友達の気遣い
放課後、俺はいつものように空き教室に行こうと教室を出たものの、気が乗らず図書室なり自販機なりに寄り道をした。これも、あの文化祭の後の朝日の言葉のせいだろう。
潤んだ目で俺を睨みつけながら全力の罵倒を悲しげに呟いた彼女の顔と声は今でも鮮明に思い出される。それこそ授業中に居眠りでもしようと目を瞑れば、呪われているかのように浮かんでくる。
ようやく空き教室の前に着いたところで、教室の中から微かな声が聞こえる。そしてその足音は近づいてくる。
「じゃあ、私この辺で帰るね!」
「えぇ、さようなら」
「バイバイ」
そして次の瞬間には扉が開きーー
「あ・・」
「お疲れ」
「は、はい。では・・・」
朝日は気まずそうに顔を伏せ、逃げるように小走りで俺の脇を通っていった。
今日もか・・
俺は文化祭後からの明らかな朝日からの冷遇に少し肩を落としながら、けれど気丈に振る舞って席に着く。
教室ではいつものようにノートの見直しをする川霧だけ。彼女は静か、淡々とノートをめくっていく。
ノートの擦れる音だけが教室に響く。朝日がいない教室は、やけに嫌に静かだ。
「いいの?愛人に嫌われて」
川霧は変わらずノートに目を落としながら独り言のように呟いた。
「・・・別に嫌われるほど元から朝日さんとは仲良くないだろ」
「あらおかしいわね?誰も朝日さんのことなんて言ってないのに。何か彼女とやましい事でもあるのかしら?」
この野郎・・・なんて意地の悪いことか・・
川霧にしてやられた俺は頭をかいて誤魔化す。
「別に状況から考えて省略したであろう名詞を推測しただけだ。推測なんだからそりゃ間違えるだろ、そこに俺の意
志はーー」
「はいはい、わかったわよ。そんなツンケンしないの」
言って川霧は急に隣に座っている俺の頭を撫でてくる。
その優しく、慰めるような・・・ザラザラとした感覚と水っけが一切ない変な感覚がーーー
「ってノートじゃねーか!」
「あら、何?手がよかったかしら?」
「べ、別にそう言うわけじゃーー」
「あのー、私もいるんだけど」
振り返ると、いつの間にか教室に入ってきていた茉白が後方に座っていることに気がついた。愛も変わらず影が薄
い・・・
無表情で俺たちを見る茉白に指摘され、ほんの少し恥ずかしそうに川霧はノートを膝の位置に戻すと咳払いをしてか
らいつもの調子で反論する。
「別に頭を撫でることは破廉恥なことではないでしょ。ましてや私は直接和樹くんの頭を触ったわけでもないのよ?
ウブな茉白さんには刺激的だったかしら?」
「人前でやるようなことではないんじゃないかな。それとわざとらしく和樹くん呼びするあたり、なんでそんなに煽
ってくるのかわからないんだけど」
「煽ってなんかないわよ」
なぜかバチバチに舌戦がなされ始め、俺が困惑してそれを傍観していると、川霧は場の空気を切り替えるように立ち
上がって俺を見る。
「まぁ、何があったのかはわからないけれど、もつれは小さいうちに解いたほうがいいわよ。後でもっと面倒になって手がつけられなくなっちゃうから」
「・・・この前まで中学からの不和を引っ張り続けた奴が言うと重みが違うな」
ついこの前のように思われる文化祭のことを思い出して、俺と川霧は小さく笑う。
「そうかもね。でも、あのもつれはあなたがいたから解く事ができた、でしょ?」
「・・・別にお前らの想いの問題だろ」
「そうかもね。でも私たちだけじゃ絶対に解決できなかった。・・・だから、あなたもそうなることを祈るわ」
今度は優しい笑みを俺に向けると、川霧は教室の扉前に立って続ける。
「だから、今度の依頼にあなたの拒否権はないから。よろしくね」
「は?どう言うーー」
「それじゃーね、和樹くん、それと茉白さん」
「・・・バイバイ」
不服そうな茉白の挨拶を向けてから廊下に出る間際に不敵な笑みを浮かべた川霧は、どことなく意地の悪い成美先生のようで、嫌な予感が胸をざわつかせていた。
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