こうして彼は動き出す
じゃあ、と言う茉白の声に俺は意識を彼女に向けると
「なんで部室に行ったの?」
「はい?」
思わぬ質問に俺はびくりと体を震わせる。
あの日、文芸部に訪ねたのは放課になって時間が経った後で同じクラスの茉白が
教室を出ていったことは確認済みだ。
一体どこで?安芸からか?でも対して安芸と茉白に関係値があった様には見えな
いし・・・
なるほど、これはブラフか!
「別に行ってなーー」
「伝聞形だった」
「・・・!」
妙に鋭い指摘に今度こそ言い逃れはできないと俺は渋々部室に行ったことを認め
る。
いや、別に悪いことでもないんだけど。ただ茉白がジト目でみてくるもんだからなんだか悪いことをした気分になる。
「ただ安芸に進捗を確認したかっただけだ。手は貸さない、本当だ。」
「別に色見くんが意見を変えたことに怒ってるわけじゃないよ」
「怒ってんの!?」
「・・・誘導尋問だよ、色見くん」
「自爆だろ」
「何か言った?」
俺はピシっと自分の姿勢を正すと対面に座る茉白はため息混じりに続ける。
「で、結局どうやって解決するの?」
「だから解決はできないし手は貸さないってーー」
「うるさいなぁ。どうせ何かしらはするつもりでしょ?それを教えてって言って
るの」
「別に何もーーって痛ッ!?」
急に足先の痛覚が悲鳴をあげる。間違いない、向かいの茉白のローファーの踵
(かかと)が踏みつけてきていた。
最近川霧にも俺の足を攻撃されたが、なんなの?俺の足からフェロモンでも出て
んのか?ムンムンと。・・・なんか臭そうだな、そのフェロモン。
今も踵でぐりぐりと早く言えと急かしてくる。
「本当は何かできないかと思ったんだが、親友との思い出を残すための文集なら
俺にできることはない。別に文集に個人的な想いがないなら俺が作品を書くなり
妥協案を出すなりできたが、安芸の心情から察するに手を抜くことはない。だか
ら俺には何もできん。元々親友だった奴らの仲を取り持つ術も、文集作りを達成
させる方法もないからな」
俺が降参だと両手を上げながら独白を終えると茉白は少し悩むようにボーッと斜め下の方の床を見たまま固まっている。
目を開けたまま寝ているんじゃないかと俺が確認しかけた瞬間、茉白は小さな口
を開く。
「まだ、早いんじゃないかな。諦めるのは」
俺は話を聞いていなかったのかと眉を顰めるという行為でそれに反応す
る。
「要はこの依頼は、安芸さんたちの関係の修復、それが安芸さんの本当の願いな
んでしょ?ならまだ諦めるべきじゃないよ」
急に何を言い出すのかと俺は頭をかきむしりながら答える。
「だから、文集ってモノに想い出を併せたいから安芸は頑張ってんだ。そりゃ仲
直りもしたいだろうが、それは文集があってこそな訳だ」
だから茉白の認識は誤っている。と俺は少し荒い語気で主張する。
それでも彼女はなんでもない様に、動じずに続ける。
「うーん。でも、文集なんて来年でもいいじゃない?」
「だから、文集がないと部がなくなるんだって。依頼しにきた時に安芸が言ってただろ」
「知ってる。でも別にそれってあんまり関係なくない?」
「は?」
全く要領を得ない会話に、ついに俺は堪えられなくなった疑問符が口からこぼれてしまった。
さっきから言葉が通じているようで噛み合ってない、そんな感じだ。
けれど茉白は別に素っ頓狂なことを言っている気はないようでしっかりと俺の目
を見つめながら当然だと言わんばかりに言う。
「だって、この高校には同好会があったよね、確か。なら、同好会として活動を続ければ文集として想いを形に残すことだってできるよね?」
それは思ってもいない提案だった。
文集と文芸部の関係修復。これが密に関わっているのは他でもない、その納期の
せいだ。安芸の個人的な想いとは別としても、文集は学校からの指示で作らなけ
ればならない。なぜなら文集ができなければ文芸部は活動を認められず廃部にな
ってしまうからだ。
けれど文集作りは部員に課すウェイトも重いわ締め切りも短いわで親友であったはずの仲にヒビが入り始めた。
・・・なら、
――――もし、ここで文集を作る理由がなくなれば?
つまり彼女らが揉めるきっかけになった文集という障害が消えれば?時間は必要かもしれないがおそらく以前の親友と言われる状態に戻るだろう。
嫌なところを見ても交友関係を保とうと思えるのがきっと親友と言われるものなんじゃないだろうか。
しかしまだ一つ茉白の意見には疑問点が残る。
「でも、安芸の言い方からして歴史と実績ある文芸部を潰すことに賛成するとは思えないが。それに安芸でなくとも自分の所属してる嫌いでもない部を潰すのは躊躇うだろ」
そもそも部を存続したいからこそ安芸は文集作りに奔走しているのだ。俺らが提案したところでハイハイと従うのは想像し難い。
「部が続くかどうかは安芸さん達じゃどうしようもないよ。適当に文集作ったところで先生に却下されそうだし、もう意思は関係ないよ」
「辛辣だな・・・」
「意地悪で言ってるんじゃないよ。事実だよ」
茉白の言うことは正しい様に思われる。
ただ、茉白のシナリオ通りに文芸部を動かすにはやはり安芸達を説得しなければならない。なんせ文芸部は今年時点では彼女達のものだ。
・・・いや、きっとこのままでもおおよそ茉白の言った冷たい事実の道を辿るだろう。なんせ廃部にしないための一次条件である文集の完成すら危ういのだから。
一番考えられる最悪のパターンはなんとか納期までに身を削って頑張った結果、その出来が先生の要求ハードルを超さず却下され、文芸部に残ったのは精神を削って無理をした代償に得た不和のみ。というパターンだ。
まさに徒労。なんなら無益どころかマイナスすぎるほどだ。
俺はどうすれば文芸部の部員に、文芸部を潰すように説得できるか。という一見チグハグにも思える方法を考えるが、一向に光明がさす気配はしなかった。
すると
「部室行こ?」
そう言った茉白は俺の袖を引っ張るので、半ば強制的に俺は廊下へと導かれた。
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