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後悔先に立たず

控えスペースには、俺だけが残った。

 何をするでもなくただ壁にもたれかかっていた。茫然自失とはこういうことなのだろう。


 幕の向こう側では生徒たちの、選挙が中断されたことに対する愚痴じみた騒ぎが聞こえる。それを意味もなく、何を思うことすらできず聞いていると裏口が開いた。


「あなた、何をしてるの」


 冷たい声は、震えていた。

 それは友達の夢が踏みにじられたことへの悲しみからではない。

 怒りでだ。


 声の方を向くと、川霧は俺を見下すように見つめている。

 

 何か言わなければ。

 そう思うがうまく言葉が出ない。


「お、俺は」


 パンっ!

 大きな音が耳のすぐそこでなる。刺すような冷たい痛みが頬に染みる。


「あなたは、何をしていたの」


 川霧は瞳に涙を宿しながら、より震えた声でつぶやいた。


 その声が耳にずっと残ったままで、俺はぼんやり床を見つめたまま答えを探す。けれど、ずっと耳鳴りがするだけで、その答えは見つからない。

 一体俺は、あいつに何ができたのか。


 思えば俺は、朝日には何もかも貰っていたばっかりだったのかもしれない。

 ふと浮かぶのは屋上での記憶だった。


「その、わるか–––」

「黙って。・・・聞きたくない」


 再びの明らかな拒絶。


 川霧にはもう、俺の言葉は届かない。そう悟ってしまうと、物悲しさが胸をいっぱいにする。

 俺に背を向けた川霧は、冷たく言った。


「あの子が、あなたを呼んで欲しいって。」


 大きく息を吸う音が聞こえる。まるで何かを抑えるような、そんな呼吸。


「・・・早く、出ていって」

 

 あぁ、そうか。

 振り絞った川霧の声色を聞いて、俺は気づく。


 俺は川霧の脇を通りすぎ、足を引きずるようにして扉に向かう。


 

 そうか

 俺は選択を、間違えたんだ。

 それはきっと、何を選ぶかじゃない。

 

 選ぼうとしたことが、間違いだったんだ。

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