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悪寒

 生徒会選挙本番

 

 と言っても、ほとんどの生徒にとっては惰性で暮らす日々の些細なイベントに過ぎない。

 腑抜けた周囲にイラつきながら、いつも通りの廊下を歩いていると、後ろから声をかけられる。


「––––っと、ちょっと!あんた!!色見、待ちなさいよ!!」

「あ?」


 振り返ると少しだけ息が上がっている泉が、俺を睨んでいる。


「なんだ?」

「へっ!?な、何よ、見かけたら声かけることも許されないの!?」


 そんなこと言ってないだろ。まぁ、迷惑ではあるけど


「大体ね、校門あたりからずっと声かけてるのに無視してたのはそっちでしょ」

「え、そんな前からずっと名前呼んでんの?怖いんだけど」

「どぅは!?勘違いしないで、私はあなたに用があっただけだから!」


 俺は事実しか言ってない気がするんだけどもういいや


「で、用ってのは?」

「あっ、えーと、その」


 用があると言う割には煮え切らない泉の要素を訝しんでいると、泉はしどろもどろした後に俺の顔を見ていった。


「顔!顔が変よ」

「選挙当日に誹謗中傷とかキモ座りすぎだろ」

「あっ、違っ、そうじゃなくて!!」


 面白いくらいに大袈裟にリアクションする泉は咳払いをすると、真面目な雰囲気で俺の顔をのぞく。


「なんだか体調が悪そうよ?」

「・・・そうか」


 まぁ別に俺の顔が気だるげで生気がないのは通常通りなので、つまりは元気ということか。


「まっ、まあ?あなたは今回に限れば敵だし、どうでもいいけれどね!今回に限れば、ね。今日は勝たせてもらうわよ!」

「別に今回に限った認識ではないんだけどな、個人的には」


 内心でボソリと呟くと、泉は俺の方を潤んだ瞳で睨んでいた。


「・・・あ、聞こえてたか」

「知らないわよ、バカッ!!いっつも変な顔してるくせに!」


 そう言って走り去っていく泉。

 その背中を見ながら、脳内ではさっきの言葉が反芻されていた。


「期待してるぞ。」


 俺はくたびれているらしい顔をニヤリと歪めた。

 ☆☆☆☆


 教室に入ると、教室後方の朝日は幾ばくかの友人に囲まれていた。

 ・・・選挙なんて生徒の多くは無関心だと思っていたが、それは俺に友達がいないからか。


 人影の隙間から見える朝日は頬を赤くしてそれに対応している。

 その様子を伺いながら俺は自分の席に座ると突っ伏す。


 これでも応援演説者だ。緊張でお腹が痛い。・・・できるわけないのに


「大丈夫?」


 またか・・。そう思いながら顔を上げる。


「茉白、おはよ。どうせ俺は顔が変ですよ」

「・・・自虐ギャグって親密度がないと気まずいだけらしいね」

「・・・で、何のよう?」

「体調大丈夫?」


 そうか、こいつも泉と同じ杞憂か。

 体調はいつも通りに最悪だ


「変わらねーよ。そんなくたびれてるか?」

「・・・いや、そんなに」


 含みのある茉白の言い方に違和感を感じながら俺は体を起こす。


「まぁ、ほら、なんかあったら茉白に言うよ」

「うん。そうして」


 力強い肯定の言葉に俺は小さく笑う。


「それじゃ、頑張り過ぎないでね」

「おいおい、そんなこと言うと俺まじでニートになるぞ」

「今回ばかりは、いいんじゃないかな」


 それだけ言うと、茉白はくるりと席へと戻っていく。


 マイペースな茉白は、今日はどこかソワソワとしているようで、胸騒ぎは治らなかった。

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