未来は過去から伸びている
「おっ、みんな早いね」会長は力強く扉を開ける。すると奥から一人の影が飛んでくる。
「ちょっと!!自分で呼んどいてなんで当の本人が遅刻なのよ!?」
「麻耶さんは元気だねー。でも遅れたのは一重に僕の奔放さが原因じゃないんだ。ほら、ゲストの皆さんだよ」
「はぁ?なに適当言って——」
眉間の皺を一層濃くした麻耶先輩は会長が向けた手の方を睨む。怒りに満ち満ちたその目は俺たちに向けられ・・・!
「——って、和樹!!!??やだ、来るなら言ってよ!」
「——でも遅れたことは申し訳ないと思ってるよ」
「なに言ってんのよ航、別にわたしゃ怒ってなかったわよ!」
「うわぁ、麻耶先輩こわぁ・・・」
俺と目が合うなり、急に二宮会長に甘くなった麻耶先輩に朝日はどん引いている。
俺たちは手前の空いていた席に座る。周囲を見ると文化祭の時に見た生徒会の面々が(ただ一人、俺と目が合うとブンブンと手を振る麻耶以外は)静かに座っている。大きな会議室にはそこまで人はおらず、あとはぼちぼちと有志の参加者がいる。
———そんな中に、あいつはいた。
「・・え」
「泉さんもいるのね。あなた驚きすぎよ。あの子もあなたの事よく思ってないだろうし喧嘩売らないほうがいいわ」
「別にうってはねーよ」
「あら、変な顔してるからてっきり戦闘態勢なのかと思ったわ、ごめんなさい」
「おう、たった今戦闘態勢になったみてーだわ」
泉からの視線を感じながら、そんな意味のないやり取りをしていると二宮会長のはっきりとした声で会議室にはやや真剣なムードになる。
「それじゃこれから忘年会の企画についての会議をしようと思う。まずは日程についてなだけど——」
日程は三学期の定期試験の終了から2日後の金曜。そして会場は別館の集会室、催しにはできればダンス部などの協力を仰ぎたい旨が述べられた。
「それとせっかく忘年会って冠を被ってるからお菓子とかスイーツを大量に準備する必要もあるね。これは生徒会の残りの予算と相談しながらって感じになるとは思うけどね」
そこまで言うと、会長は俺たち聞き手側の方を見渡して質問がなさげなことを確認し頷くと机の上に置いてあるプリントを入れ替えるとそれを見て
「それでメンバーの割り当ては藤堂伝でみんなに伝えた通りだよ。で、裏生徒会の色見くんと茉白さんと朝日さんは催し物の準備をしてほしい。別にみんなで劇をしてほしいとか言うわけじゃないよ?出る部活動の確保とか、演出とかを考えてほしい」
そういうと二宮会長は俺たちに微笑んだ。
「・・・ハハ」
俺は思わず乾いた笑いをしてしまっていた。何もかもめちゃくちゃだ、この先輩。
この人の思い立った急造のイベントのために俺たちは有無を言わさず企画に参加させられ、今日も知らぬ間に予定されていた会議に集められたかと思うと、既に俺たちの役割まで決まっているようだ。
一体誰だけ前からこのイベントをやろうとしていたのかはわからないが、本当にこの1週間前くらいから構想を練っていたのだとしたら厚かましいやつだろう。
それこそが、会長にふさわしい器なのかもしれない。そんな風に思っていると、二宮会長はその笑みをある一人だけに向けた。
「それでだ、川霧さん。君には当日のリーダーをやってほしいと思っているんだけど、できるよね?」
「わっ、私ですか・・・?」
これまで見たことないくらいに・・・いや、確かに一回だけ見た”あの時”のように狼狽えた川霧はそれからすぐにいつもの凛とした雰囲気に戻ると冷静にいった。
「ど、どうして私なんでしょうか?正直、今回のイベントは会長の独断で行われるようなものです。私には会長が描いているイベント像が見えない以上、その役は無理だと思います。ここは会長がするべきでは」
はっきりと無理だと言い切った川霧。文化祭の時からは考えられない変化に俺が驚きながらも、目上の人に対して本音を言う川霧に変わらなさも同時に見出していると、会長はまるでそう答えることを予見していたかのように答える。
「それだと僕にも無理だね、だって僕自身勢いでこの企画思いついたわけだし」
「は?」
「だからさ、僕としては川霧さんに今回の忘年会で、ある意味での引き継ぎをしたいと思ってるわけなんだ」
「・・・」
さっきまで真剣に二宮会長を見ていた川霧の顔は一瞬にして不快さに染まる。
会長の身勝手さによって生まれたイベントで、会長自身が川霧にいわば現場監督的な役割を任命された。
それはつまり———
「まるで私が、来年度の会長になることが前提なように聞こえますが」
静かに、きつい口調でそう問うた川霧は、会長の目をじっと見る。それに対して会長は笑って答える。
「断定する気はないよ。ただ、あくまでも可能性が高いって話だよ。実際、誰の目にも来年の生徒会に君がいるのは確定に映ると思うけど?君だって今更このポジションを手放すわけもないでしょ」
「そ、それは・・・」
会長の言葉に、川霧は軽く目を伏せてからチラリと朝日の顔を伺った。
その時の川霧は軽く下唇を噛み、悔しげにも、悲しげにも見えたが、それに朝日は気付いていない。
さっきから朝日は茫然自失といった感じに机の上を眺めていて、とても周囲の変化に気づける余裕はなさそうに思える。
「・・・分かりました。当日のその役は私が引き受けます」
「うん、助かるよ!ありがとう、川霧さん」
対照的な表情を浮かべる両者から放たれる異様なオーラは、一瞬にして会議室に満ちる。
そんな中でも、やはり二宮会長は変わらない
「それじゃあ早速仕事に取り掛かろうか。もう僕たちには時間がないんだ」
その声を合図に人々は立ち上がったが、決してその中でも川霧はピクリとも動くことはなかった。




