協力してもらうとか」
「この短い期間で新しいものを作らせると時間がないから難しいからなしだ」
こう言う時は相手の案に対するカウンターばかりが浮かんできて嫌になる。
そんな俺の答えに茉白は「そっか」と特に不満げもなく自分の案を取り下げた。
「なら演技をする人と台本を読む人に分ければ練習はそんなにいらないんじゃ?」
「それだと人がいない。人員がいないから俺たちが駆り出されてるんだぞ」
「うぅ、本当に終わりじゃないですか・・・」
ダメだ、このまま考えててもどうしようもない。
そんな自暴自棄な思いは皆持っていたのか、誰からともなく気付けば俺たちの会話は問題対処についてではなく、ただのいつもの雑談になっていった。
「そういえば朝日さんってあの吹奏楽の部長さんと仲良いの?やけに親しげだったけど」
「そうだね、中等部の頃に体育祭で一緒になってそこからって感じかな。最初私が知り合いいなくておどおどしてるところに話しかけてくれて・・。最近はないけど、一緒に買い物に行ったりとかしてたね」
「あのダンス部との子とも親しげだったな」
「3年の頃同じクラスだったんです。隣の席になってからよく話すようになった感じですねー色々大変だったんですよ?内進するかしないかですっごく悩んでて優香ちゃん。よく相談に乗ったんですよ」
流石の顔の広さも納得だ。
ひとえに朝日の人の良さもあるんだろうが、小学校からの変わりようを考えればやはり本人の努力も相当なものだったんだろう。そう俺は感心する。
昔の出来事を教訓にして今の朝日があることを考えれば、いつか川霧の言っていた「変化することは成長だ」という言葉が嫌に正しいように感じてしまう。
あの日から俺は変わっているのだろうか。
自分だけに正直で、うまく世間を渡るだけの嘘すらつけない小学生だった、あの日の自分は、その時初めて俺を認識した朝日の目に、成長して写っているんだろうか
そんならしくない、第三者の視線を気にするような思考がよぎると俺は軽く頭を振ってそれを振り払う。
「でも、そんな私たちももう高校二年生だなんて・・。まぁ後2年で大学生だと思うとそれはそれで楽しみですけどね。人生の夏休みなんて言いますし」
「俺は死んでも大学生になんかなりたくないがな」
「うん、私も嫌かな」
「え!?人生の夏休みだよ?私知ってますよ、大学生は全休なるものを作れて平日の社会人を横目にモーニングのコーヒーを嗜めるってこと!」
「最低だね、その大学生・・・」
目を細めてそう言う茉白に俺は付け足す。
「大学生なんてそんなもんだろ。四六時中人の家に入り浸っては叫んで、労働で疲れた社会人の憩いの場である飲みの場ではおもんない話を大声で品性欠いてくっちゃべってるような人種だぞ。俺はそんなのになりたくないがな」
「二人ともそう言う理由!?しかもなんか偏ってない?」
いーや、あってる。世の大学生は基本おもんないし品がないね!!
俺は意地として朝日の言葉に頭を横に振っていると、隣の茉白は呆れたように言う。
「私は違うから色見くんと一緒みたいなのはやめてほしいな」
「じゃあなんで嫌なの?」
「うーん・・・」
茉白は上を仰いで少し悩んだ末に、自信なさげに言葉を不器用に紡いでいく。
「大学生活が嫌、ってよりは・・・こう、大学生になるのが嫌、みたいな?」
「俺と一緒じゃねーか」
「全然違うから」
そこは断固として拒否なんすね、まぁいいっすけど
未だ釈然としてなさげな茉白の様子に朝日は笑みを浮かべる。
「依真ちゃんは高校生活がすっごく楽しいって感じてるってことなんじゃないかな」
いつもの人なりを示すような明るく優しいその声色は、すっと体に染み込むように溶けた。
いつかの『このままがいい』といった茉白からは先の見えない未来への恐怖だとか、後ろ向きな気持ちを汲み取っていた。
けれど、根拠もないし人の本当の気持ちなんて知りようがないけれど、朝日の言葉は、間違いないたった一つの答えであると、すぐに納得した。
それは茉白自身も同様だったのだろう、彼女はすぐに
「うん。それはそうかも」
と、同じく微笑んで頷いた。
笑い合う二人の様子を見て思う。
敵わないな、朝日には。
もう忘年会なんてどうでもいい。そんな気にすらなって、俺たちは、今しかない二度とこないこの時を、噛み締めるように楽しんだ。
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