甘すぎる帰り道
変に緊張するイベントの後、真面目に選挙準備を終えた俺たち(主に朝日)は片付けを始める。
朝日は筆箱や用紙を入れたクリアファイルを鞄にしまいながら言う。
「あの、よかったら今日は一緒に帰れませんか?」
俺はついさっきまでの空気を思い出し妙に緊張した心地になる。
「あー、ちょっと待ってくれ」
俺は茉白に確認を取ろうとメッセージを送る。
ここ最近は基本的には毎日一緒に帰っているため、きっと今日も図書室で待っているだろうし。
そんな茉白からの返信はすぐにきた。
『いいよ』
なんて淡白な返事。
まぁ、あいつの場合怒ってるとかそんなんじゃなくて、本当に純粋にどうとも思ってないからこその淡白さであることは知っているので、それを確認次第俺はすぐにスマホをしまう。
・・・てか、そもそも俺が朝日と帰るからって怒る筋合いはないわな
「おし、帰るか」
俺が立ち上がり廊下へ向かうと、朝日も少し遅れてやってきた。
「大丈夫でした?誰かと一緒に帰る予定だったんじゃ」
「いや、そういう訳じゃないから心配すんな」
事実茉白と一緒に帰る約束はしていないから嘘ではない。あいつとした約束は、放
課後に図書館で会うことであり、一緒に帰っているのはあくまでも副次効果的なやつだ。
心の中で、なぜか早口で捲し立てる俺に、朝日は楽しげに今日あった出来事を話してくる。
その取り留めない、けれど、だからこその思い出話に相槌を打ちながら俺は思う。
同じクラス内で起きたことが、どうして自分にはこんなにも窓の向こう側のように感じてしまうのだろうかと。
そりゃもちろん同じクラスと言っても、その中で形成される小さなコミュニティによって共有される出来事が変わってくるから当たり前ではあるのだけれど。
はいそこ、お前のいるコミュニティのキャパ小さくない?とか言わない。
ほら、ライブ会場とかでも収容人数デカすぎると音がわかりづらくなるとか言うだろ、アレだよアレ。
スモールメリットってやつだ。
そんな風に誰に対してか言い訳をしていると、俺の袖が軽く引かれる。
「あれ、食べませんか?」
朝日が指差す先には、時々本屋の駐車場の一角で販売をしているクレープ屋が。
・・・うわぁ、カップルか女生徒しかいないんだけど。
「あっ、で、でも。時間できに夜ご飯近いし、や、やめきましょうか。あはは・・・」
ずっと黙っている俺の態度を否定と受け取ったのか、顔の前で両手をパタパタと振る朝日。
まぁ、仕方ないか
「ほら、行くぞ」
「えっ、いいんですか?」
「誘ったのはお前だろうが・・・」
意味がわからないとため息をつきながら、俺たちは列に並ぶ。
「まぁ、ほら。甘いのは好きだけど、俺一人じゃこう言うところ来づらいしな」
「・・・そうですね」
そんな塩らしくならなでくれ。別に気を遣ったわけではなく事実なのに。
例えば一人でスイパラとか行きずらいだろ?そう言うことだ。
あそこって複数人プレイ推奨のダンジョンなんだろうか?全く、最近のゲームはパーティー推奨ばかりで嫌になる。
やけにソワソワしている朝日のせいで落ち着かない俺は、ウィンドウ越しに見える雑誌の表紙などを眺めて時間を潰す。
すると案外早く俺たちの番はやってきた。
「ご注文はお決まりですか?」
「えっと・・・それじゃこの桜クレープで。お前は?」
「えっ、あー、いや、お腹減ってないから無しで」
ん?
「わかりました!少々お待ちください」
んん??
俺は無言で朝日を見る。
「急にお腹いっぱいになったなー、アレーナンデダロ」
人と話すときは目を見なさい。そんなんだと友達できないよ?
俺は脇で顔を背けたままの朝日と共に、クレープの完成を待つ。
「はいどうぞ!桜クレープです」
店員から差し出されたクレープは、季節限定ものでイチゴよりも淡い色合いのクレープになっていて、非常にキューティーな見た目だ。
・・・これ俺一人で持ってるの、なんかヤダな。
俺は商品を受け取ると、適当な日陰に移動する。別に夏でもないので気温を気にしなくてもいいのだけれど。帰省本能だ、しょうがない。
あれから何も言わない朝日は、俺の隣で壁にもたれる。ったく、一体どうしたんだろうか
まぁ気にしてもしょうがない。事実俺は甘党なので赴くままにクレープを喰らおう。
パクリとクレープを口に運ぶ。イチゴよりも酸味の少ない味わいは俺好みでしばらく夢中で食べる。・・・おい、これ限定なの勿体無いって。
そんな俺とクレープの蜜月は、突然訪れた違和感で断ち切られた。
「・・・なんだよ」
「・・・へっ!?あっ、いや。なんでもないですけど!?」
さっきまで人並みに距離があったはずの朝日がすぐそこまで近づいてきていた。
「そんな欲しいなら買えばよかっただろ」
「で、でも!ご飯がありますし」
デザートは別腹だろうに。
パクリと、俺はまた一口。
・・・・。
「あの、近い」
「別に気にしないでください」
「気にするわ!味わおうにも視界の隅にお前の真顔が来て邪魔されんだよ!」
あぁ、もう。糖分がもたらしてくれた平穏が消えていく。
俺はわしゃわしゃと頭をかく。・・・だめだ。今朝の泉の一件から今日は心が落ち
着かん。
「・・・や、やるよ」
「えっ?」
「だから、別に一口くらいなら、いいけど」
「はぁ」
朝日は不思議そうに俺とクレープを交互に見る。
その顔は、ポカンとした表情から徐々に目を輝かせていく。
「ほ、本当に言ってます!?」
「嫌なら、いいんだけど」
「嫌じゃないです!むしろ、その、えーと!」
しどろもどろな朝日はぎゅっと口と目を結ぶと
「いただきます!」
俺の腕を両手で掴み寄せ、クレープを小さく一口。
すぐそこにある朝日の顔。小さく喉がなる。
「美味しいです、これ!」
パクパク、クレープを一気に食べ出す朝日。
朝日も好きな味なのか、興奮気味な朝日。
「これ、おいし––––」
その時、顔の近さに気づいた俺たちは互いに息を呑む。
もう一歩踏み出せば、余裕でくっついてしまう。そんな距離感。
どれくらいだろう。見つめあっていた俺たちは、風が運んできた桜の香りで我にかえる。
「ご、ごめんなさい。つ、つい」
「い、いや。俺もその、悪かった」
互いに別の方に視線を泳がせる。
逡巡してから、クレープを口に運ぶ。
広がるクリームは、どこまでも甘かった。
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