孤高のリーダーは頑固者
「・・・つ、疲れた」
早速会場設営担当としての仕事を一つ終えた俺は、疲労で重たい脚をなんとか奮い立たせて階段を登って、会議室を目指していた。
掃除だけでも真剣にやれば大分苦労するのに、それに合わせて展示のための机や移動壁の搬入などと、普段体を動かさない俺からすればそれは重労働と言って差し詰め問題ないだろう。
すでに藤堂からの仕事を引き受けたことを後悔していると、上の廊下から軽快な足音が聞こえてくる。
「し、色見くん!?大丈夫ですか?」
重い頭を持ち上げると、そこには朝日の顔が。酷く驚いているように見える。
「あ、あぁ。どうってことない」
「にしては顔真っ白ですけど!?」
いつもと同じようなやりとりに心のどこかで安堵しながら、呼吸を落ち着けていると朝日は気まずそうに続ける。
「・・・それにしてもさっきの凛ちゃんと麻耶先輩すごかったですね」
「あぁ。隣で火花散らすもんだから心臓に悪かったな」
「だよね。」
ふふっと小さく笑ったのちに俺たちの間には、またしても気まずい沈黙が流れる。
けれど朝日の方から、どこか行ったりだとか会話を打ち切ろうとしているような雰囲気は感じない。
どちらかといえば、間を埋め合わせるための術がないと言ったところだろうか。
「・・・ところで、泉の件は大丈夫か?」
「は、はい!もちろんですよ!!私がきちんとサポートしますからね!」
言って自信で満ち満ちた大きな胸をポンと叩く朝日。
これだけ見れば心配は無用なように見えるが念のため釘を刺しておこう
「くれぐれも力量を見誤るなよ。完璧にやるなんて考えるなよ。楽をしろ、楽を」
「・・し、死んだ目だ!?」
失礼な。この前綺麗な目って言ってくれたじゃないか。乙女心は変わりやすいようだ、難しい。
「じゃ、俺は荷物取りに行くから」
「あ、了解です!お疲れ様です!!」
明るい声を背にして俺は会議室前まで歩く。
すると、不愉快な、楽しそうな話し声がしたので俺は嫌な予感を覚えながら、扉を開ける。
麻耶と泉が隣り合って談笑しているではないか
他の面々は忙しなくパソコンと資料とに視線を交互させているのでやはり聞こえていた笑い声はあの二人のもののようだ。
「え!先輩のクラスはお化け屋敷するんですか!?」
「まだ決まってないけどね〜。やっぱり最後くらい楽しいものしたいしね」
「いいですね!!是非行ってみたいです!」
聞くものをイラッとさせる甘い声色によいしょする後輩というのは、みているだけで痛ましい上下関係だ。
俺は一際忙しそうにしている川霧に近づいて話を聞こうと話しかける。
「これ大丈夫なのか?」
「・・・」
はぁ、ついため息が漏れてしまう。
ただでさえ準備に支障が出そうなのに、俺が藤堂の依頼を受けたせいか、会計の長であろう川霧とも話し合いができないのであれば準備を順調に進めるのは容易ではないだろう。
見ると、川霧の机には冗談かと思うくらいの資料の紙が積まれている。
それをチェックして、数字を打ち込むと、また左にある資料の山から一枚めくって、数字を打ち込んで右に受け流す。
みているだけで神経をすり減らすような仕事だと言うのは理解できる。それだけにこの量を片付けられるのか疑問だ。
すると、ガラガラと席を弾く音がしたかと思うと男子生徒が川霧の元にやってきた。
「川霧さん、1-Cできました。確認お願いします」
川霧は数枚に束ねられた資料に目を通す。それは出し物に関する情報がまとめられているようだった。それを一枚一枚目を通し、何やら考えながらめくっていく。最後のページまで確認が終わると
「ありがとうございます。とりあえず、今のところはこれで大丈夫です。お疲れ様です」
機械的に返すと、川霧はまたすぐに自分の前のモニターに視線を向けてキーボードを叩き出す。
先の男子生徒を見ると、席に戻る際に泉の横を通ると
「あ、仕事終わった?ならこれもお願いできるかな、はい」
「え、でも」
「私この仕事以外に学年代表の仕事もあるんだよね。ごめん、お願いッ!ね?」
「は、はぁ・・・」
泉は両手を合わせ、申し訳なさそうな顔でウィンクをして整った顔をいじらしく崩して見せる。
その男子は渋々押し付けられた資料を手に取り、やや不満げにけれど強い反発は見せず席に戻っていった。
泉のあの様子は人に仕事を託すことに慣れているといった感じに見えた。自身のことを目立つタイプだと自称していたが、そういうタイプであれば今回のように仕事を任されることもあっただろう。
リーダーには二つのタイプがある。一つは自分が先頭に立って仕事をこなし、背中で語るようなタイプ。もう一つは、人を使って任務の成功を図るタイプだ。
別に後者が悪いとは言わない。一人でなんでもできる奴はいないだろうし、人を使う以上人間性や社交性なりが突出していない限りそれは人使いが荒い人で、リーダーにはなり得ない。
前者が川霧で、後者は泉だろう。
現に川霧は今も行き着く暇もなくタイピングをしているその手は止まる様子はない。見る見るうちに左に積まれていた資料の枚数は減っていっている。男子生徒が仕事の内容の確認を川霧にしたことからも、この会計の場では川霧はリーダーとして認識されているようだ。
一方で泉も、適度にパソコンで仕事をしながらも近くの人に仕事を依頼しては、その資料の数を減らしていっている。
取り組み方も、リーダーとしてのアプローチも正反対の二人が相見える会議室は歪な緊張感が立ち込めていた。
「頑張りすぎんなよ」
俺は懸命な孤高のリーダーに声をかけ、廊下に向かう。
川霧から、返る言葉はなかった。
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