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俺の決断は、人頼り

次の日の放課後、昨日わざわざ電話をよこしたんだからてっきり茉白も来るものだと思っていたんだがーーー


「「・・・・」」


いつもの空き教室には・・・俺と朝日の二人きりだった。


あまりの気まずさに、あの茉白の励ましは俺に面倒ごとを押し付けるためのリップサービスなのでは、とすら疑ってしまう。


重い空気の中、俺は昨日の帰り道での朝日との会話を思い出す。


朝日は、安芸に協力したのは憧れたから、好きなものを誇る安芸に憧れた。そういったはずだ。


そしてーーー


―――俺には言われたくないと、確かに怒りをあらわにもしていた。


今でも何が原因だったのかはわからない。一体俺の発言の何がそこまで気に触れたのか見当がつかない。確か、朝日のその発言の直前に俺は、「お前は悪くない、元気だせ」的なことを言ったはずだ。であれば朝日が気に食わなかったのは無責任な励ましに関してだろうか。


けれどあの言葉までにも俺は何回も励ましの言葉をかけていたことを考えれば、その考えは間違っているようにも思われる。


・・・ダメだ。全くわからん。


そう諦めると、あからさまに俺に気を遣って挙動不審気味な朝日をチラリと見ながら俺は校庭の方の窓をぼんやりと見る。


冬も近いというのに元気な運動部の掛け声に感動しながらあくびを押し殺していると・・・


扉が開く音がした。


けれど窓に映る扉に立っていたのは、昨日の夜に俺に電話をしてきた茉白・・・ではなくーー


「凛ちゃん?」


「久しぶりね。この間にだいぶ大変なことになってたようだけど」


そう言って川霧凛は名の通りの凛々しさでトレードマークの長い髪を耳にかけながら朝日の横の席に腰をかける。


この時の俺の思いを考えてほしい。どれだけ彼女の到来が頼もしかったか。


あれほど重く暗かった空気も川霧のオーラの前では晴れたようにすら思える。


「あれ、もう用事は終わったの?生徒会関連のことじゃないの?」


「流石に終わったわよ。・・・むしろあなた達の進捗に驚くくらいだわ」


言って、川霧はジッと俺の方を睨む。


え、なんで俺?まぁ確かに俺は川霧に半ば強引に安芸の依頼を受けるように言われたが・・・


でも依頼は朝日も受ける以上、俺だけを責めるのは納得がいかない。


「別に依頼を放棄したわけじゃねーよ。・・・文芸部の意向で俺たちが手を引くしか無くなった、それだけだ」


そう、ぶっきらぼうに言い放った俺に川霧はやはりまたイラついた様子で呟いた。


「・・・ホントに鈍いわね」


「は?」


「別に。IQが離れると会話はできないっていう話は本当なんだなって言ったのよ」


「さっき聞こえた内容よりひどくなってないか?」


「さぁ」


久しぶりの川霧の口撃に不快感はなく、むしろ心地よさすら感じる。


・・・なんか俺がMみたいだがそういうわけではない。文芸部の空気に当てられてか、少しばかり最近の空き教室は空気が悪かったから、いつも通りな川霧の態度がありがたいという話だ。


もしかしたら川霧は俺たちの様子を予想して、訪ねてきたのかとさえ思ってしまう。


「で、さっきのはどういうことかしら。文芸部の意向って何?『色見くんがキモい』とでも言われたの?であればしょうがないけれど」


「おい、川霧。表でろ、一発ぶん殴ってやる」


「あら、友達を殴るかしら?酷い男ね」


訂正だ、俺はコイツとの軽口の言い合いで不快感を覚えている。とてつもなくな!


「うるせ、照れながらキャンプファイヤに誘ってきたくせに」


「ッ!!?」


「大丈夫!?」


見るからに急に頬を赤くした川霧はわざとらしくゴホゴホ!とむせたのか咳払いなのかよくわからないリアクションをとる。


俺はそれをほくそ笑みながら見る。朝日はもうすっかりいつもの様子で咳き込む川霧の隣で騒がしく身振り手振りで「心配」を表現している。


その景色は、文化祭前までのありふれた俺たちの放課後の姿だった。


川霧と朝日の会話を俺が盗み聞いては静かに笑い、茉白にキモがられる。・・・茉白がいないことを除けば、今の俺たちは少し前のままであるようでーーー


―――だからこそ、俺は違和感を拭えなかった。朝日と川霧の立ち振る舞いに






「―――てわけで、私と色見くんと依真ちゃんは何もできないって感じなの」


朝日の簡潔なことの成り行きを聞いた川霧はそれを聴き終わると特に悩むこともなく行ってのけた。


「そう、なら文集は諦めるしかないわね」


「だな」


全くもって同意見だった。というかそれ以外にやりようも成りようもないので当たり前ではあるのだが。


けれど依頼を持ってきた川霧ですらお手上げを宣言するのであれば、これで晴れてこの文芸部の一件は不完全燃焼という形で完結したといえるだろう。


・・・そのはずなのだが、俺の胸のつっかえはなぜだか無くならない


「そ、そうだよね。もう、終わりだもんね」


そう呟く朝日の顔は、ここ数日で見慣れた悲しげなものだった。だが、朝日はパンっと手のひらを合わせると文字通り表情を切り替えて「いつも」の感じで呼びかける。


「そうだ!みんなでご飯にでも行く?文化祭のお疲れ様会やってなかったし!!依真ちゃんにも連絡してみようかな」


「ふふ。確かにそういうのもいいかもね。ね、色見くん?」


「・・・あぁ、そうかもな」


柄にもなくそう思った俺は二人につられるようにして席を立つ。


・・・柄にもなく


「ちょっと待ってくれ」


どうした?といった感じで扉に歩いていた二人は歩みを止めこちらを振り返る。


「どうしました?用事でもあるなら後からでも」


「そうじゃない」


「え?」


遮るような俺の物言いに朝日は心配そうな顔でこちらを見る。


俺はそんな顔を見ると言いかけていた言葉が喉に引っかかるのを感じる。


この二人に、必死に俺たちの空気を取り繕うよう努めているこの二人に、これをいうのは酷なのではなかろうか。


だって、朝日は。いや、目の前の二人は今、互いに気を遣って文芸部、ひいては文化祭から生じている俺たちの不和に目を逸らしているのだから。


それはきっと、おそらく、互いを大切に思っているからこそで。大切だからこそ嘘をつき続けているのだから・・・


だからこそ・・俺は悩む。


「お腹でも壊したのかしら。保健室まで運びましょうか?色見くん」


――『色見くん』その言葉が思い出させるのは、ついこの間の後夜祭での記憶だった。正確には、俺が泉や朝日に激しい憎悪をぶつけられ気が滅入っているところを川霧に救われた記憶が、頭をよぎる。




今のままじゃだめだ。絶対に




気づけばさっきまでの躊躇はどこかに消えていた


「違うだろ」


顔を上げた俺に二人から視線が注がれる。不安と緊張。そんな感じだ。


そんな俺の様子を見てか、“あの時“俺を不器用なりに慰めてくれた川霧は


「何がかしら」


と、まるで俺を試すかのように言った。


そしてその物言いは、彼女の思惑を婉曲的に伝えるものだと、理解した。


それで十分だった


「呼び方だ」


「え、呼び方ですか?」


何を言っているのかと自分が置いていかれたことを感じた朝日は不安げに聞いてくる。


そう、呼び方だ。川霧の俺への呼称の話だ。だってアイツはーー


「文化祭から俺のこと、下の名前で呼んでたよな川霧。なのにどうして頑なに、お前にしては不自然に俺を苗字で呼ぶんだ?」


「・・・別にたまたまでしょ。そんな小さなことが気になるなんて女々しいのね」


「それに、朝日さんもだ」


急に名前を呼ばれ、驚いたのか朝日はびくりと体を震わせる。


いや、そんなことはない。むしろ、朝日に矢印が来ることがわかっていたはずだ、彼女自身が。だからこそ不安だったんだろう。くるとわかっていたからこそ、いつ糾弾されるのかと。


「お前もまるで文化祭の前の時みたいな振る舞い方だ。まるで二人ともあの文化祭を隠すみてーにな」


「ど、どう言うことですか」


「文化祭、いや。後夜祭か。あの時、お前は俺にキレたよな?別にそれに関して俺は恨んでたりはしない。ただ安芸がきた時、俺は朝日さんに嫌なこと言ったが極めて大人みたく受け流したよな。まるで俺だけが引きずってるみたいだった。・・・でも違う、そうだろ朝日さん」


俺のジリジリと詰め寄るような物言いに朝日は言葉に詰まる。頬をかきながら力なく笑う。


「え、えっと。だ、だって色見くんは気まずいかなーって・・・思って・・。私だって反省はしてるんです。だからこそ触れないのがいいのかなーみたいな。色見くんも嫌じゃないですか?険悪なムードを思い出すのは。だから」


「違うだろ、それは自分のためだろ。朝日さん」


大きく目を見開いた朝日に俺は畳み掛けるようにいう。


「朝日さんは俺たちの喧・・・仲違いに背を向けてひたすらに何事もないように振る舞ってことなきを得ようとしたんだ。臭く醜い感情や思い出に蓋をして“なかったこと”にするために。それが朝日さんのやり方だった。それは依頼の取り組み方にも出てた。言ってたもんな?不仲になったはずの文芸部の仲を取り持って文集を作ることになったって。でも、それは何の解決にもなってはないだろ。問題は文集や部活動に対する方向性の違いなんだ。それじゃ、意味はないだろ。実際いまだってーー」


「それの何がいけないんですか。みんなが本心を見せ合えるなんて、嘘偽りのない関係なんて・・・!そんなの・・・ありえないです」


まるでその口調は、朝日にしては珍しく重苦しく、真剣な声色で。反論の余地はなしというようであった。


流石の俺でもわかる。


きっとそれは、これまでの朝日の経験、悩み、葛藤の末の答えでありーーー


―――彼女の秘めている信念であったり教訓のようなものなのだと。


言うなれば、“今”の朝日の代名詞である。と


・・・だからこそ、俺はーー


「そうだろうな」


「え?」


否定なんて・・・できるわけがない。


「今の流れはてっきり否定する流れかと思ったのだけれど・・・。なにが言いたいのかしら?」


「・・・・」


俺が言わんとする事がわからないが故に身構えていた朝日は、川霧の質問の言葉を聞くと不安そうな顔で俺の方を見ては返答を急いてくる。


「だから、嘘で成り立つ関係が悪い関係だとは思わないってことだよ」


「? そんなことわかってます、そんなあらためて言わなくてもーー」


「いや、わかってない。結論は同じでも俺と朝日さんじゃ考え方が違う」


「というと?」


川霧によるパスを受けて、俺は眉をひそめている朝日に対して俺の考察を話していく。


ただこれは、俺が朝日から感じる雰囲気であったり彼女の言葉の節々から出る真意みたいなものを汲み取っただけなので偉そうに考え方が違うと言ったが、本当に違うのかなんて俺には分かりはしないんだが。


「朝日さん。お前は本音でぶつかり合う文芸部を羨ましそうに見てただろ?」


「・・・!!べ、べつにそんなことは・・・」


「嘘だ」


俺は静かに、けれど強い語気で、その嘘を否定する。確信を持って、だ。もし本当に羨ましく思っていないのなら・・・なら・・・!!


「どうして、あんなにも憧れてそうな顔してたんだよ」


「・・・」


そう、あの時。朝日が一度今回の依頼で心が折れてから一緒に帰ったあの時に、朝日は落ち込みからか何回も自分の行動に対してネガティブな事を呟いていた。


そして、


文芸部の関係を話す時、憧れているように、笑ったのだ。


勿論、文芸部員の三人は本音でぶつかり合ったせいで崩壊したのでそう言った嘘のない関係の中にいる人間にはそれ相応の問題があるんだろうが。まぁ隣の芝生は青いってやつだろ。


「それにずっと気にしてたんだ。なんのことかはわかるよな?」


俺の疑問にびくりと体を震わす朝日。やっぱり朝日は覚えていた上で、嘘をついている。


「昨日私が色見くんに怒っちゃったことですよね・・・。あの日も余裕がなくて、つい」


「あぁそれだ。あの時からずっと俺はなんで怒られたのか考えてたんだが一向にわからなくてな」


「別にもうどうでもいいじゃないですか、お互い様ってことで。それよりーー」


まずい。


強情な口調で話題を終わらせようとする朝日に会話の主導権を握られーー


「・・・和樹くんあなた、怒らせた女性に怒った理由を聞くなんてさすが万年ぼっちね」


「だから考えたんだって!んで、その結果何と無くではあるがこうじゃないのかって答えが出たんだ。だから、その・・・。聞いてくれないか、朝日さん」


「・・・別に、好きにしたらいいじゃないですか」


「・・・助かる」


忘れようと提案しただけに、踏み込まれたのが嫌だったのか、むくれた様子の朝日に心の中で感謝をしながら一人ぼっちなりの俺の考えを言ってみる。


「最初は俺の慰めが良くなかったのかと思ったんだ。文芸部の存続のために動くのを諦めていた俺から慰められたところで無責任な言葉にしか感じないんだろーなって」


「私、和樹くんに言ったわよね?今回の依頼に関してあなたの意思は関係なしに強制だって。なのにあなた、どういう意味かしら」


そう言いながら川霧は俺の方に少しだけ歩み寄ってくる。


なんだ・・・?って!!


「痛い痛い!耳を引っ張るな!」


「はい、これでおしまい。反省しなさい」


「は、はい」


一才の手加減の無い暴力!!これで俺がやり返そうものなら社会的に俺の地位が下がるんだろ?なんだそのクソゲー・・・


ヒリヒリとする耳元あたりをさすりながら俺は、きっとこれもクヨクヨするなという彼女なりの後押しなのだと好意的に解釈して朝日に続きを語る。


「でも慣れない慰めなんて他の日にも口にしてたからなんであの日だけ朝日さんの機嫌を損ねたんだろうって考えたんだ。そしたら一個、引っかかった言葉があったんだ。俺はあの時『朝日さんは俺より強い』って言ったよな?それがなんか、どういうわけかはわかんねーけど、怒らしちゃったのか思ったんだが・・・どうだ?」


俺がこの言葉が原因なのでは無いかと思い至ったのは消去法なので自信があるわけではない。ただ俺の中では、思い当たる節がここしかないというだけのことだ。


だから俺は最後の方は少しビビりながら朝日の表情を伺った。


「・・・そうです。正解ですよ」


そう朝日は言葉の割に不服そうに、認めなくなさそうに険しい表情を伏せ、噛み締めるように呟いた。


「でも、じゃあなんでそれがムカつくんだ」


「そんなの・・・!!」


朝日はバッと顔を上げると泣き叫ぶような声で、大きな瞳を潤ませて俺の目を見る。


「そんなの・・・私の憧れが、色見くんだからですよ」


「は?」


思ってもない返答に俺は間抜けな声を出す。


今なんて?この俺が憧れだ??


「な、なんで俺が・・」


「なのに色見くんがいい加減な事を言うから腹が立ったんです!」


「いや、でも俺なんかが」




「なんかじゃない!!」




これまで聞いた事がないほどの大きな声は俺の声を遮って、空き教室に響く。


思わず朝日の圧に俺はたじろいでしまって、朝日は叫ぶ気はなかったのか自分自身に驚いた様子で固まり、かえって教室の静けさが嫌に強調されるように感じる。すると。


「わ、私・・・ごめんな」


「で。まぁこの問題は解決したとして。文芸部の方はどうするのかしら」


唯一平静な川霧の言葉に俺は、まだ強張っている体のまま応える。


「ん、あ、あぁ。そうだな。遠回りしたが、その話をしないとな」


言って俺は気分を切り替える。・・・下手したらまた、朝日を傷付けることになるかもしれないのだから


「朝日さんは、嘘をつくのは当たり前なんだよな?」


「ま、まぁ少なくとも文芸部の子達よりは・・・。って、褒められたことじゃないですよね」


「んなことないさ。清濁合わせのむって言葉があるんだし別にいいだろ。むしろ俺は羨ましいとすら思うがな」


「え?」


「だって要は、そこまでして守りたいものがあるってことだろ」


「!!」


朝日は俺の言葉を受け大きく目を見張っている。まぁ本人は意外と自分の行動の凄さであったりを見落とすもんだ。自分が知り得ないところで何の気なしにとった行動が他人を幸せにしてたりするもんだ。


俺は自分のためにしか生きてこなかったからこそ、朝日が気づいていない彼女の凄さに気づけたのだろう。自分のために生きると言うのは、大切なものが最低限しかないと言うことだからな。朝日のように器用には生きることは、俺にはできない。


・・・だからこそ、こんな提案しかできないんだろう


俺は改めて二人様子を見る。


俺の雰囲気で話題が変わることを予感したであろう朝日は緊張した様子で、川霧はただじっと行末を見守るように静かに佇んでいる。


俺は提案を口にしようとしたが、少々心構えを作るために言い淀む。


俺の提案ではきっと、文芸部の関係修復と文集制作の達成の二つは叶うことはできない。つまりはハッピーエンドにはならないことが、確定しているのだ。だからこそ、俺は文芸部のためではなく仲間のために、この機会を利用しようと考えたのだ。


だからここでは朝日に決めてもらうしかない。


ひどく自分勝手だとは俺も思うが・・。


俺は朝日に向かって呟く。



「朝日さんは、文芸部と文集。どっちが大切だ?」

すいませんが、少しでも続きが気になると思ってくださる方は、ブクマ、評価等で応援してくださるとありがたいです。

とてつもなくモチベーションが上がります・・

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