迷いの末の、彼女の決断
朝日は俺の問いに固まった。それは決してさっきまでの意味がわからないことに起因しているわけではないだろう。・・・だよね、朝日さん?大丈夫だよな?
安芸からの依頼されて以来、朝日は部の関係修復と文集の完成両方を達成しようと尽力していたことを考えれば、俺も問いかけは彼女の頑張りを無視する酷いものだし、だからこそ朝日も決めかねているんだろう。
今俺が朝日に要求しているのは、朝日自身への否定に他ならないんだから
「・・・」
本当にただ固まって表情のひとつも変えずに朝日は迷い続ける。
自分にとって真に大切なのは、どちらなのか。
「言い方を変えようか、責任感から部を守るのと真の友情、朝日さんはどっちが見たい」
じっと俺は朝日の目を見て言った。
ここで初めて朝日は眉を顰めた。そして次には申し訳なさそうに下唇を噛む。強く噛む。
「・・・もし、あるんだったら。見てみたいです、本当の友達を。本音で語り合える仲を」
震えていた。友情に懐疑的な朝日陽凪の、切実な願いを告げるその声は、震えていた。
それが恐怖なのか不安なのか、はたまた別の物のせいかは俺にはわからない。
わかるのは彼女が今この瞬間、精一杯の勇気で一歩前進したことくらいだ。
「・・そうか」
だから俺はその頑張りを誉めるように、怯える朝日を励ますように、気付けば小さく笑っていた。
「だそうだ。川霧はどうだ?」
「別に私は今回の件はあなたたちに任せるわよ。それに・・・朝日さんが勇気を出したんだもの、背中を押すしかないでしょ」
「優しいな」
「あら、和樹くんは意地悪な子がタイプなのかしら?Mなのね、気持ち悪い」
俺は適当に川霧の悪態を受け流すと、川霧の隣に立つ朝日は俺に質問してくる。
「で、どうやって安芸ちゃん達を仲直りさせるんですか?」
至極真っ当な意見だ。そこが問題なのだ。・・と言っても俺の考えているやり方では、俺らにできることはないんだが。
「知らん」
「そんな!?」
久々に明るいツッコミの声を上げた朝日に安堵感を覚えながら、俺は続ける。
「考えてもみろ、俺よりもコミュ力のある朝日さんがどんなに頑張ってもあいつらの仲が良くなることはなかったんだ。そこに俺とか川霧が行ってみろ」
「火に油ね」
「だな。なんなら飛び火して学校全部が燃えてもおかしくないくらいだ」
「・・・」
「・・んん!まぁだから、俺たちが何かあいつらに介入して仲を取り持つって線はなしだ」
何言ってんだみたいな朝日の冷たい視線を無視して俺は二人に俺の考えを徐々に打ち明けていく。二人の頭の中にあるであろう解決法の候補を絞っていくように。
別に勿体ぶってるからではない。ただ、俺自身悩んでいるからだ。“このやり方”でいいのか、他の安全策はないのかと。朝日に“この方法”を伝えるのは、どうしてもひどいことをしている感が拭えない。
「なら文集を手伝うってことですか?喧嘩の原因でもある文集ができれば確かに改善されるかもしれないですけど」
「それは無理じゃないかしら。それだと文芸部の作品じゃなくなっちゃうもの」
「あぁ。それにもう文集は諦める。今回は二者択一で、文集を捨てるからな」
「・・・やっぱりそうですか」
朝日も気づいた上で、薄い望みにかけての発言だったのだろう。川霧と俺の意見にすぐに納得はしたものの、申し訳なさそうな顔をする。
きっと安芸たちに向けられた物だろう。だが、もう時期俺もその感情を嫌でも飲み込まないといけない。
安芸たちに対して。そしてーーーー朝日に対してだ。
万策尽きたという感じの朝日と、もう俺の考えを読んで俺が提案するのを待っているような川霧はもう何も言わず、じっと立ち尽くす。
でもそれは、俺の言葉を待っているようにも思えた。
・・・本当にこれでいいのか。他に何かいい案は・・・・
―――きっと、険しい顔になっていたかもしれない。
胸の中の葛藤が顔に出たかもしれないままで、俺は短く呼吸を整えてから二人を見る。
「俺に、考えがあるんだーーー」
文集締切まで、あと三日。




