依真は静かに激怒した
朝日に一緒に帰ることを打診された俺は、いく先があるからとそれを断ると図書室へと向かっていた。
図書室に着くと、予想通り他の生徒はおらず俺は安心のため息をこぼす。
自習室が一階にあるし図書館で勉強する人は少ないようだ。本を読むことにそこまで精を出している生徒がいないことにも感謝。
「おつかれさま。長かったね」
「そうか?別に俺は何もしてないし、そこまで疲れちゃねーけど」
もちろん待っている人というのは、茉白のことである。
なんでもあの公園で話した次の日にメールで毎日放課後会うことになったのだ。
どうしてそんな面倒を?と聞くと、どうせ和樹くんは一人じゃサボるからとのことで、俺への信頼は絶大なようだった。
「ほら、私も手伝うから出して」
「いや、俺作文用紙持ってきてないぞ?」
「・・・はぁ、軽く私の期待を超えてくれるね」
「お褒めに預かりまして、嬉しいかぎりって痛ったい!?」
グリグリと足先を潰され俺は平謝りをする。
茉白はわざとらしくため息をつく。そして俺に怪訝の目を向ける。
「・・・約束、忘れたの?」
「“裏生徒会を守る”だろ?覚えてるよ」
むしろそのせいでこちらは苦悩しているというのに。
はぁ、と今度は俺の方がため息をつくと
「大丈夫?」
と茉白はほんの少しだけ心配そうに言った。
こいつはこいつで俺に気を遣っているのかもしれない。
「そういや今日、川霧と会ったんだ」
「ふーん」
茉白はスマホをスクロールしながら相槌を打つ。
「正反対だって言われたんだけど、どういう意味なんだろうな」
「さあね」
まるで、ではなく確実に興味がない返事。
・・・本当になんでこいつは俺と会ってるんだ?とりつく島がまるでないぞ
俺は少し悩んでから、ンンッと小さく咳払いをする。
なんというかここまでつまらなさそうにされると、俺のわずかな自尊心が傷つくのだ。
俺でも女子と会話を盛り上げることくらい造作もないということを見せてやる!
俺は心の中で朝日に謝ってから言った。
「なんか、朝日、好きな人がいるみたいなんだ」
「・・・」
俺は恐る恐る茉白を見る。
あれ、これでも無反応ならマジで朝日に色々申し訳ないんだけど
すると茉白は静かに俺を見る。小さな口はゆっくりと開く。
「あのね、そういう話題を人に言うのどうかと思うんだけど」
「おっしゃる通りです」
俺は正座で椅子に座り直す。
「で」
「はい?」
「で、それでどうなったの?どういう流れでそうなったの?和樹くんはどう思ったの?」
「ちょとまて、落ち着けよ!」
心なしか前のめりで質問攻めをする茉白。
まぁこういう話題は女子は好きだしな。人に興味なさそうな茉白も、所詮は人の子。
平々凡々、無個性が代名詞の茉白依真だ。そりゃこの手の話題は好物なのだろう。
「それで、どうしてそうなったの?」
「なんか、朝日が俺に好きな人がいるのかって聞いてきたからさ、俺も答えてから聞き返したんだよ」
「・・・和樹くんはなんて答えたの?」
「俺か?俺はいるわけないだろーって」
朝日も茉白も俺に何を期待しているのか。俺がぼっちなのは今に始まった事ではないのに。
俺の答えに茉白は深くため息をつく。
え?何それ、怖いからやめて
「朝日さんは、なんて?」
「えっと、その人は憧れで、自分とは正反対だって言ってたな。且つ相当に優しいらしいぞ」
俺はクラスメイトの名前すらままならないため、茉白に思い当たる人はいないか検討してほしいのだが、茉白は眉をやや顰めるばかりだ。
「どうだ、思いつく人いるか?」
「いないね、全く。これっぽちも」
茉白は即答する。
優しい?本気で?と小声で繰り返す茉白はどこか話しかけづらかったため俺は黙っておく。
そして訪れる静寂。
俺はどうしたものかと頭を悩ましてから、悩み半分ヤケクソ半分で聞いた。
「茉白は・・・その、好きな人いるのか?」
「いないよ。あのね、人の心配よりも自分の心配をまずすべきなんじゃないかな。和樹くんは人付き合いの経験がないから、人よりも鍛錬が必要なことわかってる?」
「え、なになにこわい。どうして俺ボコられてるの?」
畳み掛けるような口撃をモロに受け戸惑っていると、茉白は自分の荷物をまとめ出す。
そして席を立ち、俺を見下ろすともう何回目だろうか、深いため息をついた。
「ほら、帰るよ」
言って歩き出す茉白を追うようにして、俺も急いで支度をして駆け寄った。
「はぁ、もう少し他の子と話す練習させとくべきだったかな」
茉白は何か後悔するようにつぶやいていたが、それが何のことなのか、俺にはよくわからなかった。




