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川霧はちょろい

 しばらくすると朝日と川霧もやってきたが、川霧の表情は朝日とは対照的に曇っていた。

 というか呆れていた。


「にしても凛ちゃんが買うとは。あんなに無駄遣いはしないって言ってたのに」

「・・・・別に、ただこれだけ長居して何も買わないのも変だと思ったからよ」

「えー、私ファミレスで勉強する時ドリンクバーだけとかやってたけどなー」

「あなた楽には死ねないわよ・・・」


 えー、と嫌そうに声を上げる朝日は俺たちを認めるとまだ元気が有り余っているといった感じで言った。


「お待たせしました!次どこいきましょうか」

「もう私は帰りたいのだけど・・・・」

「なんで、まだ服買っただけだよ!?」

「誰のせいだと思ってるのかしら・・・」

「ごめんごめん。素材がいいからさ、つい色々試したくなっちゃうんだよ」

「そ、そう。ま、まぁほどほどにしなさいよ」

「うん!」


 朝日は持ち前の眩しい笑顔で川霧を宥めると俺と茉白の様子を確認する。そしておそらく俺たちから主体性のなさを読み取ったのだろう。朝日は少し悩むようなしぐさをとってから、恥ずかしそうに手を遊ばせる。


「それじゃあ良かったらゲームコーナーいきませんか?みんなと行けば楽しいと思うし・・・その、なんというか、いつもの人達とじゃ行きずらくて・・。べ、別に行きたくなかったら言ってくださいね!全然考え直すんで!」


 言いずらそうにみんなの顔色を伺ってから言った朝日は、何に焦っているのか慌てた様子で言葉を濁した。

 そんな朝日に茉白は小さく微笑んだ。


「いいね。私あんまり行ったことないし」

「和樹くんはどうですか?」

「意見なし」

「そこは異論じゃないのかしら・・・」


 呆れたように額を抑える川霧。

 しょうがないだろ。外出する予定って当日になると面倒になるだろ?それだよ、それ。

そんな俺たちの反応を見ると朝日はこれまた満足そうに笑顔を浮かべて言った。


「よーし!それじゃゲーセンにレッツーーーうぅ、ゴー!」

「「「・・・・」」」

「私だけ子供みたいじゃん!?」


 言ってルンルンで歩き出す朝日を追いかけるように茉白が後を追う。そしてその後を俺と川霧が並んで歩いてゲーセンへ歩き出した。

 

「・・・何よ、こっちみて」

「いや。ただ川霧もすっかり朝日に飼い慣らされたんだなと」


 その最中で思い出すのは、先の隣の川霧の様子だった。


 そう、さっきの服屋で朝日のゴリ押しで浪費した後に容姿を誉められただけでそれを許した、もはや最初の頃の孤高のイメージはどこへやら。ちょろいただの女子となった川霧がいた。


 けれどそんな川霧も、さすがに俺の言葉には昔のような冷酷な感じで眉を顰めると攻撃的につぶやいた。


「何かしら?そもそも和樹くんが選ばなければこんな出費はしなかったのよ?」

「俺が悪いのかよ・・・」

「そうね」


 否定は許さない、と言いたげな口調の川霧はそこで足を止めた。


 それが俺には違和感で、ん?と俺は彼女の方を振り返った。


「おい、遅れる――」

「だ、だから」


 なんだか緊張したような、震えた声で川霧はそういうと、俺に右手の紙袋を俺に差し出した。


「だ、だから・・・・その、これ・・持ちなさい」


 そして、らしくもなくおずおずと紙袋を押し付けてきた。


 俺は高圧的な命令とは裏腹な口調と、それに何よりも、いつもは透き通っているくらいに白い頬がほんのりと赤くなっていることに気づき、俺は急に鼓動を速くなっているのを感じて困惑していると


「ほら、はやく」


 川霧はより一層その紙袋を強調してきた。

 俺はやや頭が真っ白になっていたせいか、無抵抗にそれを受け取るしかなかった。

 まだ緊張の抜けない俺は、紙袋を持ちながら立ち尽くしていると、川霧は小さく笑って俺を追い抜こうと――


「ま、待て――」

「勘違いしないで。ただ荷物が邪魔なだけだから。ね?」


 そしてその先で、指を口にやりまるで秘密ごとを伝えるようなジェスチャーで、意地悪な笑顔でそう言った。


 収まり気味だった鼓動が落ち着くには、まだ時間が必要なようだった。


 あれっきり、足取りを軽くした川霧は俺よりも一歩ほど前をいくので、俺は一人後方でただうるさい心臓が落ち着くのを待ち続けるしかできなかった。

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