ちょろいんが男とか誰得
ある日の登校中のことだった。
「よろしくお願いしまーす!!」
朝っぱらからうるさいなぁと感心していると、俺の目の前に小さな手が差し出される。
「色見、おはよ」
「あぁ、泉か。なんだ、選挙活動か?」
「あのねぇ、あんた一応朝日の応援演説やんでしょ?なんで知らないの・・・」
立候補者と書かれたタスキをかけた泉がやれやれと言った感じで俺の方を見てくる。
しかし泉の周りには彼女の応援者らしい人は見当たらない。
「結局一人でやるのか?」
「ちっがうわよ!言っとくけどね、私はあんたよりかは人望あんだから。・・・その、ただ朝早くに付き合わせるのは悪いかなって思っただけ」
やっぱり一人じゃねーか
てかなんで照れんだよ。そのポッ、て感じで頬染めるのやめろ。かわいくねーから
「まあ、でも?なんでもあれらしいわよ」
ここまで情報量皆無。
いや、なんだか泉がご立腹なことだけは声色でわかる。
「あー、あれがあれでこれがこうだよな」
「川霧凛様は、なんでもー?お一人で選挙活動するそうですよ??はっ、いい“ご身”分ですこと!!」
今ゴミって言ったか、こいつ?なんで早朝からこいつは自分のネガキャンしてるんだろうか。
「ま、別に勝つのは私だから関係ないけどね」
そう言って泉は再び俺の方に手を差し出すと、
「あんたも、朝日から私に乗り換えていいんだからね」
そう言って強引に俺の手を取って、笑った。
☆☆☆
「和樹くん、和樹くん!!」
唐突な呼びかけで、俺の意識は現実へと戻される。
「もう、大丈夫ですか?一体どうしたんですか、今日はずっとぼーっとしてますけど」
「あぁ、・・悪い」
「・・・本当に大丈夫ですか?最近寒くなってきたし、体には気をつけてくださいね?」
気遣うような朝日の声を聞きながら、思い出すのはさっきまで頭の中で繰り返されていた今朝の様子。
・・・不覚にも、泉に可愛いと思ってしまった。
「はぁぁぁぁあ」
「何なんですか!何があったんですか、選挙準備は一旦お休みします」
「それお前が休みたいだけではないよな?」
「あっ、あったり前じゃないですか!!ほら、何があったんですか、言ってみてください。生徒相談に乗るのも生徒会長として大事な仕事ですから」
「気ー早くね」
「ほら、早く!!」
朝日は変にやる気がみなぎった瞳で俺を見る。
ジリジリとその顔が近づいてくる。
「あー、いや、その」
「その!?」
「・・・泉に手を握られてさ」
「えっ!?」
・・・なんで言ってしまったのか。けれどそんな後悔を抱いたところでもうどうしようもない。
というか握手だ。言葉を間違えた。
俺は後悔する。
だって朝日がワナワナしてるもん。
「え、そ、それは・・・どういう感じで?」
「ほら、朝の選挙活動だよ。あの時に、こう、無理やり」
「へ?」
我ながらキモすぎる・・・。
というかこれだと俺がまるで泉との握手をずっと引きずってるみたいじゃないか。
・・・あれっ、俺ちょろすぎじゃね
悲しい事実に気づいて傷ついている俺の正面では、朝日が何か顎に手をやり、目を
伏せぶつぶつと呟いている。
やがて朝日はバッと俺の方に体を向ける。
そして・・・
「・・・えーと、これは?」
「せ、選挙活動の準備ですけど!?何か問題でもありますか、ないですよね、あるわけないですよね!!??」
「こええよ、あと近い」
「さぁ、早く!!」
俺はあまりの朝日の圧に怖気付いてその手を取る。
ぎゅっと、その俺の手は力強く包まれ、俺は声にならない声を出してしまう。
手に行っていた視線を上げると、夕陽に照らされた朝日と目が合う。
「あはは、恥ずかしいですね」
そう笑う朝日は、より力を込める。
「でも、何だか、安心もして。・・・はは、不思議な感じ」
暖かく、柔らかな感触に頭がパンクしかけの俺は何も言えず、ただ気まずげに視線を泳がせる。
「和樹くん」
優しい声色で名前を呼ばれ、俺は朝日を見る。
小さく笑うと、朝日はその声色のままでちょっとだけ拗ねたように言った。
「今だけは、私をみて。和樹くんは誰の応援してるか、忘れちゃったんですか?」
「あ、朝日です」
「なら!」
朝日はガバッと前のめりになる。
俺の視界には、文字通り朝日しか映らない。
「もう、他の子のこと、考えたらダメですよ?」
「・・・お、おう」
言葉に詰まりながら、なんとか返事をすると、俺の額に細い指が伸びてくる。
そして軽快に俺の額が音を奏でる。
「これは罰です。ちゃんと反省してください」
「悪かったよ」
「いいですよ。もう、チャラですから」
にひりとイタズラっぽく笑う朝日に、俺は胸が締め付けられる。
謎の名残惜しいこの感じは、無性に裏生徒会での日々を、思い起こさせたから。
まだ残る手の中の湿っぽさと微熱は、細やかにその寂しさを慰めてくれてるようだった。
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