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朝日はあの日の景色を思い出す

なんで?どうして?何がいけないの?


突如として新井に敵意を向けられた朝日は、久しぶりの“ソレ”が強迫観念のように動悸を激しくさせ、過去のトラウマを引きり出しては軽いパニック状態に陥っていた。


それもそのはずである。今となっては朝日陽凪は本当の自分を押し殺し、常に周囲の空気を伺い最も他人が必要としていそうなことを瞬時に考え行動するのがさがとなっていたから。


非難される行いはしていない。自分は文芸部の仲直りのために全力を尽くしたはず、という認識と自分に向けられた新井の感情の不整合さの原因を悩むたびに呼吸が困難になってくる。


どうしてみんな仲良くできないの?なんで本心をうまく殺して会話できないの?仲良くなる必要なんてない。互いが仲良く“見えるふり”に励むだけで人間関係なんてずいぶん楽になるのに。



どうしてそんな簡単なことができないの?



朝日の言いたいことは、過呼吸気味なせいか喉につっかえてうまく言えない。


・・・けれどその現象は過程こそ違えど「言いたいことを言えない」という結果としてみれば、ここ数年間の彼女の生き様と全くもって同じままであるが。


苦しくて辛くて、今にでも死んでしまいそうなくらいに体が熱い。


少しでも体温を下げようと、自分のシャツの首元のボタンを千切るような勢いで手を伸ばすが指先は恐怖と焦燥感と絶望感に震え、身体中が思うように動かない。


自分の体が他人のものであるような、そんな感覚。


とうの昔に“本当の自分“を否定され、その上で作り上げた”好かれるような誰か(今の朝日陽凪)“すら否定される。



私は誰?



こんな私を誰が必要としてくれるの?



そんな不安に心臓が押しつぶされる。

・・・あの時もそうだった。


か弱い素の自分を曝け出して生きていた頃。あの頃、自分の趣味。言い換えれば一人だった当時の朝日からすれば心の拠り所とも言える大切な本を馬鹿にされ、奪われ笑われたあの頃もこんな気持ちだった。


クラスひいては学校に親しい人はおらず、この学校には私を必要とする人はいないんだと、悲しい現実から逃げるようにのめり込んだものが読書だった。


しかし読む本はいわゆるライトノベルだったせいか、当時のいじめっ子たちは水を得た魚が如く朝日を晒しものにしたのだった。


その時も感じたんだ。どうしようもない孤独と絶望を。私が好きなあの世界ですら私のことを好きではないんだ。か弱い「自分」なんて殺して心にしまう方が自分のためだ、と。


・・・けれどあの時、唯一の居場所を、生きがいを奪われた朝日がなんとか生きることができたのは、その絶望の中、立ち上がってくれた人がいたからだった。


――助けて


・・・って無理だよね・・・。


だって私、嫌な態度とっちゃったし。久しぶりに感情的になったかと思えば暴力振るちゃったし。


・・・でも、もし、こんな私でも、まだ嫌いにならないでくれたなら・・・あの時みたいに・・・

「助けて・・・色見くん」


そんな独りよがりでわがままで醜い願いは私の口からこぼれ落ちて・・・



「おい、どうしたんだこれは。文集作りもせずに人を責めて、これがこの部の活動なのか?」



「え・・・」



――そこには、あの時よりも背が伸びた、あの人が立っていた。

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