変わらない昼休み
昼休み、朝の一件で一目につくのに嫌気が刺した俺は早々に教室を離れ空き教室に移動した。
今は少しでも一人になりたい気分だった。
空き教室の扉を開けると、当たり前だが中に誰もいない寂しげな教室の空気に心底安堵し、俺は朝から続く嫌な気分がようやく落ち着いたのを感じた。
いつもの廊下側に無造作に置かれた椅子に座ると俺は大きく息を吐いてからご飯を取り出す。
スマホで適当にSNSを見ながら無心でご飯を食べようと昼飯を口に運びかけたその時、扉が開かれた。
俺はきっと反射的に嫌な顔をしたことだろう。この部屋に来るまでにうっすらと予感はしていたからだ。昼休みは一人になれないのではないかと。
その予感はこうして的中し、その上俺が予想する最悪のルートとして、それは前日になってしまった。
「一緒に食べていいかな」
「別に俺に拒否権はないだろ」
「そっか。それじゃあ遠慮なく」
茉白はいつもの無感情っぽい感じで席に着くと、もう見慣れたいつもの弁当を開ける。
このタイミングで来るってことは、朝のことを聞きに来たんだろうな
直感でそう思い、茉白がそれについて聞いてくるのを待っていたが今のところ聞いてくる感じはない。俺は聞かれたくないことをずっと焦らされているような落ち着かない気分で、さっきから飯の味もわからない。こうなるってわかってたから茉白だけにはきて欲しくなかったんだ・・・
——聞くならさっさと来てくれ
そう思った矢先だった。
「あのさ」
——きた・・・!
腹の底に嫌な緊張が走る
「今日、その・・・。使ってたね、マフラー。暖かかった?」
「えっ?」
「? マフラーだよ、マフラー。私がプレゼントしたものだと思ってたんだけど違った?」
「あっ、マフラーな。暖かかったよ、ありがと」
「うんん、ちょっとしたお礼だったし。それに使ってくれて嬉しいよ」
小さく、可愛く笑う茉白。
「・・・んっ!!」
ドキリ、そんな音がつきそうな何かが身体中に走った。さっきまでの嫌な感じではない。自分の耳が熱くなっているような気すらある。
ヤバい。なんというか、ドキッとしてしまった。川霧や朝日ならまだしも茉白に?こんな無表情、無感情系平々凡々少女に?んな馬鹿な
気の迷い気の迷い。俺は疲れてるんだ
「ん、何か失礼なこと考えた?」
「滅相もない」
「・・・まぁいいけど」
うん、ないない。改めて茉白を見るが、やはり俺の目には茉白は影の薄く異性としてなんとか見れるくらいの普通すぎる女子だ。可愛いなんて形容が似合うわけはない、はずだ。
俺は急ぐようにご飯を口に詰め込み咀嚼する。そんな気の迷いから少しでも振り落とすように。
そんな俺の様子を不思議そうに見つめる茉白は、何も言わずにご飯を食べている。
気づけば、お互いに何をいうでもないそんな時間が心地よく感じていた。最初は嫌な顔をしていたが、すっかり今では平静な心持ちになった俺はぼんやりと今の状況を考える。
他人といるときに全く気を張らないというのが一般的にいいことなのかはわからない。他人への配慮がなさすぎると思われるかもしれない。しかし、茉白に関してはそんな無遠慮さがちょうどいいのだ。川霧や朝日といる時とは少し違うその感じが落ち着く。
すっかり俺の気分がいつものようになると、そこで俺は茉白の様子にやや違和感を覚えた。
なんだ?俺の方を伺うような視線が・・・
確信はない。だが、いつもよりもチラチラといった感じで俺の方を見ている気がする。マフラーのことで何か俺が言い忘れていることがあるだろうか?何か俺の言葉を待っている、そんなふうに見える。
うーむ、悩んでもピントくるものが浮かばない。こういう時は本人に聞くのが最善か。俺だって馬鹿なりに学習してるんだ。これで俺なりに考えてあらぬ方に考えが飛躍して茉白を怒らせる、なんて事は避けるべきだろう
「あのさ、俺に何か聞きたいことでもあるのか?」
「・・・えっ、私?」
「お前しかいないだろ・・・。さっきからチラチラというかソワソワというかそんな感じだから、何かあんのかと」
「私そんな感じだった?」
小首を傾げる茉白は嘘とかではなく本当に自覚がないようだった。いや、自分のことわかってないとお前の場合本当に誰もお前の気持ちを汲めなくなるんだけど・・・。本当にめちゃくちゃなやつだな
俺は思わず笑ってしまう。
なんだか肩透かしを食らったというか、そんな気分になって変な気構えも取れてしまった。
「あー、にしても面倒なことになったなぁ。忘年会か」
だからか、あれだけ目を背け自分の頭かた振り落とそうとしていたはずの話題は自分でも驚くほどにするりと口にできた。
「朝は災難だったね」
「ま、あいつらには悪いことしたんだ。これくらいの仕返しは受けるつもりだったさ」
「変に真面目だね」
変わらず小さな口でご飯を食べる茉白を見ていて、俺はふと思い立った。そしてなんでもない風に言ってみた。
「もしなんか困ったことあったら巻き込んでいいか?」
我ながら無礼で押し付けがましい提案だと思い俺は変な間ができたことに焦って訂正する。
「いや、流石に冗談だ。ちゃんと責任もって——」
「うん、いいに決まってるよ」
「んな適当に」
「適当じゃない」
珍しく強めな口調でそう言った茉白は続ける。
「それを望んだのは私だし、色見くん一人じゃまた変に背追い込んじゃうでしょ?」
「お、俺だって成長してるぞ」
「それでもだよ。私心配、だから色見くんの側にいるんだよ。だからさ、すぐ頼ってね?」
真剣な眼差しで必死に訴える茉白に俺はただそれを受け止めることしかできなかった。
変に緊張した俺は、固唾を飲み込んでようやく「考えとく」とうわずった声で答えたのだった。




