ついに始まった課外活動
ついに始まった課外活動だが−――
「凛ちゃん、これは!?絶対可愛いって!」
「・・そのヒラヒラは何かしら。そんな些細な面積にまでお金を払いたくないのだけど」
「別にそこはそんなに値段に関係ない気がするけど」
俺は騒がしい服屋(主に朝日)の外で一人、吹抜けの手すりに肘を置き、店の方に背を向ける体勢で一階を行き交う多くの人の群れをボーッと見下ろしていた。
俺と茉白が到着したのでみんなでどの店に行くかと話になると、朝日が「凛ちゃんにコーデをしてあげる」と意気揚々とこの店に来たのはいいんだが・・・
俺はチラリと後ろを振り返る。
おしゃれ感のある内装に、それらを淡く照らすライト。
妙なクラシック調な曲
並んだ服の整理をしているようで横目では虎視眈々と客の様子を窺う店員
・・・こんなの入る方が難しいだろ
そんな風な圧倒的アパレル感の前に俺は怖気付き、自分が今回の外出の提案者であるにもかかわらずこうしてぼっちで時間を潰しているのだ。
中では、宣言通りに朝日が川霧に着せ替え人形よろしく思いつく限りの服の組み合わせをさせては、真剣な顔つきで腕を組んで検討している。
まぁ着せ替えられている当の本人である川霧は既にゲンナリしていたこともあってか、強く抵抗する気力すらなくただなされるがままといった感じだが、こと購入することに対しては拒否を貫く、そんなプライドバトルが繰り返されている。
そしてそんな二人のそばでは、壁がわに並んだ服をいつものぼーっとした顔・・・よりはどこか楽しげな雰囲気で眺めている茉白がいる。
なんだか、ああやって普通の女子みたいな茉白を見ると、それはそれで新鮮な感じだな。
茉白の学校生活だったり性格だとかはむしろ平凡でありきたりで特筆するところがないような感じなので一般的に服屋でテンションが上がる女子である茉白がああなるのも当たり前か。
あぁ、そっか。新鮮なのは楽しげな茉白の方か。
基本あの子の感情は「無」といった感じで、たまに出る感情は「怒り」だからこうも新鮮に映るのか、なるほど。
そう結論に辿り着くと、この前の茉白に怒られた場面を思い出し、ちょっとお腹が痛くなってきたので俺は忘れようと小さく頭を振る。
すると
「ねぇ和樹くん、ちょっと来て!」
喧騒の中でも一際届く声で呼びかけられ、俺は若干の戸惑いの後おっかなびっくりでオシャレさmaxな店に入る。
大丈夫かこれ。俺が入った瞬間ブザーとかならない?なんて思いながらも、騒がしい朝日の方に近づく。
「どうしたんだよ」
「凛ちゃんが服買いたいっていうんですけどーー」
「訂正しなさい、ほぼ強制でしょ。それに買う気は――」
「でさ!色々着てもらって二つに絞ったから、やっぱりここは男子に決めてもらおうかなって!」
「・・・・」
だ、だるすぎる・・。
真っ先に言いかけたその言葉をなんとか飲み込む。流石に目をキラキラとさせている朝日を目の前にしてそれをいうのは憚られる。
でも正直俺自身が服にそこまでこだわりがないので、となると流行とかではなく単純な俺の好みによる選択になってしまう。それはそれでキモくないか?
「はあぁぁ」
と俺はわざとらしくため息をついてから、朝日さんが嬉々として持っている服を眺めてみる。
右の方の組み合わせの上がチューブトップと呼ばれるものにシャツで下はダメージジーンズといういかにも派手系な人間がいていそうなファッションで、左の方の上は、薄い青のブラウスにロングスカートと言った清楚系な格好で、右の組み合わせほど眩しさを感じない。
うーん・・・
そういえば成美先生が授業中、女性に二択を迫られた時は相手が選んで欲しそうな方を選ぶべきって言ってたな・・
と、記憶の中で唯一の先生からのご教示を思い出していると
「川霧さんの印象からあえて外すってのも、面白いよね」
いつの間にか俺の隣に来ていた茉白は真剣な眼差しで、顎に手をやってそう呟いた。なんというか思考が漏れた、みたいな感じだ。
「・・若干乗り気だろ、茉白さん」
「え?うん。服って自分で着るの躊躇しちゃうものも他人だと全然違和感ないこととかあるし」
なるほどね、確かに俺が革ジャンとか着てるとむしろ着られる感じになるけど古着とか着てるような人が着ると様になるもんな。
・・・てかなんでオシャレな人が着てる古着みたいなのって変に毒々しいの?祟りかなんかなの?
改めて朝日の示す服をみる。
やはり左の方の組み合わせの方が川霧のイメージに合っているので無難に行くならこれにするべきな気もするし、それだと面白くないよな・・・。なんというか、こう、変化がないよな。
どうしようかと頭を悩ませていると、不意に浮かんできたのは俺の隣にいる茉白とのあの時の会話だった。
『・・・そうかもね。でも・・・わがままかもしれないけど、私は今のままがいいな』
俺たち四人の関係が変わらないことを切実に望んでいたあの言葉が、急に思い出された。
表情に感情を出すのは面倒だからといつも無表情な茉白が、極めて痛切に顔を歪めつぶやいたあの夜のことを。
なぜあの時茉白があんなことを言ったのか。何か思い当たることでもあったのかなんてのは分からないし聞いても教えてくれないだろう。
でも確かなのは茉白は今の裏生徒会のメンバーが、在り方が気に入っているということだ。それは俺も同じで、振り返ってみればあの時に成美先生に言われ空き教室に訪ねてからというもの、楽しいことばかりではないが自分の学校生活が色づいたことは間違いないしそれを心のどこかで楽しんでいるのもまた事実なのだ。
勿論その色は綺麗な色だけではなかったけれど。
一人でいれば、自分に厳しくてどこまでも自分を追い詰める不器用な孤高な女生徒と喧嘩することもなかっただろうし、知る由もなった少女のコンプレックスに触れて不仲が続くこともなかったはずだ。そして、文化祭の時のように自分の友達を傷つけられ他人に怒りを覚えることもなかった。
思い返せば「楽しみ」以外の思い出の方が多いように感じるが、それを含めて楽しんでいる自分がいる。
きっとそれは、茉白も同じなんだろう。
・・・で、あればだ。
「そうだな」
長らく悩んでいる体勢の俺がそう呟くと、待ってましたとばかりに朝日はソワソワし出す。
――こんな服ごときで大袈裟かもしれないけど、それでも俺は
横目で茉白を見ると、彼女と目があった。
――今のままがいい。なんの変化もこず、だらだらと今の生暖かい状況が続いてほしい
「こっちの左の方じゃないか」
それはつまらない選択かもしれないが、それでいいと、俺は思うのだ。
「まー、こっちですよね!・・・でも凛ちゃん大丈夫?さっきはこれちょっと高いって言ってたけど」
「あら、そんなこと言ったかしら」
「あ、あれ!?もうお会計行くの?他に見なくていいのーーーってちょっと待ってよ!」
俺が選択するや否や速攻で朝日の左手から一式を奪うと店の奥に川霧が消えていき、それを追いかけるようにして朝日も消えていった。
俺はその様子を眺め終わると、どっと疲れが押し寄せてきたのでついため息をつくと
「いいの?あれだといつもの雰囲気と変わらないけど」
変に疲れた俺を不思議そうに見つめながら、茉白はそう言って小首を傾げた。
・・・この野郎、誰のせいでここまで変に気を遣ったと思ってんだよ・・・!
俺のさっきまでの気苦労を軽んじられた様に感じた俺は茉白に向かって大層恨めしそうに
「お前があんなこと言うから気ぃ使ったってのによ」
と不満を示した。
すると、茉白はそれを聞いてからややあって、ほんの少し目を丸くした。様に見えた
「そっか」
と、いつもの冷淡さな言葉からは驚きも何も感じ取れないので俺の見間違いかもしれないが。
それっきり何もいってこなくなった茉白と共に一足先に店を出た。
何を考えているかわからない茉白だが、その横顔は気分よさげにも見えた、そんな気がした。




