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友達だって結局は他人

俺の数歩後ろを黙って歩く朝日と一緒に帰路について数分たつが・・・重く苦しい空気が変わることはなかった。


コミュニケーション能力が欠如している俺が変に気を遣ってもあらぬ方に行く気がするので黙るのが最善な気がして、ただ家までの残りの距離を考えていると、後ろの朝日が数分ぶりに口を開いた。


「友達ってなんなんですかね」


またしても俺への問いかけというよりも独り言と言った感じだが、沈黙で敏感になった俺の耳にその声が届いた以上、無視することはできない。それに敬語を使っているということは俺への問いかけであるはずだ。


「定義なんてねーだろ。曖昧だからこそみんな一緒にいるんじゃないか?言葉や定義だけじゃ表せない関係、だからお互いに口調や一緒にいる時間を増やすとかして少しずつ確かめていくんだろ。知らんけど」


俺の返答にやはり朝日は何か返すことはない。と言って何を重い、考えているのかは先頭に立つ俺にはわからない。振り返ってもいいが、落ち込んでいる様子をジロジロ見られるのは決して気分がいいものでもないだろう、きっと。


なのでその代わりと言ってはアレだが、俺の方からも質問をしてみることにした。


「朝日さんには、文芸部の様子はどう映ったんだ?」


「・・・みんな本当に仲がいいんだなと思いました。・・・私にはあんな風に言い合いなんてできないですから」


少女は儚く笑った。遠くで遊ぶ子供を見て自分の昔を懐かしむような、そんな微笑みはもう自分には成し得ないと悲しく思う念や羨ましさを感じさせたので


「そうか」


と、これ以上必要に朝日を傷付けるのは良くないと思い軽く相槌程度の返事に留める。


・・・憧れ、か。あんな風に朝日を攻め立てた文芸部(主に新井)にそんな感情を抱くほど、朝日は素直なのか、はたまた傷心しているのかは、俺にはわからない。


だが、俺は半ば反射的に


「でもあの形だけが友達の形ではないだろ。別に言い合いができないからと言って朝日さんの交友関係を懐疑的に思わなくていい」


「・・・」


慰めの言葉を口にしていた。


親しき仲にも礼儀あり、という言葉もあるくらいだ。遠慮で満たされた友達という形態があっても珍しくはないだろう。むしろそっちの方がある意味で文芸部のように喧嘩が起きなそうなので仲睦まじそうに見えるだろう。


またしても訪れた沈黙を埋めるだけのためにまた俺は質問をする。それについても俺は会話を続ける気はない。


「朝日さんはどうしてあそこまで文芸部・・・いや、安芸に肩入れしたんだ?」


「きっと・・・憧れのせいだと思います」


そんな俺の気は、あまりにも抽象的な解によって打ち消されてしまう。


「どういうことだ、憧れって。別に俺たちのとこに安芸が来た時点では、あいつらが言い合いをするような形の友達だったっていうのはわかんなかっただろ」


「そうじゃないです。なんというか・・・そう。あの安芸ちゃんの強さに、憧れて。そしてーー」


急に言葉が途切れるものだから俺は朝日に何かあったのだろうかと不思議そうに振り返ると、朝日はただ前を見るだけであった。


何にも起きていなかったことに安堵して前を向く。――けれど、安芸が強い、だと?安芸には申し訳ないが、彼女の様子、容姿はか弱そうに見えるが。なんてったって見た目は眼鏡をかけた文学少女の様なのだから。


「安芸ちゃん、言ってたんです。どうしてそんなに文集を作りたいのかって聞いたら、『作品作りが、文芸部が好きだから』って。・・・あの笑顔はーーー私なんかにはできるわけがないほどにキラキラしてて。守りたいって思ったんです」


ひどく感傷的で、震える声に俺はまた振り返る。


朝日は俺と目が合うと、自虐的に笑って見せる。まるで愛想笑いでも誘うように


「まぁ、私にはやっぱり守ることもできませんでしたけど」


けれど俺は、笑うことなんて、できなかった。


慰めるべきだと思ったからだ。


「だからそう自分を責めるな。『私なんか』なんていうな。俺は文芸部を早くに見限ったが、お前は最後まで頑張った。朝日さんは俺なんかより強くて必要とされてるんだ、元気出せよ」


だから、想像もつかなかった


「え」


朝日の顔が激しい怒りに染まっているのが。


「――れたくない」


「なんていーー」


「色見くんだけには、言われたくなかった」


朝日は両拳を強く握り誰にでもなく、自分の足元にその感情を吐き出すと


「すいません。私、これで失礼します。・・・さようなら」


平坦な調子でそう言った。


下を向いたままの朝日が、一瞬で俺の隣を過ぎていく。


その朝日の様子を、俺は振り返ることすらできなかった。俺を走ってすぎていった彼女の顔の残像を、ただ、じっと見ることしかできなかった。


最近似たような表情を見たと、既視感をうっすらと感じたがーーーそれが後夜祭のものだと気づくのはまた後になってからだった。

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