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またしても、色見和樹はひとりである

一通り俺が提案を話し終えると、朝日は顔を伏せ他の方法を模索しているようだった。そして川霧はずっと何も言わず、俺が語り出してからずっと目を閉じ、今も静かに腕を組んでいる。


どんどん朝日の眉間に皺がよる。無理もない。俺の意見は気分がいい物ではないのだから。何よりも気分が悪いのは、他の代案になるであろう線は先の会話で潰しているので、俺のその案だけが眼前にただ一つの解決策として存在することだろう。


汚らわしいのに、一つしかないので半強制的に選ぶしかない理不尽さ。


きっとそれが朝日をチクチクと時間と共に苦しめているのだろう。申し訳ない


「でも、別に私だけ良いようにしないでも・・・」


「お前まで汚れ役しちゃったらこれまでの行動と乖離しすぎだろ。気にすんな」


「で、でも・・・」


こんな状況でも人のことを心配できる朝日の優しさに圧倒される。俺が朝日を汚れ役にしなかったのか過去の言動との整合性を取るためだったが、やはりこんな優しい子を傷つけるような役回りにすることはできない。


そんなことを考え、新たに気を引き締めていると


「私は何もしなくて良いのかしら」


至って平静な感じでそう呟く川霧はじっと俺の方を見るばかりで何か感情が秘められているように感じないこともないが、この作戦をやる以上、人に共感するスイッチなんて切った俺には今の川霧の気持ちはわからない。


「あぁ。この依頼は俺と朝日さんが受けた物だからな」


「・・・一応茉白さんもじゃないのかしら」


「あれだ、あいつに関してはいなくても気付きにくいのが逆に良いことって感じだしな」


「それいても変わらないって言ってるように聞こえるのだけど?」


「誤解だな」


「そう」


川霧は強気な俺の姿勢にたじろぎながら納得したところで俺は川霧の問いから切り上げる。


実際、口ではああ言ったが、茉白は自分が何かするというよりも他のメンバーを支える役割に落ち着いている気がするので、あいつも今回の俺の作戦では特に役割を持っていない。


それに、俺の考えも茉白との会話のなかで薄らと思いついたものなので、そう考えれば茉白はもう仕事をしてくれているようなものなのだ。


・・・てか、あの野郎は俺に電話しときながら今日来てないんだからどうしようもない。この作戦はできるだけ早めにやる方が、文芸部のためにもなるだろうし。


「さ、善は急げだな」


らしくもなくポジティブなことを呟いて教室を出る俺の後ろ姿を静かに二人は見守っている。


この作戦の実行役は今日の分は俺一人なので当たり前なのだが


「んじゃ、行ってくる」


行って俺は廊下に出る。目指すは文芸部だと、大股で歩く。


「・・・ごめんなさい」


朝日のその言葉に俺は、聞こえないふりをした。




(残り二日)


次の日の放課後。俺たちは揃って文芸部へと足を運んでいた。


昨日の俺の行いは今日のための布石であるので、俺の作戦の本番は今日と言っても過言ではない。


俺が昨日、二人と別れてからしたことといえば、文芸部の部室に忍び込むことだけだったのだから。


俺と茉白は同じクラスなので今日話す機会を伺っていたのだが、向こうがこちらを避けているのか、はたまた俺に運がないのか、その機会は一日を通して現れることはなかった。


俺は後ろを歩く川霧の方をチラリと見ながら


「別にお前は来なくてもいいんだぞ?」


と、遠回しに帰れと言ったがそれを見通した上でなのかはわからないが、川霧はおどけた様子で


「一人でいるのもつまらないでしょ」


と言ってのける。


本心からなのかはわからないが、高校では孤高としての態度が染み付いていた川霧からすれば、その考えが持てるというのは、成長かはわからないが間違いない“変化”ではあった。


なので俺は


「そうか」


とその変化を肯定も否定をしない曖昧な返事をすることしかできなかった。


俺が前を向く間際、その川霧の隣にいる朝日に視線をスライドさせる。


朝日は空き教室から文芸部の近くにくるこれまでの間、ずっと顔を伏せがちで思い詰めるような顔をしているのだ。これから文芸部が迎えるであろう結末もまたこれまでの問題と同様に満点な解決ではないことくらい、馬鹿な俺でもわかっている。


わかっているからこそ、「気にすんな」なんて気軽にいえるわけがない


だから俺は勝手に、朝日の元気の無さは文化祭準備から文芸部の依頼と立て込んだことによる心労のせいだと、俺はそう決めた。


もう戻る猶予は、ないのだから。


そう思い俺は前だけを見る――後夜祭の、“あの顔”を二度とさせないようにと。

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