霧の正体
暇つぶしになればうれしいです
重い空気の中、空き教室の扉を開けるとそこには誰もいないが、見慣れた景色だけあって沈んでいた俺の心もいくらか落ち着いた。
俺は向き合って座る先輩達に経緯を説明を促すと、またしても藤堂が話し出す。申し訳なさそうに目を伏せながら
「クラスの出し物の提出を急いだ凛が、私たちのクラスに来て委員の子に話を通して出し物を決めちゃったみたいで・・。私たちのクラスでは摩耶が先頭に立ってお化け屋敷をやりたいって意見が多かったの。だから私たちはてっきりそれで決まったのかと思ってたんだけど・・・。ちゃんとした話し合いの場がなかったから委員の子も結局どうしたらいいかわからず凛に流されちゃったみたい」
そう言って藤堂は腫らした顔を見せないよう伏せている麻耶の方をチラリと見て、優しく頭を撫でる。麻耶は鼻を啜りながら、泣きそうな声で子供のようにポツポツと呟く。
「最後なのに・・・。ずっと、楽しみだったのに」
そこにこの前までのカマトトぶった姿はない。一人の可愛らしくか弱い少女として、摩耶はそこにいた。
確かに二年の先輩方にとって、来年は受験ということもあり、今年の文化祭が本格的に参加できる最後の文化祭だろう。思えば、会議室でも泉に自分のクラスの出し物の予定を楽しげに話していた。それほどに楽しみにしていた計画が、クラスでもない年下の生徒に潰されたのだ。道場の余地はあるだろう。
「ちなみに何になったんですか?」
「・・焼きそば」
麻耶は口をとんがらせて呟く。
これまた大胆な・・・。バンドなら解散必至なくらい音楽性が違う。
「私は嫌!絶対に楽しくないもん。後輩くんどうにかしてよ!!」
「そんなこと言われても・・・」
別に川霧がこの前の腹いせとして嫌がらせをしたとは考えられない。彼女に子供っぽいところはあるが、自分の感情で行事をダメにするほど子供ではない。分別ある子供だからだ。
それは逆に、彼女がこの判断に至ったのにはしっかりとした考えがあることの裏付けで、それを俺が破綻させて麻耶の願いを叶えるというのは難しいように思う。
俺が無言で川霧を納得させる方法を考え込んでいると、麻耶が泣いただからか二人からは息が詰まるほどに居心地の悪い空気が流れていて、俺は焦ってつい聞きたかった疑問を口にした。
「・・・あの、答えづらいかもしれないですけど川霧さんと麻耶先輩ってなんで仲が悪いんですか?中等部からの付き合いではあるんですよね?」
しまった、と反射で思った。焦りすぎて余計なことを聞いてしまった。
俺の質問は二人にとっては意外だったのか驚いたようなそぶりを見せるが、藤堂先輩は俺に対し、儚い笑みを浮かべながら自白する。
「中等部、というよりもずっと前から私と凛はよく遊んでたわ。親同士が仲良くてね。で、私が中等部で知り合った麻耶を凛に紹介してそこからよく三人で過ごしてたのよ」
最後になるにつれ力無い声になっていく。初めて藤堂と会った時の力強く、自信に溢れた姿はそこにはない。遠く彼を見ながら呟く彼女は、もう二度とその時には戻れないことを悔いるような、そんなふうに見えた。
「なら、どうしてあいつは二人に邪険なんですか」
「自分を守るためよ」
力強い声で答えたのは麻耶だった。
確信があるように言い放った言葉の理解ができず俺は無言で視線を麻耶にやり説明を促す。それを受け、麻耶は机に視線を落として、何が起きたのか。そしてそれが三人の関係にどれほどのインパクトがあったのか丁寧に解説を始めた。
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