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成美先生の課外授業

 あれから食事が喉を通らなくなったのか川霧と朝日は一切食事に手をつけなくなり、その代わりに俺が無理やりご飯を消化するように食べ続けた。


 けれど不思議と味はあまり感じなかった。


 そんな俺の努力の甲斐あってか、すっかり鍋の具材がなくなってきたので食卓の様子を伺った成美先生は鍋を片付けるためかそれを持って立ち上げると


 俺たちの方を・・・いや、俺以外のメンツを見ていった。


「よし、今日はありがとな急に誘ったのに。おかげで鍋も食べれて生徒と交流もできて満足だ。片付けは色見がするから、みんな送るよ」

「あ、ありがとうございます」

「・・・・」


 やはりまだ川霧は何も言わない。


「せ、先生?俺、聞いてないんすけど・・」


 俺は小さく手を上げて、控えめに反抗の意思を表明する。

 けれどそんな俺に不満げな視線を送ってきたのは、成美先生ではなく茉白だった。


「・・・自分だけタダでご飯が食べられるってのは都合が良すぎるんじゃないかな」

「・・・そうっすね」


 グサリと、茉白の視線と言葉が刺さり俺はすっかり手を下げて萎縮してしまう。


 怖いよ、この人・・・


 そんな俺の様子を見ると、茉白は今度はいつもの感じで続けた。


「大丈夫?お皿洗える?」

「流石に!・・・いや、多分」


 家で家事なんか点でしないため自信はないが、別にスポンジでゴシゴシするだけだろ?余裕だよ、だからそんな目で俺を見るのやめてくれ、茉白。

 俺は半ば茉白の呆れているような責め立てるような、はたまた何の感情も読み取れない目から逃れるように適当に全員の皿を集めて、キッチンに移動する。


 ええと、洗剤は・・・・。あった。これをこのスポンジにかけてゴシゴシすればいいんだよな、ちゃっちゃと終わらせてしまおう。


 そんな感じで皿洗いを始めたうちに、もうみんなは帰り支度ができたそうで成美先生の車に乗り込むために家を出ていった。

 ただ、最後に家を出た川霧の背中は憔悴し切っていて、俺はそれが気がかりで、彼女が玄関に一人になったタイミングで声をかけた。


「川霧」

「・・・・」


 俺の方を小さく振り向く川霧は、まだ何も言わない。


「気をつけて帰れよ」


 まだ、何も言わない。

 ただ、扉から出るその瞬間に一言


「・・・ごめんなさい」


 そうして、扉が閉じられた。



 すぐそこにいるはずの彼女との距離は、どこまでも遠のいてしまったような錯覚を覚えた。

 ――――――――――――

 ほぼ皿洗いが終わったころ、ガチャリと鍵が開く音がした。


「おー、すごいじゃないか。手際がいいな」


 送迎を終え帰ってきた成美先生は、玄関で靴を脱ぐと俺の頭を手荒くわしゃわしゃと子供をあやすような感じで俺を労った。そんな成美先生の態度に苛立ちと恥ずかしさを感じたい俺は


「まぁ、先生が使う皿ですし多少汚れてても大丈夫だと思えばそこまで苦じゃないですよ」


 なんて思ってもない軽口を叩いて自分を誤魔化した。


「・・・私、肉を切る時素手で触って、そのままだったわ」


 !?


 俺はあまりの驚きに声が出ず、恐ろしいものを見るように先生の方に首を回す。

 成美先生は、俺と目が合うとニカっと笑って言った。


「ちゃんと洗ったか?」

「はい。さっきのは冗談です」

「私も冗談だ。・・・えーっと、ビールビール。ほれ、まぁちょっと付き合えよ」


 先生はそう言って、冷蔵庫から取り出したばかりの冷えた缶を見せつけながら、ソファーに座り自分の隣をぽんぽんと叩いた。

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