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過ちは、時間が経ってもなくならない

寒さが厳しい朝。今日から新学期かと、酷い生活リズムによる気だるさを感じながら支度をする。


「うーん・・・。いや、流石に・・。でもなぁー、はぁ」


 俺はかれこれ5分近く、悩んでいた。

 目の前にあるのはマフラーである。そう、あの日の夜茉白にお礼としてプレゼントされた、あのマフラーだ。

 寒いし機能面から考えるにマフラーを巻いていくのはありなのだが、如何せん茉白とは同じクラスだし茉白からのプレゼントを使っているのを見られるのはなんだか恥ずかしいと言うのが男心だ。


 うーむ


「まぁ、寒いしな・・」


 窓から見える景色の寒々しさという建前を手にした俺は、ようやっとマフラーを慣れない手つきで首に巻く。

 久しぶりの登校に重かった気分は、なんだか軽くなったようにも感じたのだった。

 ———————


 学校に着くと、もう既に生徒の多くが揃っていて久しぶりの再会に教室は賑わっていた。俺はその浮ついた空気に紛れるようにして自分の席に着く。できるだけ後ろの方に目を向けないまま。

 別に後ろの方にいる新井たちの視線から避けるためではない。廊下側の列の後方にいる茉白に対してやや恥ずかしさがあったからだ。

 

 しばらくして担任が入ってきてホームルームが始まった。担任のキャリアウーマンを気取ったようで言動のところどころに間抜けさが目立つ女性教員は簡単な挨拶と雑談を踏まえた上で閑話休題といった感じで手元の資料に目を落としながら話し始めた。


「——と、言うわけで新学期始まって早々にはなりますが一つお知らせがあります。生徒会の方が三学期の終わりに『忘年会』なるものを行いたいそうです。急造なイベントなので強制参加ではないようですが各クラスから代表を募って実行委員を作りたいと言うことで・・・」


 忘年会?


 よく会社員が番組とかのインタビューで愚痴っている付き合いのイメージのせいで、経験したことないにもかかわらず俺は顔をしかめた。

 ご飯ってのは仲がいい人と行くから楽しいわけで、その結果から誤った逆算して会社の人たちと行けば仲が深まるみたいな浅い思考は止めるべきだと思います。 

 僕、社会でたことないし学校という小さな社会の中ですら仲のいい友達なんていないけどね!


「そこで誰か立候補してもらえませんか?生徒会のイベントなのでもし来年度の生徒会に入ろうと思っている人にはいいアピールチャンスかもしれませんし。どうでしょうか」


 そういって先生は教室を見渡した。

 もちろん俺らは無言でそれに応える。俺たちのクラスにはこういった挙手待ちのイヤーな空気になったら手を上げてくれる心優しき陽キャが数人いるが、さきの先生の『生徒会に入ろうと思っている』という言葉のせいか、そいつらが手を上げる気配も無い。

 

 それもそうか、今どき生徒会に純粋な献身性を持って望む奴は少数派だろう。・・・それこそ、川霧とかくらいだ


 どちらかといえば生徒会所属による進学の推薦枠の確保という側面がこの学校では大きくなってしまっているように思う。そして進学校を自称しているこの学校内では多くの生徒は大学の一般入試で合格するために必死に勉強を行うので、その習慣はよく思われていない。そのための無言である。

 まるで裏切り者の自白を待っているような、そんな雰囲気すら感じる。


 いつもの、お決まりの重苦しい無言の空気が続く。

 けれど、それを破ったのは思っても見ない人物だった。


「わたしー、この人がいいんじゃないかって思ってる人がいるんですけど」


 どこか煽るようなその口調に、俺はより一層顔は厳しくなった。

 その声は教室の後方から。まるで特定の誰かに仕掛けられた攻撃のような鋭さを持って発せられた。


「色見、あんたなら適任なんじゃない?」

「———新井・・・」


 嫌味っぽく笑う新井は、睨んだ俺を見て、その笑顔を深くした。


「色見君ですか?」

「はい。私、最近部活動で色見くんと一緒になったんですけど、その時にすごい助けてもらって。今回、誰もやりたそうじゃないし色見くんの人助けっぷりが発揮されるんじゃないのかなーって思って」

「なるほど・・・。どうですか色見くん、やってはいただけませんか?」


 先生からの視線には早く決めてしまいたいという意志を感じる。


「いや、俺は」

「部の事、忘れたわけ?」


 教室の他の奴らなんてお構いなしに発せられた怒気のこもった新井の声は、教室の空気を緊張感あるものに一変させた。さっきまでの気まずさをただの重苦しいものだとすれば、今は腹が痛むような、そんな緊張感に満たされている。

 

 もし、俺がこれで新井の提案を飲むようなことをすれば、それは文芸部の依頼に続く新井たちの嫌がらせに屈した事になってしまう。それは避けたい。


 けれど、俺が文芸部《彼女たち》を傷つけたことも間違いではない。彼女たちの友好の証で、不仲の彼女たちを唯一繋ぎ止めている居場所であったはずの部を潰したのは、他でもない俺だ。そのことについて俺は何か反論する気も、彼女たちにその行為を許して貰おうとも思ってない。


 ——そう、これは禊みたいなものだ。そう捉えよう


 はぁ、と小さくため息をつく。


「わかりました。やります」

「助かります。ありがとうございます」


 丁寧に軽いお辞儀をした先生は用事を終えたとでも言わんばかりに資料をしまう。


「やっぱり色見は優しいね」


 禊だと、割り切ったはずなのにどうして無性に腹が立つのか。しょうがないことだと、そう決めつけ俺は一人の世界に閉じこもるようにして廊下側に顔を向けた。

すいませんが、少しでも続きが気になると思ってくださる方は、ブクマ、評価等で応援してくださるとありがたいです。

とてつもなくモチベーションが上がります・・

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