夢散る時はあっけなく
六限の終わりを告げるチャイムがなる。
『選挙管理委員会です。生徒の皆さんは、そのまま体育館へと向かって下さい。立候補者の方々は、裏口からお入り下さい』
事務的な淡々とした読み上げに、生徒は気だるげに移動を始める。
俺はその様子を落ち着かない心地で見ていると朝日は俺の横に立つ。
「私たちも行きますか」
「・・・。あぁ」
俺は朝日の表情を見て、頷いた。
さらに俺の胸は、締め付けられた。
☆☆☆☆
裏口から体育館へと入ると、そこは舞台裏のスペースへと繋がっている。
そこでは既に泉と川霧が言い合っていた。
・・・いや、泉が一方的に粘着してるみたいだ。
俺が周りの様子を眺めていると、川霧が朝日を見てやや怪訝そうな顔をしていること気づく。すると、次は川霧が俺を見る。
それはつまり俺と目が合うと言うわけで。けれどすぐにその視線は外される。
・・・なんだよ、感じ悪いな
自分の中で悪態をついていると、まだ幕が下がった状態のステージ上から、選挙委員と思われる女生徒がひょこっと顔をだす。
「それではそろそろ幕が上がります。順番は朝日さん、川霧さん、泉さんの順です。それでは頑張って下さい」
簡単な説明が終わると、俺は右の袖が引っ張られる。
「朝日?」
「・・・すいません」
俯いた朝日の表情は見えない。ただ、頼りなさげなその声に、俺は何も言うことはない。
そろそろ出番か。
そう思った瞬間、低い駆動音が。
ここから見えるステージには、徐々に向こう側からの光が差し込んでくる。
『それではこれより、生徒会長選挙を始めます』
続くのは簡単な会長と校長による挨拶。
これで、二宮先輩も会長退任か。
全く出鱈目な人だったし、どちらかといえば面倒な人だった。
けれど言動の節々から、俺と向き合ってくれている感じがして憎めない人だった。
本当に俺は、ダメな後輩だ。
そう、これから起こる未来を想像しては自嘲する。
『それでは、朝日さん。応援演説者の方は登壇をお願いします』
おい、俺の名前は!?
でも言ったとこでわかんないし、変わらないか。
そんなことを思いながら階段へ向かう。
「あ、朝日?」
「・・・はい」
力なく頷く朝日。
さっきよりも強く、体重のかかった袖に違和感を感じる。
ふっ、とその重みがなくなると、朝日は俺の前に立つ。そして階段を上がる。
朝日、そして俺がステージの側から出ると、多くの生徒がこちらを見ている。
まぁ当たり前なんだけど、緊張する・・・。
朝日は壇上に立つ。
ふう、と朝日の小さな息をマイクが拾う。
その息遣いが、俺に胸騒ぎを巻き起こす。
俺が朝日の方を見ようとした、ちょうどその時。
バタン、大きな音がした。
「あ、朝日!!」
俺は、床に倒れた朝日の元へと、駆け出す。
赤みがかった朝日の表情を見た時に感じた嫌な予感。それが思い出されたように背中を這いずり上がってくる。
「朝日、朝日!!」
俺は呼びかけるが、彼女から返事はない。
朝日はただ、苦痛に顔を歪めている。
光が当たっていたステージは、再び暗闇へと戻る。すると保健の教師が慌てて出て
くる。
朝日の近くに膝をつくと落ち着いた口調で言う。
「風邪かしら。ここ最近気温差激しかったものね」
先生は俺の顔を見てから悩んだように言う。
「誰か女子でもう一人肩をかせる人はいない?」
「私が行きます」
川霧は颯爽と現れると俺の方へとやってくる。
「どいて」
「あ、あぁ」
圧に負け、素直に従うと、朝日は両肩を川霧と先生とに支えられ、階段を降りていく。
俺はただ、ずっとその背中を見ることしかできない。
こんな大事な時でさえ、傍に居てやれないのか
どれだけ明かりを探しても、見当たらない。
もう幕は、下ろされているんだから。
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