成長もせず、回り続ける
体育館にたどり着くと、もう二人の演説は終わっているようだった。
投票のために三年から順に投票スペースに移動しているようで、俺はどうすればいいのか立ち尽くしていると、成美先生に手招きをされ俺は投票スペースに。
投票用紙には
『川霧凛』
『泉奈々』
そして、斜線で消された『朝日凪』の名前が。
「朝日・・・」
その欄を見て俺は苦い味が口に広がる。
後ろにも人が並んでいるため早くしなければと思いながら再び用紙の氏名を見る。
意味もなく浮かんでくるのは、これまでの裏生徒会での日々。
「・・・よし」
俺は小さく呟いて、投票を終えて体育館を出る。
もうこれで、裏生徒会がなくなることが確実となった。
朝日が棄権して、その上で川霧も何かの間違いで棄権をしてくれれば、なんてうっすらと願っていたが、やはりそんな上手くはいかないのだ。
ずっと前から、こうなることは知っていたはずだ。
そもそも立候補者が三人の時点で、確率的に朝日と川霧の内少なくとも一方が生徒会長か副会長になりやすいのだから。
だから、きっとこれまでの日々はただの現実逃避だ。
日に日に望まない瞬間が近づいていることに気づきながら、自分ごときの力で何かできる訳がないと気づきながら、それでも『何かをしている気になって』不安をやり過ごしてただけに過ぎないんだ。
俺はクラスで一人だけ早く投票を終えたその足で自教室へと向かう。
依然がらりとしている自教室に着くと教室の後方を一瞥してから自分の鞄を取る。
“あの場所”に向かう道中、俺は周囲を見渡す。
廊下の景色、窓から見える景色、空模様
そのどれもが既視感に溢れていて、そうであることが当たり前なように思えた。
けれど、それでいて、そのどれもが、もう二度と見ることができないものなのだと、俺はここまで来てようやく理解したのだ。
そのことに気づいた時には、俺はもう、立ち尽くしかできなくなっていた。
俺のこれまでは、振り返らなくともわかる。もう何度も見たことがあったから。
俺へと続く人影は、いつもひとりぼっちだ。
☆☆
空き教室に着くと、俺はただぼぅとしていた。
気怠さで重くなった頭には、遠くから聞こえる高校生活の音がやかましく響く。
もう誰も使っていないのに勤勉に動く掛け時計を見る。
どうやら空き教室に来て数十分は経っていたようである。
ぐるぐるとどれだけ経っても同じ場所を回り続ける秒針の針にイラついて俺は視線を外す。
そろそろ体育館の側面に結果が張り出される頃だろう。
と言っても、川霧が生徒会に入る時点で俺からすれば結果に興味はない。
もう、どうでもいいことだ
さて
俺は大きく息を吐く。
それはこれからについての憂慮だった。
これまで裏生徒会がなくなってからも朝日と関わりがあったが、今回の件でそれも怪しくなるだろう。
川霧は論外だろうし、茉白にしたって特別な案件がなければ関わるようなことはない。
「つまり、完璧に振り出しですか」
俺はひとり、がっくしと大袈裟に肩を落とす。
まぁけれど、今日までが異常だったのだ。そう考えよう。
むしろこれからは一人だけの世界に閉じこもれるのだ、引きこもりの俺からすればこれ以上ない褒美である。
周囲から何を思われるでもない、ただ無関心。
それでいいのだ。
「だいたい好きの反対は無関心とかバカだろ、好きの反対は嫌いだっての」
つまり無関心is最強と言うわけだ。
青春の蚊帳の外にいる俺に、正負どちらかに昂った感情が向けられていたあんな日々が、おかしいのだ。
そんな風に一人で自分を納得させていると、嫌な音がした。
心臓が止まる思いだった。
俺は反射で扉に目をやる。
そこには一つの人影がこちらを睨んでいた。
「あなた、何をしてたの」
激怒に染まった川霧の表情を見て、馬鹿な俺は何度目かの事実を思い出す。
もう昔には決して、戻れないのだと。




