表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
43/150

去る者は追わず来る者はおらず

川霧は本当に手伝う気はないらしく、安芸あきの紹介だけ済ますと用事があると言って空き教室を後にした。


よって残されたのは今回の依頼に指名された俺と朝日、そして川霧と入れ替わるように俺の隣に座った茉白の三人と、今回の依頼主である安芸を含めた四人となった。


未だ納得いってない俺は絶対に自分から厄介ごとに足を突っ込まないぞと意を決し、口を閉ざしているので朝日が気まずそうにしている安芸に優しく話かける。


「えっと・・私たちって何をすればいいのかな、安芸ちゃん」


「そ、そうですね・・・文集作りを手伝ってもらえれば・・・。あ!といっても皆さんに詩を書いてもらうとかではなくて、みんなの目的意識がそこに行くように促してほしいというか・・・」


「・・・別に、他人の俺たちが行っても効果ないだろ」


俺のぶっきらぼうで容赦ない意見を安芸も少しは考えていたのか、痛いところをつかれたといった感じで顔を伏せる。その様子はさながら小動物だ。


俺が安芸のその様子を尻目に見ていると隣の茉白さんがほんの少し呆れたように、俺にだけ聞こえるように、体を寄せ小さく言う。


「やりたくないからってお客さんに失礼しないの」


「・・・そもそも茉白さんは裏生徒会でもないだろ」


「仲間でしょ?」


「・・・」


俺は話にならんと今度は朝日を見る。俺の視線を受け、朝日は安芸に話の続きを求める。


「具体的にはどうすればいいのかな。みんなの仲をとり持てばいいの?」


「そ、それができればいいんですけど、きっと難しいと思います・・・何せ最近顔を合わせていないので・・・」


「何が原因なんだ?」


俺の疑問に安芸はぼんやりと、確からしいものを持たずに応える。


「なんでですかね・・すれ違いというか、認識のズレが積み重なった感じ・・ですかね・・」


「何に関しての?」


「活動に関して、です。差し当たっては文集について、でしょうか」


文集、とな。


聞きなれないワードに俺と朝日は目を丸くして安芸を見る。俺はてっきり部員同士のすれ違い的なものかと思ったが、どうやらそこまで単純な話ではないらしい。


一体どういうことなんだろうか・・って、いかんいかん。少し依頼が気になっちまったが、俺はこの依頼に手は出さないと決めたのだ。


先っちょだけでもダメ、絶対。


俺たちの表情を受け、焦ったように安芸は説明を付け足す。


「え、っとですね、私たちの高校の文芸部は部員は少ないんですけど、毎年コンクールで全国に出るくらいの実力ある方々が毎年数人は所属されてたんです。この周辺の高校だと全国にずっと出ていたのは私たちの高校だけっていうのもあって高校文芸では私たちの学校の文集は一目置かれてるんです」


秋の話を聞きながら、文芸部がそんな実力のある部活だったのかと関心しながらも、俺は自分の記憶を辿った末に浮かんだ疑問を口にする。


「でも、今年そんな文芸部が全国に行くなんて話を聞いてないんだが」


単に俺に友達がいないからそういった他の部の話を聞いていないだけかもしれないが、この学校では全国出場をした部活動はその部員の名前とともに文化部運動部問わず垂れ幕がデカデカと出ることを考えれば俺が知らないというよりは出ていない可能性の方が高い。


いやでも目に入る程に大きな垂れ幕に文芸部の名を見たことがないからこそ、安芸から聞いたこの学校の文芸部は実力があるという話に驚いたわけだし


「えーと・・・申し上げにくいんですが、私たちの作品は全部予選落ちでして・・」


それを聞いて俺はやっぱりかと納得しながら、申し訳なさそうに下を向いて手を遊ばせる安芸に若干の申し訳なさを覚える。考えればわかったことを、本人が気にしているであろうことを聞いてしまったことによる気まずさが教室に広がる。


そんな空気を感じたのか朝日は焦ったように


「いやいや!私からしたら小説書けるだけすごいっていうか!600文字の作文ですら私書けないし!」


フォローになっているのか恥を晒しているだけなのかよくわからない発言をする。


けれどその朝日の優しさ(?)を受けてもなお安芸はしたを向いたままだ。


俺は依頼解決に助力する気はないはずなのに何も言い出さない安芸にわかりきったことを確認するように呟く。


「・・・だから、せめて文集だけは立派なものにしようってか」


「そ、そうです!」


驚いたように全身をびくりと震わせた安芸は俺の言葉に続く。


「さ、最初はみんなも乗り気だったんです。ただ、やる気だけでいい作品が書けるわけもなく、徐々に文集制作には陰りが見えて来ました。いい作品のためにみんなで読み合って批評をし合ったりしたんですけど、みんな不満が溜まったままダメ出しし合うので言い合いみたいになっちゃって・・それからというもの、文集制作は滞ってしまいました」


苦味を噛み締めるような渋い顔で最後にポツリと呟く安芸。


起きたことは戻らないし、この様子だと問題解決はかなり難しそうだ。もういっそ文芸部の修復なんて諦めて流れに身を任せばいいのではないのだろうか。




・・・どうしてだろう。


苦しんでいる安芸を目の前にしても、なぜか俺はやる気にはなれなかった。


もちろん川霧に押し付けられた仕事だからというのもあるのかもしれない。


にしても俺が俺自身に違和感を覚えて仕方ない。


一体何が「あの時」と違うんだ。




一体何が『文化祭の時に苦しんでいた川霧や朝日』と違うんだ・・・?




あの時俺は、一人で背負いこみすぎて自分を責め出した川霧や友達だからと泉のために自分を顧みず身を粉にしていた朝日を見て、“俺にできるやり方“で助けたいと思った。思えたんだ。


それに対して、今は何が違う?


今の俺はどうしてここまで俯瞰というか、第三者というか、冷めた見方をしているんだろうか。


まぁ間違いなく他人事なんだが、それは川霧と朝日に対しても同じことだ。だって俺が朝日と川霧と出会ってからまだそこまで時間が経った訳でもないし、友情なんてものが芽生えていた訳でもない


なのに


どうして、俺は・・・




あそこまで二人ために必死になっていたんだろう。




確かに痒むが、体のどこが痒いのかわからない。そんな気持ち悪さの何所を俺は必死に探すが、やはり見当たらない。


気づけば俺は無言で、じっくり考え込んでしまう。




部の現状に落ち込む安芸と、俺は互いに何も言わないので教室には、重い静寂が立ち込める。


しかし、そんな空気関係ないとばかりに、茉白は空気を読まずに突然質問する。


「文芸部の子たちって元々は仲よかったんだよね?」


「そう・・・だと思います。私と花は共通の親友の静ちゃんに誘われて入ったので仲は悪くなかったと思いますし、文芸部に入ってからも文集作りが行われるまでは仲良しでした」


そっか、と小さく応えた茉白はそれっきり何も言わなくなった。


親友、か。


・・・けれど、別に仲が悪くなった原因は文集以外に何かあるというわけではなさそうだ。となれば文集の完成と彼女らの関係修復はほぼイコールと考えて良さそうだ。


そんなことを考えていると朝日がガバッと立ち上がる。


「ならきっと大丈夫!!安芸ちゃん、私に任せて。仲直りして最高の文集をつくろーよ!」


急な熱の入りに安芸も戸惑いを見せながらもパァっと顔を輝かせる。


「ほ、本当ですか!・・・ありがとうございます」


よほど自分の無力さが辛かったのか、朝日の能天気な宣言に、安芸は両手でその小さな顔を覆っていた。


そしてその様子を優しく見守る朝日の顔は暖かい微笑を湛えていた。


「・・・で、具体的にはどうすんだよ」


その顔は俺のせいで一瞬にしてこわばってしまう。


「仲直りなんてうまくいかないだろ。それに俺たちみたいな他人が働きかけた程度でうまく行くならもう当人たちで解決されてるはずだろ」


「そ、そうかもしれないですけど・・・じゃ、じゃー逆に色見くんは何か案はあるんですか!」


「知らん。俺は今回の件については手を貸す気はない」


「・・・どうしてですか」


「前の泉と同じだ。それに今回はただの部活動だ、本人の前で言うのは忍びないが正直関係ない話だろ」


「もっと言い方はあると思うけどなぁ」


「・・・」


俺は茉白の小言に気づかぬふりをして朝日をチラリと見ると、彼女から終えrに注がれる視線は冷ややかでかわいそうなものを見るようにすら感じた。


「そうですか」


顔を少し伏せて、いつもより低い声でつぶやいた朝日はそれから秋の手を強引に取ると廊下に出ながらこちらに顔もむけず言った。


「いいです。私だけでどうにかしてみますから」


「あぁ、そうかい。この前も聞いたけどな」


俺の悪態に帰って来たのは力強くドアが閉まる音だけだった。


俺はついこの前の文化祭準備と、後夜祭の記憶を思い出すと小さくため息をつく。


あの文化祭準備の件では、泉の依頼を彼女一人が受けると啖呵を切ったのは良いものの、結局は直接的な解決にはならなかったところか、朝日自身の体調に悪影響を与えたのみだった。川霧もそうであったが、朝日だっていつ倒れてもおかしくないほどには自分を追い込んでいた。


・・・なのにまた一人で背負い込むなんて何考えてんだ、あの馬鹿は。


「もー、ずっと隣でため息うるさいんだけど?そんな露骨に構ってアピールされても私困るんだけど」


俺の無意識のため息を呆れたような口調で、そう宥める茉白はつまらなそうにいじっていた携帯を閉じると


「で、どうするの?どうせまた手を貸すんでしょ結局」


「手は貸さないって言っただろ」


「何なら貸すの?」


「・・・お前、性格悪くなったな」


「さぁ?誰のせいなんだろーね」


さっきからなんとなく茉白が小馬鹿にして来ている気がして俺はそっぽを向く。


けれどこれ如きでは、彼女は引かないことは、最近の昼休みでよく知っていた。


「ホントに天邪鬼なんだから。素直になれば良いのに」


「なんで俺が悪く言われなきゃなんねーんだよ」


「朝日さんもだよ」


意外な茉白の発言につい顔を見てしまう。すると不思議そうに小さく首を傾げるのみで、特に深い意味はなさそうだった。・・・そもそもこいつが何考えてるのかなんて無表情だからわかりっこないか。


「とにかく、部活のトラブルだし人間関係のトラブルだしで俺の出る幕はねーよ。せいぜい人付き合いが得意な朝日さんが解決してくれるさ」


そんな思ってもない願いを、俺は口にするだけだった。

すいませんが、少しでも続きが気になると思ってくださる方は、ブクマ、評価等で応援してくださるとありがたいです。

とてつもなくモチベーションが上がります・・

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ