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大好きな、今でさえ

電車が来てもなお、茉白は何も言わず、俺たちは無言で並んで座る。

 茉白はずっと前だけをみていて、俺の思い過ごしなのかもしれないが、決して俺と目を合わせないと言う意志すら感じる。


 駅につき改札を抜けたところでようやく茉白は呟いた。


「くらいね」

「あぁ?まぁ冬だしな」

「・・・」


 俺の答えに茉白は何も言わずまた歩き出す。

 俺の家は駅の裏のため、駅の脇にある小道を行けばすぐに俺は家に帰れる。もう冷えたし、それに心労のせいか体もだるい。

 早くベットで寝たい・・・。そう俺は思いため息をつくと、隣の茉白がジッと下を見て立ち止まっていることに気づく。


「なぁ、さっきからどうしたんだよ。俺に用事があったんじゃないのか?」

「・・・・」


 俺の言葉に、やはり彼女は何も言わない。

 何か怒ってるのか・・・?そう思うと、途端に体がさらに重くなったような気がして、俺はすぐにも立ち去ろうと、


「ま、それじゃ気をつけて———」

「外、暗いね」

「・・・・」


 もうだるい、この子。思ってることがあるならはっきり言ってくれ。

 俺は内心ガックリしながらも、茉白が言わんとしていることを察そうと疲弊し切った頭を回す。


 夜。俺が帰るのを待つ。仕事をしてもらう。外が暗い・・・。


 あっ・・・


「わかった!送れって言いたいんだな、めんどくさい奴め」


 俺は疲れでおかしくなったテンションで思いついた答えを嬉々として言った。

 そして、茉白の方がピクリと震えるのを感じて俺は不味いと「ちょ、ちょっとま———」静止の声をかけようと・・・!!


「うん。そうだよ」

「え・・」


 茉白は俯きがちに小さく頷いた。

 その健気な様子に俺は戸惑いと多少のドギマギを感じ、顔を背ける。


「え・・・と。それじゃ、行くか」

「・・・うん」


 また小さく頷く茉白を認めてから、俺は歩き出す。最初は茉白の歩幅を意識せねばと思っていたが、むしろ茉白が俺の歩調に合わせてくれているらしくその必要はなかった。


 俺が歩きやすい足並みで進んでいくと、茉白の家へと続く坂を登る。左手に公園が見えてくると、茉白は言った。


「あのさ、ちょっと寄り道したいな」


 俺はその提案を受け入れると公園の入り口近くにあるベンチに座る。そこからは冬の風に揺れる枝や大きめのグラウンドがうかがえる。


 俺は近くにある自販機でココアを二つ買うと、先にベンチに腰掛けている茉白に一つ間を開けて座る。


「はい、熱いぞ」

「あ、ありがと。何円だった?」

「120」

「どうぞ」


 茉白は律儀に俺に小銭を渡すと、ココアの缶を開ける。

 白い湯気は、茉白の息で揺れては消えていく。

 茉白は小さく喉を鳴らすと、遠くを見ながら呟いた。


「裏生徒会、なくなるんだね」

「らしいな」

「悲しくないの?」

「まぁそりゃなんも思ってないわけじゃないけど・・・」


 俺はそこでチラリと茉白の横顔を見る。


「俺よりも悲しんでいるような人の前で簡単には言えねーよ」


 俺の言葉に、茉白はホットのココアを流し込む。

 ふぅと短くため息を吐いた茉白は呟く。


「・・・私は、今のままがいいって思っただけなんだけどな。どうして、今すら、無くなっちゃうんだろ」


 その声色は、いつものように熱がなく、色がなく、平坦だった。

 なのに不思議と俺の心にはズキズキと、彼女の声色は響いた。


 小さな手で缶を強く、縋るように握って地面を見つめる茉白にせめてもの思いで俺は言った。


「まぁ、そのなんだ。今日はちゃんと『今』を保存できたじゃないか。慰めにも、ならんかもしれんが」

「・・・ううん」


 小さくそう言うと茉白は立ち上がる。そしてそのまま後ろの方へと歩いていった。きっと飲み干した缶を捨てにいったんだろう。俺も冷める前に飲んでしまおうとプルタブに指をかけようと———


「ねぇ、色見くん」

「あ?どうし——」


 俺は声のした真後ろにいる茉白の方へ体を捻ろうとすると、それは頼りなさげな茉白の力で止められた。


「だめ、こっちみちゃ」


 変に優しい声色に俺は困惑して何も言えないでいると、茉白は続ける。


「今日、本当にうれしかったの。みんなで写真まで撮れるなんて・・・」


 そこで変に間を開けた茉白からは、喉が鳴る音が聞こえてきたような気がした。

 ソワソワとする緊張が、俺の体を走る。


「だからね、これは、そのお返し」


 小さな囁き声が体に近づき、細い腕が伸びる。甘い匂いもすぐそこに感じる。


「ちょ、ちょっとま———」

「はい、マフラー」

「へ?」


 急にうっすらと暖かさを感じる自分の首元を見ると、白いマフラーが。

 足音がしたかと思うと、目の前には微笑みを湛えた茉白の顔が。


「どう?サプライズなんだけど」

「え?あ、あぁ。あったかいよ」

「ふふっ、何それ」


 いや本当に顔が熱くてしょうがない。俺がサプライズの意外な破壊力にあわてていると、茉白は満足げに俺の方を見て頷くと


「うん、似合ってる」

 と言うのだからよりほおが緩みかけるのを感じ、咄嗟に俺はマフラーで口を隠して目を逸らす。


 変に気まずい、気恥ずかしい空気に俺は耐えられず「そろそろ帰るか」と震えながらに提案した。すると茉白は小さく笑ってそれを許した。


 すぐそこにある茉白の家に着くと、茉白は立ち止まる。


「きっと今日の思い出は忘れないよ」


 そういう茉白の手に握られたスマホは、今日撮った記念写真だった。

 それを愛でる様な、優しい視線と先の口調からは、なんだか今生の別れの前のような雰囲気を感じてしまって俺は焦る様な口調で応えた。


「別に、これからだって今日みたいに遊べるだろ」


 そんな俺の内心を悟ったのか、さっきまでとは違う色合いの微笑みを一瞬だけ浮かべると茉白は俺から目線を遠くに移して呟いた。


「だと、いいんだけどね」


 その様子に、俺は否定の言葉を言おうにも喉につっかえて何も言えなかった。


「それじゃ、改めて今日はありがとね。あったかくして寝るんだよ?わかった?」

「あぁ、おかげさまで大丈夫だ」

「? まぁならいいんだけど。それじゃ、おやすみ」

 俺の方を見ながら扉に手をかけた茉白は徐々に体を家の方に向け——


「また行こうな」


 ———俺のその言葉に、茉白は止まった。


 そして、もう一度俺の方を見てから


「うん」


 そう笑って、今度こそ茉白は、扉の向こう側に消えていった。


 取り残された俺は、仄かな頬の熱が冷めないうちにと、早足で家に帰った。


一ヶ月も空いて申し訳ないです。

しばらく更新できそうです!

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