先輩の甘い罠
「さ、入って」
そう言って藤堂は本館にある会議室の扉を開ける。そこは他の教室よりも大きめな間取りで生徒会と文化祭委員のメンバーが入るには十分すぎるスペースだった。
けれど、一瞬で俺の視線は酷く目立つ青髪へと吸い寄せられる。
泉の隣でこちらと一瞬目が合うと気まずそうに視線を外す朝日を見つけたからだ。
あいつ、本格的な手助けまでする気なのかよ・・
もうほとんどのメンバーは揃っているのか用意されている椅子に余りはないかと部屋中を探すと
・・・うわぁ
きっと俺は渋い顔をしたことだろう。だって唯一空いていたのは、他でもない川霧の隣だったのだから。
「うっす」
「・・・」
これまでは顔を合わせれば、軽い毒と一緒に挨拶をしてきたものだったが、どうやらもう違うようだ。
川霧の悪態に気を害していると、最後に入ってきた藤堂が司会のように場を回す。
「では、時間になったので始めます。まず、委員の子たちは会計や会場準備、当日の見回りや演目の進行補助などをやってもらいます。あくまでも生徒会の補助的な役回りなので気軽に挙手してください」
微笑みを浮かべながら、簡潔に説明を進める藤堂の姿はいかにも優等生と言った感じで、生徒会役員とはこうあるべきと言った人物像を体現しているようだった。隣にいる有毒役員とは雲泥の差だ。
生徒会役員の頼もしさに、会議室のかしこまっていた空気が温かく緩んだ、その時だった
「えー、でも今年って準備期間短いし私たちをかなり厳しい感じじゃな〜い?」
鼻につく甘ったるい声は、会議室にいる全員からの注目を集める。
見ると、暗めのピンク髪をセミロングにしたその女生徒は肘をつき、意地悪そうに顔を歪めていた。
「麻耶、私たちが率先して仕事しないと示しが」
「でも、私たちだって文化祭楽しみたいじゃん。それに2年生は今年が実質最後な訳だしさ」
麻耶は「だって」と言いながら机上に置いていた腕を対面の机の方に伸ばす。そこには一年の委員が座っている。
「一年生にも頼もしそうな子いるじゃん。ほら、あの短髪の女の子とか。いかにも真面目そうだし。ね、君できるよね?少しくらい難しい仕事も」
「わ、私ですか?」
「うん。確か名前は・・・奈々ちゃん。だっけ?生徒会委員の選挙にも出てたよね?あの時から君は頼り甲斐がありそうな優等生だなって思ってたんだよね。どうかな、お願いできる?」
「は、はい。是非やらせてください!!」
泉は優等生という単語を聞くと表情を一変させ、名乗り出た。
「ありがとね〜。期待してるよ、奈々ちゃん」
麻耶はその様子を見て、またしても意地悪そうな顔で笑った。そして彼女は続ける
「あ!そうだ。一年生もするんだしさ、2年の委員会の人たちも・・」
「いい加減にしてください」
冷たい声は静かにけれど確かに怒りが込められていた。俺の隣の川霧は麻耶の方を見るでもなくつまらなそうに目を伏せている。
「なに?凛ちゃん急に」
「今日は委員の役割決めをして、係によっては今日から急ぎでクラスから提出された資料をまとめないといけません。事前に持った生徒会での話し合いで言ってなかった案を提案するというのは進行の妨げになります」
「えー、私の案却下するの?」
「保留にするだけです」
「うっそだー。そうやって私のこと無碍にして。ひどいな〜」
愉快そうに視線を送る麻耶とあしらうようにあくまでも理性的に会話を進める川霧は、会議室にいる他の面々には対照的に写っているだろう。生徒会のメンバーですらこの事態に苦い顔をして時が事態を収拾するのを待っているようにも見えた。
そんな中でも明るい声で和まそうと痛ましい努力を見せるのは藤堂だった。
「えっと・・・とりあえずあらかじめ決めていた役割を皆さんに振り分けようと思います。なのでやりたい仕事に挙手をしていってくださいではーーー」
改めて開かれた会議に二人が口を挟むことはなく、つつがなく進行していった。
俺は楽そうな会場準備の役職を無事にゲットすることに成功した。
それだけが理由ではないが、暇であることは望ましいからな。我ながらニート適正の高さが恐ろしい。
役割ごとに分かれて生徒会から担当ごとに説明を受けるために部屋を分かれる際、会計係になった泉の肩を叩いて笑いかけ、会議室を後にする麻耶の姿を俺は見逃さなかった。
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