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色見和樹はナルシスト

暇つぶしになればうれしいです

文化祭の余韻もまだ冷めない中、俺は生徒会担当の教師であり、俺たち裏生徒会のボスでもある成美未果に呼ばれ、数学準備室に呼ばれた。


そこは数学担当の教師しか使えない教室であり、大きなソファーとポット、コップあとは数学に関する参考書が棚に並べられていると言うような簡素な空間だ。


その大きなソファーに腰を下ろした数学教師でもある成美未果は股を大きく開き、肘を膝の上に置いて首を垂らし、対面の椅子に座る俺の目を見上げるように言う。


「いやー、文化祭ではお疲れだっただろう。色見」


「ほんとですよ。聞けば泉も藤堂先輩も成美先生に言われて裏生徒会に来たっすけど、俺たちを過労死させる気ですか」


「・・・教師に過労死とか気安く言うなよ?強い言葉を使うと弱く見えるぞ」


「す、すんません」


先生の飲んでいるコーヒー並みに光のない目をされ、俺も流石に言葉に詰まる。先生はいつもの苦いコーヒーを啜ると


「まぁ、意図して仕事を振ったのはその通りだな。と言っても裏生徒会の奴らに、と言うよりも色見、君に仕事をさせたかったんだ」


「・・・そんな俺のこと嫌いですか。俺の信条を知っての行動ですよね?」


「ひどいことを言うな、お前は。私はこれでもお前のことを贔屓ひいきしているんだぞ、感謝しろよ?」


片眉を上げて離す先生は愉快げだった。


俺自身、理由はわからないが先生が俺には特別な接し方をしているのはわかっていたので驚くことでもない。


先生は、今度はその首をしっかりと俺の方に向き直すと改まった声で話し出す。


「面倒なことをしたくない。そんな君の考えもわかる。・・・でもな、色見。君は結局全部を解決して見せた。そうだろ?」


俺はまたしても言葉に詰まった。


全部というのは泉の件、藤堂の件、そして川霧の件だろう。この三つは確かに俺が文化祭を通して関わった依頼ではあったが解決というのはあまりしっくりはこなかったからだ。


「私が仕向けようとした面倒事は全て、君は望んでではないが結果だけ君の行動によって片付けられた。私はそれが嬉しいよ」


「・・・別に、そんなのたまたまでーー」


「嘘だな。私の感を持って全否定しよう、間違いない。まずその証拠に君は会場設営係になった。あれは自分の仕事が楽なら、他の委員、つまりは依頼人を助けられると考えたからじゃないのか?」


「考えすぎです。ただ楽をしたかった、それだけです」


「でも君は楽をしなかった、そうだろ?川霧や朝日がやばそうになる未来を直感して安全策をとった。私にはそう見えたがね」


「・・・どうだか」


「藤堂は川霧の性格を見越し、もしかしたら泉のクセもどこかで耳に入ったから私の元に来たのかもしれない。彼女はきっと自分を追い込む。最悪のせいで倒れるかもしれない・・と。そう考えれば君は藤堂の依頼もクリアしたことになる。その上聞いた話では、二人の仲直りにまで助力したらしいじゃないか。面倒が嫌いな君にしては少し引っかかる」


「だからそれも偶然で・・!」


「極め付けは泉の件だ。本人に手伝ってと言われても表向きの建前で拒否しておきながら、結局は本人の代わりに彼女の仕事をこなした。会計委員でもないのにだ。・・あぁ、君は本当に面倒臭いやつだ!君もその自己矛盾には気づいていたはずだ。でも、問題なかった。川霧や朝日が言い訳になるからな。あの二人のためであって決して憎たらしい泉の助けを受け入れたわけではない。ってな」


「・・・」


「でもなぁ、色見。ここで私はまた引っかかったんだ。どうして最後、あのステージで泉に失敗させたのかって。私は君をシステマチックな人間だと思っている。だとしたら、やっぱりあれはおかしい、やりすぎだ。生徒会のやつに聞くと、君は準備の最終日、下校時刻ギリギリに忙しい生徒会を訪れたそうだな『泉さんの忘れ物があったので届けに来ました』ってな。一枚の紙を持って」


ここまでバレているのかと俺は変に冷静な気持ちで糾弾の続きを待つ。


「お前も気づいてたはずだ。朝日と川霧だって気づいてたんだから。泉は会計の仕事はサボったが文化祭委員としての仕事全てをないがしろにしてたわけじゃない。実際アイツは各クラスに出向いては指示を出したり手が回ってないクラスの準備を手伝ったりと大忙しだったみたいだしな。そんな彼女が一番力を入れていたのが、あの最後の代表挨拶だ。あそこでは例年、特に盛り上がったクラスの出し物を取り上げるがそれを泉は全クラスの出し物分言おうとしていた。みんなが頑張った文化祭でどこか1クラスだけにフォーカスするのは申し訳ないと思ったんだろう。だからこそ各クラスに出向いては一緒に働いた。川霧が先頭に立って周りを導く長なら、泉はみんなと働くことで共感と人望を集める長ってとこか。そんな彼女にとって、何よりも大事だったあのステージを、君は台無しにした」


「・・・」


「あれは、見方が分かれる。一つは、泉の努力の結晶である台本をすり替えた最低なやつ。もう一つは、泉の性格矯正のために自分を犠牲にしたお人好し。どうだ、君はどっちの志であれを選んだんだ。復讐か、優しさか?」


「・・・」


「まるでヒーローみたいだな。困ってる人が来れば助け、意図せずとも君自身の元には面倒ごとが舞い込んでくる。なんだ?意外にも君は誰からも愛される完璧人間にでもなりたいーー」


「そんなんじゃ」


「そうだよな」


「え」


「お前の行動の根幹はナルシズムだからな。おおよそ慈愛だとか優しさとは真反対さ。君は誰かが大切なんじゃない。ただ、自分が大好きで誰よりも大切な、とんでもないナルシストやろう、私は、そう思うよ」


これまで早口だった先生はコーヒーを飲み乾きを潤す。愉快そうに捲し立てていた先生の顔やその口調は確信をしているようで、川霧を助けるだろうと、俺に言って去った時と同じ様子だった。


つまりはあの時と同じで、俺をイラつかせるということでもあった。


成美先生は俺の心を読んだのか、顔に感情が出ていたのかは知らないが、コーヒーカップを優しくテーブルに置くと微笑んで言う。


「私は別に、君のやり方を否定する気はない。それをよく思わないものはいるだろうが、大事なのは結果さ。その点で見れば、今回の君はよくやったと思うよ。お疲れ様」


「・・・ありがとうございます」


「はっはっは!そんなむくれるなよ、色見。私も君に似て悪趣味なのさ。・・・だから、偉そうかもしれないが、君の考えや行動は、私の心積もり通りになってしまう」


机を見て目をふせ、悲しそうに呟いた先生は戻らない何かを憂うような顔色をする。


が、また一度先生は俺の目をしっかりと見る。そこにはさっきまでみたいに影は落ちていなかった。


「だから、色見。せめて、周りのやつは大切にしろ。君は自分のことが大好きで大嫌いだ。だから自分を傷つける」


「まるで俺が面倒臭いやつみたいじゃないですか」


「頭が悪いなー、そう言ったんだぞ?まぁ人間が面倒臭いしなしょうがないさ」


開き直るような態度であっけらかんと言う先生につい俺は、鼻を鳴らしながら


「先生もですか?」


「当たり前さ。でも私もこんな自分が大好きさ」


言って先生は立ち上がる。どうやらコーヒーが切れたようだ。


「もしお前が本当に周りを大切にできるようになれば、自分以外にも大好きになれるモノが出てくるかもな」


「さ、どうだか」


子供の俺には、先生の言っていることがよくわからなかった。

遅れてしまい申し訳ありません

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