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見せかけだった日々のヒビ

それは、俺が安芸の文集に対する熱い思いにある種の憧れの念を抱き、初対面の文芸部員に釘を刺された数日後のことだった。


文芸部の衝突が落ち着きを見せたため空き教室に顔を出していた朝日だが・・・


「来ないね」


茉白は隣の空席を見て呟く。


昨日は来ていたし、別にここにくるのは義務でもないことを考えれば特段おかしいことでもない。


「なんか用事でもあるんだろ。ようもなく駄弁るためにここにくる俺らが珍しいだけで」


「うーん。だといいんだけど」


不安になるような物言いの茉白をチラリと見ると、彼女と目が合う。不意に嫌な予感がしたので咄嗟に顔を窓の方へーー


「気づいてるんじゃないの。依頼の件で何かあったんじゃないかって」


「・・・別にただの用事だろ」


この件に関してはもう終わりにしよう、言外にそう伝えたつもりだが茉白は容赦なく詰め寄ってくる。


「もう文集の締切まで1週間もないのに?朝日さんは真面目だからきっと良くなさそうな進行状況を見て手伝いに行ったんじゃないのかな」


茉白は根拠もない予想を当然の事実であるかのように話し続ける。俺はただそれを気にも留めていない感じで聴きながら、適当に反論をぶつける。


「自分の憶測だけで相手に期待するのは良くないぞ」


「別に全員にいつも期待してるわけじゃないよ。・・・ね?」


「やめろ、なんでこっち見てくるんだ。こう言う時だけ可愛く小首傾げるのやめろ」


シッシと手で払うと茉白はいつもの様子に戻って言う。


「でも、安芸さんもなんで文集作りにそこまで本気なんだろうね。理由は聞いたけどいまいちピンと来ないっていうか」


「別にお前が本当の理由聞いたところで理解できねーよ」


「なに、その言い方。色見くんは理解できたのかな?」


理解と一概に言っても、相手の考えをそう言うものとして単に呑み込むと言うのと、共感を持って納得すると、色々な理解があるだろう。


・・・俺がしたのはあくまでも前者の方だ。


なんというか図式とかを見て、どこがどこに繋がっているのかわかってもその機構まではわからない。ましてや自分で一から作ることはできない。みたいなもんだ、多分


「安芸にとって大切な文芸部での思い出を残したいんだとよ。本気なのはそこまで文芸部の事が好きだからだろ」


「そっか、それは私たちにはわからないね」


「俺まで無感情なやつ扱いしないでくれ・・・」


川霧には麻耶や藤堂が、朝日には学校の友達が大切なように、安芸にとっては井伊静、新井花との文芸部そして彼女らが大切なのだ。


・・・・やはり俺には未だ想像のつかない感覚だ


「憧れはするけどね、そういうの」


「なんでだ、頭の先から爪先まで『普通』の茉白さんには友達くらいはいるだろ?」


「・・・友達『くらい』もいない色見くんが偉そうなのはなんでかな?それに、友達はいるけどそれとこれとは別だよ。友達との思い出を残したいと思うほどみんなが特別かと言われるとちょっと微妙だし」


忌憚のない意見に俺は思わず笑ってしまう。


だからと言って別に茉白が友達を嫌いなわけでも、仲が良いふりをしているとかそういうわけではないだろう。


これまでも普通に友達がいた。それはこれからのコミュニティーでも変わらないはずで、だから彼女はあえて思い出を保管しようだとか、美化しようだとか思わない、きっとそういう話なのだと思う。


「そもそも友達とか双方向からなる矢印の事だからな。相手がどう思ってるかわからん以上自分の思い込み、嘘っぱちって説も否定できん。なら一人の方が幾分か安定的だしな」


「多分だけど、私の言いたいところと違う解釈してないかな?それに確かめなくても分かるくらいの関係が親友なんじゃないかな」


茉白は不服そうな声色で反論するが、俺はそれを聞き流したふりをする。


友達すらわからない俺に親友なんてもっと分かるはずもない。俺は基本一人で自分よがりだからな


だからこそーーー俺は小さくため息をついて言い聞かせるように言う。


「この件は、朝日さんの方が適任さ」


だから俺の出る必要はない、と。


だって俺には、その「想い」がわからないから。


・・・きっと俺は、気づかずに彼女らの大切な何かを踏んづけてしまう気がしてならなかったから。

少しでも続きが気になると思ってくださる方は、ブクマ、評価等で応援してくださるとありがたいです;;

してくださると、うれしすぎて筆者が小躍りします

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