きっと誰もが変わっていく
「色見くん、私たちはどこでしよっか」
「!! あー、そうだな別にここでいいんじゃないか?」
「それもそうだね」
未だなお動かない川霧の様子を眺めているところに急に茉白に声をかけられ俺はやや驚きながらそう答える。
俺は適当に配られたプリントの裏面をメモがわりにしようとすると
「はい」と茉白に渡されたペンと静かに受け取る。
すると、
「あの、ちょっといい?」
後方からの急な声に俺と茉白と朝日は振り返る。そこに立っていたのは、意外にも、あの泉だった。
泉はモジモジと気まずそうに手元を遊ばせながら、目を逸らして立っている。
「奈々ちゃん、どうしたの?」
「あ、えっと・・・その。私、色見に用があって・・・」
泉の声は緊張のせいか上擦っていて、あの文化祭の時の高圧的で自分勝手な子供っぽさは微塵も感じられない。
そんな泉の様子に、朝日は悩むようなポーズをとる。
そして紅潮した泉の頬に気づくと焦ったように立ち上がる。
「あ、え・・・えぇぇぇええ!?ま、待ってそう言うこと!?ちょ、ちょっと依真ちゃん私たち席外した方が——」
「そ、そそ、そういうんじゃないから!!」
必死に顔を真っ赤にして叫ぶ泉は、自分が大きな声を出してことに気づくと恥ずかしそうに咳払いをして俺の方を向く。
そして泉の顔は一変して、真面目になったかと思うと丁寧にお辞儀をする。
「文化祭の後夜祭の時は、ごめんなさい」
深く、礼儀正しいその所作に、俺は戸惑って何も言えないで泉の方を見るしかできない。
「私、子供だった。自分の力不足にみんなを巻き込んでるのを知りながら、認めたくなくて最後まで自分勝手を貫いた。私は悪くない、って思い込むためにも。きっとあの最後に私が失敗してなかったら私はあの時の子供のままだった。だから、その・・ありがとう。そしてあの時は、本当にごめんなさい」
所々震えてる泉の声からは偽りのようなものは感じられず、本気でいっていることは明らかだった。だからこそ俺は返す言葉に悩んでしまう。
適当に口だけの謝罪なのであれば俺としても、無視だとかこちらも適当に返すことはできるのだが、こうもまじめな謝罪では俺も許すしかないような気がしてくる。
けれど、だ。
そんな簡単に川霧や朝日を追い込んだ泉の行いを許していいものなのか、その問に対する答えが出ないままでいた。出せないままでいた。
だから俺は、いつまでも頭を下げ続ける泉をただ、眺めることしか——
「うん、いいよ。泉さん、反省してるのはよくわかったから顔、上げてよ」
「おい、お前勝手に——」
「勝手に一人で悩んで思いつめるような人に言われたくないよ。勝手さなら色見くんには負けるよ」
「それとこれとは話が別だろ」
「どうだろうね。まぁとりあえず、泉さんはもう同じことはしないんだろうし許していいんじゃないのかな?でしょ、泉さん」
優しく問いかける茉白の言葉に静かにうなずいた泉は、俺の様子を確かめるように覗いてくる。
俺は知っている。
こういう時の茉白の言葉は絶対ということを。もしこれで俺が茉白の決定に反抗の意思でも見せようものなら100%面倒なことになる。また俺の精神をじわじわと、チクチクと攻撃してくるのは目に見えているので俺は泉の視線に肩をすくめて「もう許したよ」と反応するしかない。
ただ、意地悪に一言付けたした。
「でも謝るのは俺に対してだけじゃない。もっとお前のせいで大変だった奴がいるだろ」
俺のその言葉に泉は苦しそうな表情になると、うなずいてから俺の脇を進んでいく。
そしてまた真剣な口調で言った。
「朝日、川霧さんも本当ごめんなさい。あの時、あなた達がいなかったら文化祭はもっとひどいものになってた。そんなあなたたちに私は仕事を任せて、どんどん進んでく仕事の様子を見て自分はできるんだって思っちゃってた。ごめんなさい」
「全然大丈夫だよ。別に奈々ちゃんは全部人任せだったわけではなかったし。ま、まぁ・・確かにその、私がする仕事量はやばかったけど・・・」
「ホントごめんなさい」
「い、いいの!!もう気にしてないから、ね!?」
「てことはあの時は実際は気にしてたんだな」
「・・・ほんとごめんなさい」
「だからもういいって奈々ちゃん!!和樹くんも意地悪しないでくださいよ!?」
朝日のリアクションにすっかり俺たちの雰囲気は和んだものになる。すっかり泉による苦手意識も薄れ、なんならこいつの変わりように俺は敬意すら覚えていた。
だからこそ、いまだ本調子ではない川霧の様子に、誰もが気づいていながら、彼女のその姿を見逃していた。気づいていないふりをし続けていた、はずだった。
「川霧さん!」
「・・え。なにかしら、泉さん」
「さっきから全く元気ないけど大丈夫なの?」
俺が知っている泉奈々の、本来の強気な口調で問いかけられた川霧は容量をつかめないといった様子で困惑の色を浮かべている。
「別に体調が悪いわけじゃないわ。ご心配ありが——」
「はぁ?心配なんかしてないわよ」
ピクリ、川霧の眉が動く。
「私が言ってんのは、そんなんで生徒会長になれるのかってこと。会長に任命されて日和ってるのかわからないけど、あなたがそんな感じなら私が選挙で勝つのは余裕そうね、よかったよかったー」
せいぜい口だけ大きい女ね、なんて小言を付け足して煽るような態度をとる泉。
おい、お前急に何でそんな寝てる獅子を起こすようなことを・・・!
「待ちなさい」
おおよそ人のものとは思えない寒気が俺の背後から放たれる。
恐る恐る振り返ると、顔を伏せたその主は長い黒髪で表情は隠れ、さながら日本人形的な不気味さをまとっている。
「誰が日和ってるですって?誰が口だけですって?」
誰かに問いかけるには小さな音量で、呪文のようにそう繰り返す川霧はやがて、これまで固まっていたのが嘘かと思うほどの勢いで椅子から立ち上がる。
伏せがちだった彼女の眼には、今は泉たった一人しか映っていないだろう。
「上等よ、その安っぽい喧嘩買ってあげるわ、泉さん。まあ、文化祭の時人の足を引っ張りまくって、仲良しこよししている友達に甘やかされてたあなたじゃ相手にならないけれど」
「ふん、さっきまで小さくなってた人が急に偉そうに。まぁ、できるだけ頑張ってみれば?どうせ選挙で勝つのはこの私なんだし!!」
「「・・・・」」
両者宣戦布告を言い放つと、バチバチと火花を散らしながら視線を交わわせると
「「ふんッ!」」
別の出口から、会議室を後にしていった。
泉なりの励ましだったのだろうが、やりすぎだ・・・。あんな好戦的な川霧は久しぶりに見た。
すっかり周りを見れるように成長している泉に再び感心しながらも俺たちも仕事を始めようかと朝日と茉白のほうを見る——
「どうした茉白さん?始めるぞ」
「えっ、あぁ。そうだね、頑張ろっか」
やはり茉白は今も変わらずマイペースだった。
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